(後藤文彦の頁) (Retpaĝo de GOTOU Humihiko) (暴走しやすいシステムと暴走しにくいシステム)

落どした場所

Loko, kie mi perdis

この頁さは クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンス バ適用したがら。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この頁の作品は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

細かい話: 2016年以前にこの頁上に公開した作品は当初、 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 2.1 日本 ライセンス の下に提供されていましたが、FAQの 「 バージョン2.1が付与された作品を二次利用して共有する場合は、2.1以降のバージョン4.0のSA(継承)を付与することができます 」の回答に従い、作者の私自身が二次利用する形で「表示 - 継承 2.1 日本」を 「表示 - 継承 4.0 国際」に変更しました (というか、あるバージョンのCCライセンスで公開した作品は、 CCバージョンの更新に伴ってCCライセンスのバージョンを更新していいのかどうか、 FAQにちゃんと書かれていないのでよくわかりません。 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン問い合わせたところ、 「 ご自身の単独の著作物で特に他の方に権利 の譲渡などを行っていないという前提で考えてみると、そのような 作品のライセンスのバージョンはいつでもご変更頂いて問題ないように 思います。   変更前の作品をバージョン2.1で既に入手された方には、 変更は及びませんので、そうした方々はバージョン2.1の条件でも 利用することができるままになります。(変更後に4.0で 提供されている同じ作品を入手すれば4.0でも利用することができる ようになります。) 」 という回答をいただきましたので、問題ないと思います。 )

この頁の作者:後藤文彦
エスペラント版(Esperantlingva versio)
注意

目次

前書ぎ
最初の記憶
幼稚園さ連いでいがいだごど
しょんべもらしたごど
おばあさんの足の裏
おばあさんさ泣いだふり
仙台に向がってTMTK君
マネキン
氷に絵の具の「女の子」
神様に頼んでOKMT君バ懲らしめでもらうべ
同じごど二回起ごってる
ゆべし
おねえちゃん
自転車
プール
給食
A君 (エス訳
お呼ばれ
牛乳飲んでげ
好ぎな人検査 (エス訳
パン届げ (エス訳
待ってろっつわいで
TMTK君どA君 (エス訳
Aに見つかんねえうぢにけっぺ
Aのばか (エス訳
授業参観

長ぐづ
IS君
雪合戦やりすなよ
折れだひまわり
二年生の目標
 ダムがら落ちた
亀さ内臓
波の雪
東屋の夢
一九九九年の夢
息でぎねえ夢
八時二十分の夢
食パン買いさいぐ夢
カーテンの夢
天国の夢
HRTK
三年四組
ぞうりぶぐろ
自習中にウルトラマン
SBT君がねー
ロケットマッハ
お墓の火星人
オオウヂどキムラ
給食当番
落どしたパン
便所覗ぎ
蜘蛛の糸
地獄ど天国ど極楽
子供、生まれる秘密
お墓のお婆さん
かざぐるま
おんぶ
甘え
返して
謝らいん(99/7/1)
どうして私ど喋ってくれないの(99/7/1)

ピーナッツジャム(05/2/24)
無視ゲーム(05/2/24)
追記(11/2/18)
ジャイアントロボ泣ぐのすかや(17/1/4)
チョコ くうが?(17/1/4)
せんせい、のこしていいですか(17/1/4)
糸こん(17/1/4)
鼻息 荒いねえ(19/10/5)
ペキン(22/11/23)


続ぐ.....


 もし分がんね言葉どがあったらば「石巻語辞書」 の頁で調べでけさいん。そんでも分がんねっつうどぎは、 電便けさいん。暇だったら教ぇっから。

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前書ぎ

初稿:一九八九〜九〇年頃。
一九九一年、「天国の夢」までを理世デノンの筆名、「落とした場所」の題名で 第15回 すばる文学賞(*1)に応募し、 千百八十八応募作品中五篇の最終候補作にまで残るが 、落選する(*1  因みに、この回の当選作は釉木淑乃氏「予感」で、仁川高丸氏「微熱狼少女」が佳作である)。 この時の選考経過で、井上ひさし氏と高橋源一郎氏から まあまあ好意的な 選評を戴いたので、参考までにここに引用する。

集英社『すばる』一九九一年十二月号より

(井上ひさし氏の選評より)

『落とした場所』は、子どもが大切と思うことと大人の価値観とのすれ違いを、 仙台地方の方言を巧みに駆使して描き出している。のんびりとした筆使いから醸し 出される諧謔味や、深みのある主題をさらりと書いてみせる文学的姿勢にも好感を もった。しかし、エピソードの構成に、作家的戦略がない。


(高橋源一郎氏の選評より)

「落とした場所」は、さくらももこの「ちびまる子ちゃん」の小説版である。 さくらももこは、自分は物語を作ることができないのでエッセイをそのままマンガ にすることを選んだ旨語っているが、そのエッセイマンガのスピリットを、この 作品はもういちど言葉に返してみたのだ。このスタイルをとることによって、 少年時代をノスタルジックではなく、アイロニカルに描くことが可能になった。 方言の使用や、小説を終わらせるために(「ちびまる子ちゃん」は永遠の小学校 三年生だが、小説ではそういうわけにはいかない)結末に近づくにしたがって 加速していく時間処理も有効に機能しているし文章のセンスもいい。 ぼくの気にいった作品だったが、他の選考委員の同意を得るまでには至らなかった。 ただし、途中で使われている「詩」は不要である。




 初稿では対話文のみが石巻語で、地の文は「標準語」で表記していたが、 一九九七年に「地の文」も石巻語に改め、名詞や代名詞の不必要な性区別は なるべく排除した。

挿話は随時、書き足している。

執筆の動機:

1)子供時代の私は決して何も考えていなかった訳ではなく、実に 色々なことを考えていたと思うが、無念にも それを言語化する国語力を持ち合わせてい なかった。 私が子供なりに「ちゃんと考えて」訊いた質問や、とった行動を、 大人たちは 「子供に特有の変な質問」「子供に特有の奇行」として片付けてしまい、 私を対等の話し相手として取り合うようなことはしなかった。 幸いにも、私は、子供時代に自分が考えていたことの多くを、それを言語化できる 十分な能力を身につける年になるまで、記憶し続けることができた。 大人たちに理解してもらうことのできなかった、「子供時代の私」の「言い分」を 今こそ私はここに代弁してあげたいと思う。

2)私の今までの人生において、子供時代(特に十歳以前)は、手放しで 「しあわせだった」と言い切れる至福の日々であったと思っている。 それ故に、当時の記憶は、自分の記憶の中でも最も貴重な部類に属する大切な 思い出である。年を取るほどに過去の記憶は薄れ、また美化されていく。 そうした記憶を少しでも正確に覚えているうちに書き残しておきたい (老後の自分が懐かしむためにも)。

3)今では「標準語」への同化の危機に瀕している私の母語「石巻語」が 「生活語」として使われていた光景をできるだけ忠実に再現し文章として 記録しておきたい。石巻語の保存と発展のためには、辞書(や文法書)の編纂のみ ならず、豊富な用例集を残しておくことも重要である。 講演やCDや書籍によって津軽弁を紹介している伊奈かっぺい氏(*i)や、 ケセン語の学習書や詩集を出版している山浦玄嗣氏(*y)には及ばないが、 私も自分にできるやり方で少しでも、石巻語の美しさ、ひいては地方日本語の美しさの 啓蒙に貢献したい。 そして「生活語」と言われる地方日本語いわゆる方言の「文学」としての更には 「書き言葉」としての可能性を模索したい。

*i 日本コロムビアの 「伊奈かっぺい・ホームページ」

*y 自費出版ネットワーク 自費出版インデックスに紹介されている 共和印刷企画センター発行の山浦玄嗣氏の著作
『ケセン語入門』
『ケセン語の詩(うだ)』
『ヒタカミ黄金伝説』
『みんなのケセン語(1)(2)』




落どした場所



                       後藤文彦



 世界文学か゚イングランド語文学でねえみでぐ日本文学だって東京「標準」語文学でねえべや。 「標準語」バある一定の価値観の下で習得した(させらいだ)人だぢ さとっては「正しい標準語」で書ぐごどだげか゚美しくて文学的なんだが知ゃね げっと、おいだぢさとっては、 「正しぐねえ標準語」どさいできたおいだぢのコドバで書がいだ日本語ごそか゚ 美(うづぐ)すくて文学的だっつごどだってあんだどいや。 っつうが、民族的風土の中で培わいだ独特の発想だの価値観だのの微妙な意味合いバ言語さ抽象すんのに、 母語以上に正確に適切に表現でぎる言語なんかある訳ねえべっこの。

Resumo:
Ĉi tiu verko konsistas el anekdotoj en la infaneco de la verkisto kaj estas skribita en ria patra lingvo: la dialekta Nipona(japana) de la gubernio Miyagi(la urbo Isinomaki), ne de la gubernio Toukyou(Tokio). Ĉi tiu verko estas tradukota en riisman Esperanton fare de la verkisto en estonteco.



しまった!
しあわせ落っこどしてしまった
まだ子供おぼこの頃だったおん
子供おぼこ最後の日だったおん
んでも ほでねぐなってで
おい気付いでねがったんだおん
ほんとにしまった
今ごろ焦ったってもう遅いっちゃ
見つかんね
見つかんね
おいのしあわせコ
見つかんね
どごさも
どごさも
見つかんね
気付いた時には遅ぇがった
捜し方すら忘ぇでだんだおん


 おいの目的はおいか゚しあわせになっこどだ。おいか゚しあわせだった頃の記憶バ、出来るだげ古い順に並べでぐべど思う。そいなぐ記憶、整理してるうぢに、ひょっとしておいか゚しあわせ落っこどした場所バ見つけらいんでねえがや——って思うんだでば。

 高校の修学旅行より中学の修学旅行のほう楽しがった。中学の修学旅行より小学校の修学旅行のほう楽しがった。 小学六年生の時の遠足より一年生の時の遠足のほう楽しがった 。 小学校の時より幼稚園の時のほう楽しがった。ほんとに楽しがった。


最初の記憶


 記憶の最初はうんこもらしたどごがらだ。おいには「幼稚園さってがらはうんこもらしたごどねえ」っつう記憶あっから、あいづは幼稚園に入る前だ。言葉、喋らいるようになってだがら、恐らぐ三歳の冬だいが。昼間、おいどおねえちゃんどおばあさんか゚こだづさあだってで、おいどおねえちゃんは絵え描いでだ。おいは、どうもおしりの辺りか゚いずいど思った。んでも、このいずさはうんこもらした時のいずさどは違うがら、こいづはうんこもらしたごどに起因するいずさではねっつう確信か゚おいにはあった。つまり、その時のおいには前にもうんこもらした記憶あったごどなっけっとも、今のおいに思い出せるうんこもらした記憶はこいづか゚最初で最後だ。
「なにしたの?」
おいか゚いずそうにしてんのバ不審に思ったおねえちゃんか゚訊いだ。
「あら、HMHKちゃんうんこもらしたんでねえが」
おばあさんはおいバ便所さ連いでいぐべどした。
「ちか゚うでば!」
おいは、この感覚はうんこバもらした時の感覚どは違うんだっつうごどバ必死に主張すっぺどしたげっとも、当時のおいの国語力では無理だった。  便所でパンツ脱か゚さいでみっと、何と! おいの論理的推測に反して、パンツの裏側さおいのおしりの輪郭バ正確に型取りしたうんこか゚ひっついでんでねえが…………
「なんだべ、好かねごだ」
どおばあさんは言った。


幼稚園さ連いでいがいだごど


 三歳の春においは幼稚園さった。その日おかあさんか゚おいバどこがさ連いでぐべどす っから、おいは
「どごさ行ぐの?」
ど訊いだ。んでもおかあさんは、
「いいがらまず、あばい」
っつって全然どごさ連いでぐが教えでけねんだ。注射だいが。歯医者だいが。それとももっとおっかねえどごだいが。大人っつうのはまったぐ不合理な信念 持ってで、その信念の下では子供がら知る権利 奪うごどすら正当化さいでしまうんだおん。  おいの連いでこらいだどごは子供か゚いっぺえいで、何人がの大人だぢの命令によっておいバ歓迎してけだ。だいだったかか゚おいの掌ど足の裏さ緑色の絵の具 塗ったぐって、紙さ押し付けだ。翌日がらおいはこの怪しげなどごさ通うごどになった。


しょんべもらしたごど


 しょんべもらした記憶も一づしかねえ。幼稚園さってまだ一年目のどぎだった。当時のおいは既に排泄の仕方は完全に覚えでだがら、自分か゚しょんべもらすなんつうごどはぜってえ有り得ねえど信じでだし、友達か゚しょっちゅうしょんべもらすのか゚不思議なぐれえだった。おいだぢにとって、しょんべもらしたごどねっつうごどは「誇り」であり、「権威」であった。んだがら、しょんべもらしたごどねえ「選良」であるおいだぢは、「おめえもいづがしょんべもらすど」どお互いにはやし合い、「ぼぐぜってえもらさねえおん」どお互いに否定し合ってだ。  そんなある日、幼稚園で何が「食べる会」みでえなのあって、みんなのおかあさんか゚いっぺえやってきて、何だがうんとハイカラーなごちそう出さいだ。最後の口直しは、濁色か゚がった紫色だの桃色だのでできたプリンだがババロアだがみでえな実にハイカラーな食べ物だった。おいは、見だだげでこの食べ物の味には独特の癖か゚あっぺなっつうごど 見抜いだ。大人であれば、こいなのバ独特の風味か゚あってうめえどがって語んだべげっとも、味覚の発達してねえ子供にとっては五味で表現できねえようなおしゃれな味っつうのは、非常に抵抗か゚あるもんだ。勇気だして食べでしまえば実はうめえのがも知ゃねげっとも、おいは躊躇してだ。そしたっけ、うめえ口直しど睨めっこしてるおいのまわりさ友達か゚寄ってきた。
「なんで食べねえの?」
「こいづきもぢわりいがら」
「えー、おいしいのに」
「がんばって食べでみだら」
「んーん、食べね」
「ほんとに食べねーの、おいしいのに」
「んで食べでもいい?」
「うん、いいよ」  このどぎのおいには——なんとHMHK君はこのおいしい口直しバ食べでえど思わねんだ——どみんなに思わいでんだっつうストア学派的な気持ぢ良さか゚あった。 とごろで、その時おいは既に尿意 催してだ。そんでおいは何回が便所さ行ぐべどしたんだげっとも、便所さへ行ぐために通過しねげねえ台所さ、見だごどねえ大人の人だちか゚いっぺえいで、水仕事してんだおん。その一人か゚おいば見でニコニコしなか゚ら、
「あら、HMHKちゃん、なにしたの?」
ど訊いてしまったもんだおんや。おいの自意識は思わずニヤッとしなか゚ら、
「ん、なんでもねえよ」
ど答えでだ。しゃねくて引き返してきてがら、おら——しまった! ——ど思ったっちゃ。 知ゃねえ大人の人か゚うろうろしてるっつうだげで じゅうぶん 通りにぐいっつうのに、今の人さ「なんでもねえよ」って答えでしまったがら、今度まだ おい 通っぺどしたら不思議に思わいでしまうんでねえがっつう考えか゚ますます おいバ通りにぐぐしてしまった。おら困った。あの人だぢか゚いねぐなるまで待づしかねえ。はいぐ洗いもの終んねえがいや。うー、しょんべつまってー。ちくしょう…………——こいなぐしてかわいそうな おいは生理的にも心理的にも苦しんだ末、しょんべもらしてしまった。そんどぎ「選良」の一人であるOKMTか゚、
「おー、HMHKもついにしょんべもらしたどー」
ど言いなか゚ら実に嬉しそうな顔してだ。OKMTにとっては、おいか゚しょんべもらしたっつうごどは勝利だべし、さぞ扇情的だったごどだべ。おいには衝撃だった。こいなの卑怯くせっちゃ。みんな、おいか゚みんなみでえに排泄の仕方ちゃんと覚えでねえがらしょんべもらしたんだど思ってんだど。いっそなあ。こいな屈辱あっぺが。


おばあさんの足の裏


 おばあさんのうぢで掘りごたつさもぐったりして遊んでだら、おばあさんが危ねがらやめさせっぺどして足ば炭火さ付けでしまった。足袋ば脱いだおばあさんの足の裏は、皮膚さ何箇所が穴、空いでで、そごさ薄紫色の魚のはらわだみでえな袋だの管だのの複雑な組織が露見してだ。おばあさんはニコニコしながら薬、塗ってだ。おいはおばあさんさうんとわりいごどしたど思ったげっとも、そいな気持ちの表現の仕方っつのがさっぱり分がんねくて「いだい?」って訊いだら、おばあさんは「いだいよ」っつってニコニコしてだ。おばあさんはきっと物凄ぐいでんだげっとも、おいが気にしねようにニコニコしてんのだ——おばあさんは立派な人だ——どその時は思った。  おっきぐなってがら、ふとこの時のごどば思い出しておがしいど思った。人間の足の裏さ魚のはらわだみでえな組織なんかある訳ね! どいな火傷の仕方したってあいな見え方はしね。あいづは焼け焦げでもねがったし、水ぶくれでもねがった——皮膚に空いだ穴さ露見した、袋だの管だのの——ちょうど魚のはらわだ状の組織だった。実に不思議だ。っつうごどは、おいのおばあさんは宇宙人だったんだいが。


おばあさんさ泣いだふり


 一人でおばあさんのうぢさ行ぐ途中、おいは転んだがなんかして泣ぎ出した。泣ぎながらおばあさんのうぢの前まで来たおいは、泣いでだの、ばれっとかっこわりいがら、涙ば拭ってさも何もねがったがのように装っておばあさんのうぢさった。おばあさんは言った、
「今HMHKちゃん泣いでだんでねえが?」
「んーん、泣いでねえよ」
「んー、ほーが、んでも泣いだような目してるな」  迂闊だった。おばあさんにおいの泣ぎ叫ぶ声ば聞がいでだどは。もっと離れだどごで泣ぐのやめでおぐべぎだった。別の誤魔化し方、考えねげ。
「んだってぼく泣いだふりしたんだおん」
「あー、ほーが、『泣いだふり』したのが。ほーが、ほーが」


仙台に向がってTMTK君


 おばあさんのうぢさ行く途中に、仙台方面ば見渡せる見晴らしのいい場所があって——仙台はあっちの方にあんだよ——っつわいだのば覚えでるおいは、五十キロも離れでる仙台の町なんか勿論見える訳ねんだっげと、肉眼で見える一番遠いどごが仙台なんだどばり思い込んでだ。仙台にはTMTK君っつう二っつ上のいどごがいで、時々石巻さ遊びさ来た。  ある日おばあさんらいさ行ぐ途中、例の場所で「仙台」ば見渡しながら——ひょっとしてこっからおっきな声で叫んだらば仙台にいるTMTK君に聞こえんでねえが——ど思ったおいは、でぎるだぎおっきい声で何回も
「TMTKくーんっ!」
ど叫んでみだ。何の反応もねえがら、次にTMTK君に会うまではこの実験結果は分がんねなあ——どがど思いつづ、おばあさんのうぢさった。おばあさんが言った、
「なんだ、HMHKちゃん、TMTKちゃんに会いでぐなったのが?」
しまった! まだしても、おばあさんに聞がいるっつうごどば計算に入れねえで行動してしまった。
「んーん、なんで?」
「今、TMTKくーんって、おっきな声で叫んでだんでねえが?」
「んーん、叫んでねえよ」
「ほーが? おがしいな、TMTKくーんって聞こえだげっともな。んで、だいが他所のおぼこがな?」
「うん、ぼくでねえよ」
「あー、ほーが、ほーが」


マネキン


 おかあさんに百貨店さ連いでがいだ時、おかあさんが服売り場で買い物してる間、おいは一人でそごら辺ば探索してだら、じっとして動がねえ人、見っけだ。その人はマネキンなのがも知ゃねげっとも、顔がらは判別でぎねがった。おいはうんと気になってしばらぐその人じっと見でだげっと、さっぱり動がねえがらやっぱりマネキンなのがも知ゃね。 困った。おいはなじょにも気になって確認してぐなった。よっぽど触ってみっかども思ったげっと、そごまでマネキンだっつう自信はねがった。色々考えだ末おいは——もしマネキンだったらスカートの下さパンツ穿いでねえべし、あのマネキンの皮膚の色に特有な艶で人間でねえごどが分がっぺ——ど思って、その人のスカートの中ば頭ひぐぐして覗き込むべどした——ら、いぎなりその人が動ぎだして、隣の店員ど顔見合わせで笑ってだ。——なんだっけ、人間だったんだいっちゃ。御蔭で子供ながら恥ずがしい思いしてしまった。


氷に絵の具の「女の子」


 初恋がいづだったがっつうごどは分がんね。物心ついだどぎがら既に恋愛感情みでえなものはあったみでな気いする。  幼稚園さった年の最初の冬——つまり四歳の冬だいが——。幼稚園の建物(教会でもあんだげっとも)の裏の方さってってみっと、「きれいな」おねえちゃんだぢ(つっても、おいより一づが二っつ年上なだけだげっと)が、絵の具、溶いだ水ば凍らせでおいだのば容器がら取り出してっとごだった。そいな氷の芸術作品ば作んのが当時の「女の子」の間の流行りだったのっしゃ。一番おどなびでで一番「きれいな」おねえちゃんがおいの姿ば認めで言った、
「あら、HMHKちゃん! HMHKちゃんもやる? あー、HMHKちゃんは『男の子だがら』こんなのおもしろぐないよね」
勿論おいはこのおねえちゃんだぢど一緒に遊びでがったんだっげと、そのおねえちゃんのその一言ば聞いだ途端に——こいな「女の子の遊び」なんか興味ねんだ——ど思わいでっつう気持ぢが突然芽生えでしまって、おいはさも興味ねっつうふりしてその場ば去った。


神様に頼んでOKMT君ば懲らしめでもらうべ


 幼稚園のどぎOKMTはまだ結構きかねくて、人のいいおいだのSNちゃんはしょっちゅう三輪車どがの遊ぶ権利ばOKMTに独占さいでだ。  そんなある日、SNちゃんがおいさ言った、
「神様に頼んでOKMT君ば懲らしめでもらうべ」
SNちゃんは園長先生(つまり牧師さん)の子供だがら、なんぼが神様ど関係あんだべおん。SNちゃんはおいば教会(幼稚園のごど)の二階さこっそり連れでった。そごにはキリストさまだのマリアさまだののおっかねえ絵がいっぺえ飾ってあって、うんと無気味だった。おいはSNちゃんの真似してキリストさまの十字架の前さ跪ぎ、手え組んだ。SNちゃんがお祈りば始めだ。
「神様、OKMT君はとても悪い子です。どうかOKMT君を懲らしめで下さい。ばちを当てで下さい。苦しめで下さい…………」  SNちゃんはいい子だったげっと、この時のSNちゃんば見ででおいはなんだがぞっとしたの覚えでる。それ以来、おいはあの二階さは決して入んねがった。


同じごど二回起ごってる


  三歳頃がら四歳頃にかげでが、四歳頃がら五歳頃にかげで、大体一年ぐれえの周期で非常に似だごどが繰り返さいでだの覚えでる。そいづはどいなごどがっつうど、例えばこいなごどだ。ある日、おいどおかあさんどおねえちゃんどでお昼ごはん食べでだ。おがずは確かコロッケどメンチで、メンチはちょうどそのころ流行りだしたばりだった。おねえちゃんがおかあさんさ訊いだ、
「メンチどコロッケってどご違うの?」
「んだね…………」
満足な答え得らいねえがらおねえちゃんが自分で答えだ、
「コロッケは中にじゃがいもってっけっとも、メンチは中に肉 ってんだっちゃ」
おいは「まだだ」ど思った。こいっと同じような昼ごはん時に、おねえちゃんが同じごど言ってだの前にも聞いたごどある。「まだだ」っつうのは、もう忘ぇでしまったげっと、こいづに限らずこいなぐ同じごどが他にもよく起きてだんだ。んだがら、思わずおいはおかあさんさ訊いだ、
「なんか、このごろ、昔ど同じごど起きてんでね?」
「え、なにす?」
「たどえばさ、前にもこいなぐお昼ごはん食べででさ、おねえちゃんメンチどコロッケどご違うが分がるどがって訊いだっちゃ」
「え、そすかいや、私そんなごど言ってねえよ」
大人っつうのは、子供の言わんとしてる深い意味ば理解してねえ。おかあさんはこいなぐ答えだ、
「そりゃそうさ。人生なんて毎日、毎日、同じごどの繰り返しなんだよ」
この時のおいは、てっきりおかあさんの言ったごどの意味は——自然界にはそいな法則があるっつうごどが既に科学的に了解さいでで、こいづは別に不思議なごどでねんだ——っつうごどだど捉えでしまったがら、安心してもいんだど思った。まんまど騙さいでだ。さいわい、記憶力がいがったがら今でもこの記憶ば覚えでだげっと、ひょっとしたらあのまま忘ぇでしまってだがも知ゃね。今になって思い出せば、あの二年間は実に空想科学的で不可解な現象だった。因みにあの後はそいな繰り返し現象は起きねがったがら、少くともあれはよぐある自然現象で片付げでいい類のものではねえ。


ゆべし


 おいが何かわりいごどして、怒ったおかあさんが
「ゆべし食べさせねえよ」
っつった。それまでおいは飯台の上のゆべしの存在にすら気付いでねがったんだげっと、そう言わいだ途端に、なんだがゆべしかせらいねっつごどが非常に致命的なごどに思えできた。おいは別にゆべしそんなに喰いでえ訳でねがったげっと、なんだが悔しくて、おかあさんの目え盗んでこっそりゆべし取って食べだ。うんといやな気持ぢだった。こいづが良心の呵責っつうやづだいが。しばらぐ後でおかあさんがやって来て、
「HMHK、ゆべし食べるすか?」
っつってきたがら、おいは「あらっ?」ど思った。大人が子供に「……させねえよ」っつうのは単なる脅しなんだっつごどば、その時はまだ悟ってねがったんだ。御蔭でうんといやな気持ぢさせらいでしまった。おいは罪悪感に支配さいっともう嘘つげねがった。
「ん、さっき食べだよ」
「なんだい、かぐれで食べだの? わりいごだ!」
単なる脅しだって知ってだら、ただ待ってさえいればいやな思いしねでおいしぐ喰えだのに。


おねえちゃん


 子供の頃、おいはよぐおねえちゃんにいじめらいだ。おねえちゃんはおいよりも約五歳年上だったげっと、子供にとっての五歳の差は圧倒的な不利条件だった。おねえちゃんはおいより遥かに頭いくて、腕力も勝ってだがら、おいがなんぼ作戦ねって仕返しすっぺどしても絶ってえ敵わねがった。 おいだぢが喧嘩してでおかあさんに見つかっと、おねえちゃんはその巧みな国語力でおいば悪者にしたがら、いっそおいの方ばり怒らいでだ。おいがなんぼ反論すっぺどしても、おいの国語力では墓穴ほんのが落ぢだった。しかもおいがおかあさんに怒らいでる間じゅう、おねえちゃんはおかあさんの死角がらおいさ向がって赤んべだの声ださねで「ばーが」ばやり始めんだおん。おいは頭さきておかあさんに教ぇんだげっと、おかあさんがおねえちゃんの方ば振り向いだ途端に、おねえちゃんは真顔に戻って知ゃねっぷりすんだ。——あ、今やめだんだよ——どおいは必死に訴えんだげっと、おねえちゃんが気になってさっぱり話、聞いでねっつごどでますます怒らいだもんだ。  そいなある日、たまたまおねえちゃんの方が悪っつうごどがおかあさんにばれたどぎがあった。おねえちゃんはおかあさんにうんと怒らいで、半べそかいでむつけでだ。おいはうんと痛快だった。気分 いくて、むつけたおねえちゃんの脇で絵え描いで一人で遊んでだ。おかあさんが洗い物がなにが終えで部屋さってきて、
「あらっ! なにしてんの!」
ど叫んだ。おいにはなんのごどだがさっぱり分がんねがった。おかあさんはおいの頭ばばさばさど払った。なんと、おねえちゃんが、絵っこ描ぎに熱中してるおいの頭の上さ、おいに気付がいねように自分の靴下の綿屑ばいっぺえのっけでだのだ。なんと陰険なおねえちゃんなんだべ。いづがきっと仕返ししてやる——どおいは思い続げでだげっと、おいがやっとおねえちゃんに対抗でぎる知能ど腕力ば備えた頃には、おねえちゃんはそいなわりい人でねぐなってだがら、復讐でぎねぐなってしまった。まあ、いいが。

0012/6/8追記: それにしても、なして おねえちゃんが こんなに おいのどごば 目の敵にしてんのが、 ずーっと ずーっと不思議だったし、それなりに大人になった おいは、 子供の頃のおねえちゃんは、なんか心に問題のある人だったんだべなって 納得すっぺどしてだげっと、 おいにも二人のわらす生まれで、 上のわらすが下のわらすさ嫉妬していじめる様が、 あまりにも懐かしい光景そのものだがら、 やっとその謎が解けだ。 上の子にとって、下の子は、そんなにも憎たらしい存在だったんだ。 それがわがったとごろで、 おい自身は、いじめられでる下のわらすの方に圧倒的に共感すっけっと。


自転車


 おかあさんに近ぐの小学校の校庭で自転車乗りば教わってだどぎのごどだ。おいはおかあさんに自転車の後ろば支えでもらって、
「ぜってえ放さねでね」
ど何回も念、押した。にも拘わらず、走り始めでそろそろ止まっかど思って後ろば見だら、何と、あんなに念押した筈なのに、おかあさんが手え放してんでねえが。ちくしょう! まんまと騙さいだ。おいが手え放さねでって頼んだ理由ばさっぱり理解してね。途中で手え放さいでもそのまま走らいるっつごどぐれえ、おいだって百も承知だ。ただ、おいはそのあど曲がっこどもでぎねげれば、止まっこどもできねんだ。んだがらおいはこのまま校庭のはじっこまで行って塀に激突すっか、その直前で転ぶしかねんだおん。
「なんで放すの!」
おいは絶叫した。せいいっぱい止まっぺどしてみだげっと、平衡感覚ば崩して転んだ。ほれ見ろ。んだから言ったんだ。ところが腹立だしいごどに、おかあさんは自分のやったごどば反省してねえばがりが、いいごどしたど思ってんだおん。まるで「ほれ、私がこっそり手え放してやったがらごそ乗れだべっちゃ」ど言わんばがりに。おいが、その後の曲がったり止まったりしねげねえごどまで計算に入れだ上で、手え放すなって執拗に念押したんだっつうごどなんか、てんで理解してねんだおん。まさがおかあさんに騙さいっとは思ってもねがった。大人の不合理な信念は子供、騙すごどすら正当化してしまうんだおん。自転車に乗れだごどなんか、はっぱり嬉しぐもねがった。


プール


 家族で旅行したどぎ、泊まった旅館さ温水プールあって、おいどおねえちゃんどTMTK君どで入りさいった。おかあさんはプールの脇で見でだ。おいはプールの向こう岸まで行ってみっかど思った。勿論プールが段々深くなってるなんつごどは知ゃねがった。いづのまにが足、立だねぐなって溺れだ。おいは水中ば立ち泳ぎみでえな恰好で浮遊した。足の先っちょは底に着いでねがったし、上に挙げだ手も水面に届いでねがった。目は開いでで水面ば見でだ。手足ば頻りに動がしてもがいだげっと、水中の同じ場所に留まってだ。息できねくて、苦しくて、んでも息してくて水ガブガブ飲んだ。水面、見ながら、きっとこのまま死ぬんだべなど思った。苦しくて頭さきたげっと、なじょにもなんねがった。こんでもうすぐ死ぬなあ——ど思ったどぎ、下着姿で飛び込んできたおかあさんに救わいだ。  後で聞いだ話だど、おかあさんが気付いたどぎにはおいは頭の先端だけになってで、おかあさんはおねえちゃんにおいば助けでくるように何回も頼んだげっと、おねえちゃんは——やんだ——っつってTMTK君ど遊んでだんだど。んだがらおかあさんが、服ぬいで飛び込んできたのっさ。  旅館の部屋さ戻ってきたおいは、自分が溺れで手足で水掻いで水中に浮がんでだごどば得意になって語った。そしたっけおとうさんが、
「んで、そのまま助けねえで、じっと待ってればいがったのに。そうすれば自力で端っこまで行げだんでねえが」
ど言った。プールの脇さいだのがおかあさんでなくおとうさんだったら、おいはしあわせなうぢに死んでだがも知ゃね。


給食


 小学校さっと弁当でねくて「給食」っつううんとうめぐねえものかせらいんだげっとも、大低の人は我慢できねくて残すんだ——どおねえちゃんだのおかあさんがらさんざん威がさいでだがら、給食っつうのはさぞうめぐねんだべなあど期待してだんだげっと、ながながどうして、カレーシチューだのハンバーグだのナポリタンだのの献立は、おらいでかせらいる御刺身だのあら汁だの牡蛎鍋だのよりよっぽどうめんでねえべがどさえ思えだ。ただ、おいが困ったのは牛乳だ。牛乳はおがずが如何に牛乳と調和しねえものだがらって、容赦ねぐ毎日でできた。例えば、カレーど牛乳、ニラ玉汁ど牛乳、うどんど牛乳、きわめつけはゆで卵ど牛乳! ——こいなのば喰い合わせっつわねでなんっつんだい。給食の最後の一口ば牛乳で終りにすっと、その後ずっと牛乳の気持ぢわりい余韻が残り続げっから、おいは必ず給食の最後の一口は、牛乳の気持ち悪さば中和するすっきりしたものば食べっこどにしてだ。んでも、とぎどぎ忘しぇでで最後に牛乳のごってしまうごどあっから、必ず食べ始める前にパンば一切れちぎっといで、最後の一口用ば予め確保してがら食べ始めっこどにした。  ある日の給食の時間、斜め前の席にいるめんこい子が、おいさ訝しげに訊いできた、
「なんでHMHK君、そいなぐパン残しておぐの?」
「ん、最後に牛乳飲むど気持ぢわりぐなっからや、最後にパン食べっこどにしてんだ」
「よぐ、そうやって牛乳なしでパン食べらいるね」
?! っつうごどは、この人はパンば口の中でやっけぐして飲み込み易ぐするための溶媒どして牛乳ば使ってっこどになる——口の中でパンど牛乳ばぐちょぐちょっつぐ混ぜて食べでんのだ!

思い出せねげっと
覚えでる
遠い昔の
遠い記憶こ
おいはしあわせだったべし
みんなしあわせだった
おいはおかあさんば好ぎだったべし
おかあさんはおいば好ぎだった
おいはおとうさんば好ぎだったべし
おとうさんはおいば好ぎだった
おいはおねえちゃんば好ぎだったべし
おねえちゃんはおいば好ぎだった
あんどぎ
あそごさあった
あの世界や
何処さ行ってしまったんだい
懐かしさばり
残ってる



A君


 小学一二年のどぎの学級さ、A君っつううんと不愉快な友達がいだ。A君はいっつもいばりくさってで、みんなが嫌ってだ。そのA君が、よりによっておらいの近所さ引っ越してきた。そればがりが、A君は毎朝おらいさ寄っておいど一緒に学校さ行ぐっつう習慣ば作りやがった。  A君がおらいさ来っと、おらいのおかあさんは
「A君はしっかりしてるねえ、うぢのHMHKだらば先生の言うごどさっぱり聞いでねえがら、いっそ忘ぇものばりしてねえ」
つってA君ば褒めだ。んでもおいがA君のうっつぁ行ぐど、A君らいのおかあさんは
「GTU君はしっかりしてるねえ、うぢのは…………」
どおいば褒めだ。つまり、A君らいのおかあさんはまどもな人みでだ。  そいな意味ではA君のおねえちゃんもまどもな人だった。例えばおいがA君らいでA君ど一緒に絵っこ描ぎしてだどすっと、A君は必ず自分の絵どおいの絵ばおねえちゃんさ見せさ行ぎ、
「どっちうまい?」
ど訊いだ。A君のおねえちゃんは、仮においの絵の方が下手くそだったどしても、必ずおいの絵の方ばうまいっつってけで、その度にA君は機嫌、損ねだ。つまり、A君の家族はそんなにわりい人だぢではねがった。


お呼ばれ


 「GTU君の誕生日の日にGTU君らいさ遊びさ行ってもいいが?」
どA君が何回もしつこく訊いでくっから、せめで誕生日の日ぐれえA君ど遊ばねで過ごしてえど思ってだんだげっとも、
「んん、いいよ」
ど答えだ。そしたっけ——後で分かったんだげっと——A君はそいづば待ち焦がれでだがのように近所らぐじゅうさ
「おいGTU君のお誕生日にお呼ばれさいだんだ」
ど得意になって吹聴して回ってだらしい。  誕生日の日、A君はなんと誕生日用の贈物ば持ってきた。そいづは犬の筆立てで、A君はおいに
「気に入ったが?」
ど訊いだ。おいは勿論そんなものは気に入んねがったげっと、
「んん」
ど答えだ。しかしその後もA君は——あのおいのけでやった筆立て使ってっか——どしつこぐ訊いできたがら、結局は使わねげねえ羽目になってしまった。それはそうど誕生日の日にA君のった後、A君が「GTU君にお呼ばれさいだ」ど言い触らした子供の一人(TMTK君だったいが)の親ば経由して、おらいのおかあさんのどごにその情報がったみでだ。
「HMHK、あんだA君ば誕生日の夕飯に招待したのすか?」
「え、? んーん、なんで?」
「A君、GTU君のお誕生日にお呼ばれさいだって言って回ってんだってよ」
「およばれってなに?」  おらいのかあちゃんは栗ご飯ば折りに詰めでA君らいさ行ぎ、「子供のごどだがら」なにが喰い違いがあったんだべっつう意味のごどば言って謝ってきたみでえだ。くだんねえ。A君はただ「お呼ばれ」さいでがっただげだ。んだがらだいにもお呼ばれなんかさいでねえのにも拘わらず、さも盛大なお誕生会さお呼ばれさいだ招待客の一人であっかのような状況ば自分一人で勝手にでっちあげで、得意になって言い触らしてだだげだ。まったぐ迷惑な話だ。


牛乳飲んでげ


 A君らいで遊んでだどぎ、おいは早くけえりでがったがら帰る機会ば窺ってだ。そしたら、A君が突然
「GTU君牛乳飲まねが?」
ど言った。勿論おいは牛乳なんか飲みてぐねがったし、はいけえりてえがら
「んーん、飲まね。今うぢさけって夕飯食べねげねえし」
っつったにも拘わらず、A君は
「いいがら牛乳飲め、体にいんだぞ」
どがなんとが言って
「おかあさん、GTU君牛乳飲むっつがら牛乳あっためで」
ど言いに行った。しまった。ここで牛乳、飲まさいだらうっつぁんの遅ぐなるばがりが、牛乳、飲んで気持ぢわりぐなって夕飯うめぐねぐなってしまう。困った。なじょにがしねげ。
「A君、遅ぐなったがら、おいやっぱりけっからや」
「なにっこの、せっかぐ牛乳あっためでやったのに、おらいの牛乳が飲めねっつうのが!」
案の定A君が怒りだしてしまったがら、しゃねくて不本意ながら牛乳のんでぐごどにした。
「いい、大丈夫だ、GTU君。タクシー呼んでやっからや」
「タクシー呼んでどうすんの?」
「GTU君ば、うぢまで送ってってもらうんだ」
「んだって、おいのうぢ直ぐそごだいっちゃ」
「んでもや、タクシー呼んでけっからや」
引き留めらいだおいば慰めるための冗談らしい。実にくだんね。


好ぎな人検査


 小学校一年のどぎだど思うげっと、学校で好ぎな人検査ばさいだ。紙さ自分の名前、好ぎな男の子の名前どその理由、好ぎな女の子の名前どその理由、嫌いな男の子の名前どその理由、嫌いな女の子の名前どその理由ば書がさいだ。まずおいの書いた好ぎな女の子はUさんで、理由は「かおがよくてしっかりしているから」。好ぎな男の子はSIN君で、理由はやっぱり「かおがよくてしっかりしているから」。嫌いな女の子はだいば書いだのか忘ぇだげっとも、もしこんどぎ既にKさんが転校してきてだどすれば、Kさんば書いでだに違いね。嫌いな男の子は当然A君で、理由は「いつもいばりくさっているから」。  その日の放課後、先生がこっそりおいに言った、
「GTU君を好ぎだと書いた人は、OGN君とIS君とA君ですよ」
なにすや! A君に好がいっとは。非常に迷惑な話だ。先生がおいにそのごどば教えだ意図がなんであるにせよ、おいはA君ば嫌いだって書いだごどば少しも疚しいどは思わねがった。大体においで、級友のほぼ全員がA君ば嫌いだど書いだべっつうごどばおいは確信してだ。っつうのは、前に先生が「猿はボスを中心に群れをなして生活する」っつう話ばしたどぎに、うっかり、
「このクラスのボスは誰かな?」
ど訊いでしまったもんだがら、学級のみんながいっせいに
「A君!」
ど叫びながらA君ば指さしたごどがあり、当然A君は
「なんでおいがボスなのやー」
って例の如く怒りだして、先生も取り繕うのに困ってだげっと、学級のみんながA君ば嫌ってるっつうごどは動がし難い事実だった。  その日のけえり(っつうが厳密にはその日以後しょっちゅうだったげっと)、A君がしつこくおいに訊いできた、
「GTU君、だいのどご好ぎな人に書いだのや?」
「んだって先生にだいにも言ってだめだって言わいだべ」
「んでもや、だいにも言わねえがらや、おいにだげ教えでけだっていいべ」
「んーん、だめだ」
「んで、おいだいば好ぎな人に書いだが教えでけっからや、GTU君もだいんどごば好ぎな人に書いだが教えでけろよ」
「やんだ」
「おいや、GTU君ば好ぎな人に書いだぞ。GTU君は?」
「わがんね」
「GTU君もおいんどごば好ぎな人に書いでけだんだべ?」
「さあ」
「なんで教えでけねえのや。おいGTU君に教えでやったべ」
「んだってA君勝手に言ったんだべ」
「なんでや、ほんとはGTU君おいんどごば書いでけだんだべ?」


パン届げ


 学校、休んだ人いっと、その人の近ぐさ住んでる人がその人の分の給食のパンば学校げえりに届げさ行がねげねっつう風習があった。  ある日、Uさんが学校、休んだ。おらいもA君らいもUさんのうぢの近ぐだったがら、おいどA君はパン届けば頼まいだ。おいはこのパン届げっつう役がうんとやんだがった。わざわざ休んだ人らいまで行って、そごのうぢらいのかあちゃんど口きがねげねっつうのは実に苦痛だった。  おいだぢは鞄ばうっつぁ置いでがらA君らいで落ぢ合ってUさんのうぢさ行ぐごどにした。おいは取り敢えずうっつぁって鞄ば置ぎ、A君どしてUさんのうっつぁパン届げさ行ぐ旨ばおかあさんさ伝えだら、
「なんにも二人して届げさ行ぐごどねえべっちゃ。あんだ一人でさっさど届げできてがらA君のどごさ遊びさ行ったらいっちゃ」
っつわいだ。そいづは確かに尤もなごどだど思ったし、おいの価値観ではパン届げっつうのははいぐ終わらせでしまうに越したごどはねえやんだごどだから、さっさど済ませでしまった方がA君にとってもきっと有り難えに違いねべど思って、おいは一人でUさんのうぢさ行った。Uさんらいのかあちゃんが出できて、
「あら、GTU君、わざわざパン届げにきてけだの。どうもね。んで、ちょっと待ってで…………わりいがらこいづ持ってがいん」
っつってミルクケーキだがっつうハイカラーな飴っこみでえなのば持だせでけだ。一旦うぢさ戻ったがどうがは覚えでねえげっとも、おいはA君さパン届げば済ませだ旨ば報告しさ行った。そしたっけ、なんとA君はうんと悔しがった。
「なんでGTU君 自分一人で行ったのや! おいど一緒に行ぐべっつったべ」
「んだって、いやなごどはさっさど終わらせた方がいいべ」
「んで、今度Uさん休んだら、おい一人だげで行ってミルクケーキもらってきてもいいのが?」
「ミルクケーキならけっからってさっきっから言ってっぺ」
「んーん、いらね。んだって、そいづはUさんらいのかあちゃんがGTU君にってよごしたやづだがらおいはいらね。んで、今度Uさん休んだら、おい一人でパン届げさ行ぐがらな」
「んん、いいよ。そんでいいよ」  いってえA君はミルクケーキば欲しがったのが、Uさんば好ぎだったのが、その辺のごどはよぐ理解できねげっと、とにかぐ今後はUさんが休んでもおいはパン届げさ行がねくて済みそうだ。果だしてA君はミルクケーキもらえだいが。


待ってろっつわいで


 寒い冬の日、A君ど一緒にA君らいさ行ぐ途中だったいが。A君がA君の近所の子どその友達(おいの知ゃねえ子だぢ)さ会って話こ始め、その子のうぢの前でおいさ
「GTU君こごで待ってで」
っつってその子のうっつぁってった。とごろが、A君はながなが戻ってこね。雪、積もってる。おいはそごのうぢの前さずっと立ってだ。時々そごのうぢの人みでえなのが、外さ突っ立ってるおいば家の中がら怪訝そうに眺めでだ。きっとあの人は、寒い中さ一人立ださいでるおいに同情してんだど。そしてあの人はA君だぢさ——さっきから外さ立ってる子はあんだだぢのお友達でねえのすか——っつって、おいばうぢん中さ入れるように指示すっかも知ゃね。んだげっと、そいづはおいの望んでっこどでね。A君ど波長の合うようなあいな連中ど一緒に遊ぶごどは、おいにとって苦痛以外のなにものでもね。今のうぢにってしまうべ。こんだけ待ったんだから、もうA君にはおいが居ねぐなったごどさ文句いう資格はねえ筈だ。A君が友達に会ってけで助かった。御蔭で今日はもうA君がら解放さいで、家でゆっくり寛ぐごどがでぎる。


TMTK君どA君


 おいが二年生になったどぎ、TMTK君らいの人だぢがおじいさんとおばあさんのうぢさ引っ越してきて一緒に住むごどになった。おじいさんどおばあさんのうぢは、ほぼA君らいの向かいさあった。その旨ばA君さ伝えだら、A君は非常に深刻な顔こして
「GTU君や、いどご来たら、いどごど一緒に学校さ行ぐんだべ」
ど言ってきた。おいはそいなごどは考えでもねがったげっと、A君が自発的においど一緒に学校さ行ぐごどば諦めでけんだごって、こいな有り難えごどはねえどおいは密かに期待してだ。とごろが、おらいのおかあさんが
「んで、三人で一緒に行ったらいっちゃ」
ど余計な提案ばしてしまったもんだがら、おいは二年生になっても毎朝A君の顔ば見ねげねぐなってしまった。  A君はTMTK君ど知り合うどTMTK君どもよぐ遊ぶようになった。おいはTMTK君にA君のごどば愚痴っぺど当初は思ってだんだげっと、意外にもTMTK君はA君どけっこう気い合うみでで、二人だけで遊ぶごどもしょっちゅうあった。おいどしてはTMTK君の御蔭で、A君の遊び相手どしての負担ば多少は軽減さいだごどになんのがも知ゃねがら、まあいいがど思ってだ。  それはそうどA君どTMTK君に関する挿話はまだいづが思い出したら書くごどにすっけとも、A君は三年生になったどぎ遠ぐさ引っ越していった。おいはTMTK君らいでなにげねく窓がら外ば眺めでっとぎ、
「A君引っ越してしまったね」
ど言ってみた。そしたらTMTK君がこう呟いだ、
「あんなやついなくなってせいせいした」
「なんだ、TMTK君もA君ば嫌ってだの」
「Aなんか嫌いだ。MTY(TMTK君の妹)もA、嫌いだべ」
「うん、きらいだ」
そうが、TMTK君は人がいいがらA君ど親しそうに遊んでやってだげっと、やっぱりA君のどごば嫌ってだんだ。おいはなんか、うんとほっとした。


Aに見つかんねえうぢにけっぺ


 A君や他の友達どTKYM君らいで遊んでだどぎのごど。おいはそろそろうっつぁけえりでえど思った。A君に見つかっとぜってえ引き止めらいっんだげっと、さいわいA君は他の友達どの遊びに熱中してる。おいはTKYM君に
「おいAに見つかんねえうぢにけっからや」
っつった。とごろがちょうどまずい具合に、A君はおいがTKYM君にこそこそ話してんのば見でしまったのだ。
「GTU君、なにひそひそ話してだのや?」
案の定A君が訊いできた。
「ん、なんでもね」
「なんでや、教えでけろ」
「ん、なんでもねえよ」
「なんで教えでけねえのや、教えでけだっていいべ」
「んだって、なんでもねえおん」
「なにや、なんでおいさ教えねえのや」
ど絶叫してA君はおいさかがってきた。おいはさっさどけえりてえがらA君の喧嘩の相手してる暇なんかね。TKYM君がおいばA君がら引ぎ離してけだがら——っつってもA君は図体でっけえがら、そいづも容易なごどではねがったんだげっと——取り敢えずおいは助かった。A君がむつけだ隙においはうぢさったげっと、A君に絡まいだせいでじゅうぶんけえり遅ぐなってしまった。


Aのばか


 SIN君どKZHK君どおいの三人で学校がらけえる途中、おいだぢは如何にA君のせいで不愉快な思いばしてっかば愚痴り合った。おいだぢは、なじょにがしてこのA君に対する鬱憤ば晴らす術はねえもんだいがど考えだ。そごでおいは、こいな提案した——A君の悪口ば思い切りそごいら辺さ落書きしてえげっと、見つかっと怒らいっから、その辺さ落ちてる石ころの裏どが、塀の窓の中どが人目に触れねえどごさA君の悪口ば書いだらなじょだい——ど。SIN君どKZHK君は意外にもおいのこの提案に同意し、早速ランドセルがら鉛筆ば取り出し始めだ。おいだぢは、敷石の裏だの庇の陰だのとにかぐ人目さ付かねえようなどごばり見つけではA君の悪口ば書ぎまぐった——「Aのばか」「Aのあほ」「Aしね」等々。
「あしたもやっぺな」
ど約束して、おいだぢは実にすっきりしてうっつぁった。  とごろが、次の日おいだぢは先生に呼び出さいだ。先生はおいだぢに、 昨日きんな、書いだ落書きばぜんぶ消してございんど言った。その日の学校げえり、おいだぢは不本意ながらせっかく書いだ落書きの消し方ばした。うんと屈辱的だった。んでも、それにしてもこいな落書きがだいにも見つかる訳ねえのに、なして先生さばれだんだい。おがしいど思って問い質したっけ、どうやらSIN君がおかあさんさこのごどば漏らしてしまったらしいのだ。おいは、SIN君は大人だがら尊敬してだげっと、そいなどごはまだ子供だったみでだ。まあ、しゃねべ。
「GTU君、こいづ消えねえ。どうすっぺ」
KZHK君はまじめに消すべどしてんのだ。おいは落書きのなんぼがは残しておきてがったし、だいの目さも付かねえおいだぢの自己満足の為だけの落書きは、別にわりいごどでねえど思ってだがら、
「いーい、しゃねっちゃ。んだって先生、人のうぢの塀さ落書きして駄目っつったんだがら、人のうぢの塀さ書いだのさえ消せばいんだぞ」
「んだな、いいな」  その日、うぢさってがら、おいはおとうさんどおかあさんにこっぴどぐごしゃがいだ。お便り帳で先生が告げ口したせいだ。おとうさんどおかあさんは、おいがひとのうぢの塀さ堂々ど落書きしたど思ってるみでだがら、誤解ば解くためにおいは——そのうぢの住人すら気付がねような、敷石の裏どがそいなどごさこっそりA君の悪口ば書いだだげだ——ど言った。おいの国語力はその説明すんのに十分だった筈なのに、この二人ははっぱりおいの言うごどば理解しねがった。揚げ句の果てに「A君はうんといい子でねえが」ど言っておいばごしゃいだ。  その次の日ぐれえでねえがど思うげっと、A君がおいさ訊いできた、
「GTU君、だいに頼まいでおいの悪口書いだのや? KZHK君が? SIN君が? 最初においの悪口書ぐべっつったのGTU君でねんだべ」
「ん、んー」  その数日後にA君がおいに言ってきた、
「おいや、おかあさんにGTU君ど遊びすなって言わいだんだ」
その御蔭で多少はA君ど遊ばねくて済むようになったげっと、A君が休んだどぎのパン届げは気まずがった。不本意ながらA君のうぢさ遊びさ連いで行がいだどぎのA君らいのとうちゃんの態度も、おいには苦痛だった。いずれにせよ、例えばおいが友達がら悪口、書がいだどすれば、おいの親はおいに人がら嫌わいる要素があんだっつごど見抜いで、世間さは「うぢのHMHKには困ったもんだ」みでぐ自分の子供ば嘆く態度ば示すべげっと、自分の子供ば庇い、他所の子供ば軽蔑する態度、取るっつのは、所詮A君の親もA君のながまなのがいや——っつうようなごどば子供ながらに思った。


授業参観


 一年生が二年生の時の授業参観でのごど。おいは授業参観っつうのがうんと好かねがった。かあちゃんだぢが教室の後ろの戸がらこそこそってくっと、教室じゅうに化粧くせえ臭いが充満してそれだけであんべわりぐなった。先生は如何にもやらせっぽい授業して、おいだぢはこの日だげはいい子のふりしてねげねがった。先生がおいだぢさ問題、解がせでっと、かあちゃんだぢが後ろの方の席さいるおいの帳面ば遠慮なぐ覗き込んで、中にはおいのぽか間違いば得意気に指摘してけるかあちゃんまでいだ。んでもそいなごどよりも、自分の親に授業態度ば監視さいっこどが一番やんたがった。んだから、おいはかあちゃんが来ねえごどになってる友達がうんと羨ましがった。  おらいのおかあさんは今日くっこどになってっけっと、急に用事できて来れねぐなってけねがいや——どがって密かに祈ってだっけ、前の方の席のMSTK君がしくしく泣ぎだした。なにしたんだい? 先生が事情きいでみだらば、なんとMSTK君はかあちゃん来ねくて泣いでんだど。そんなばがな!
「だいじょうぶです。もうすぐMSTK君のおかあさんは来ますからね」
ど先生はMSTK君ば慰めでだげっと、それにしても信じらいね話だ。おいだったら、かあちゃん来ねがったらなんぼ嬉しべな。恐らぐMSTK君以外のおいの友達はみんなそう思ってだべど。現においだぢは
「MSTK君や、かあちゃん来ねえがらって泣いだんだってや。あいづおがしんでねえが」
っつうごどで意見、一致した。




 確か二年生の頃、YSNR君らいで遊んでだ時のごど。おいはYSNR君がらおっきな飴っこもらって嘗めでだ。当時のおいには、飴っこ嘗め続げんのめんどくせぐなっと、そのまま飲み込んでしまうっつう癖あった。その時もおいはそのもらったおっきな飴っこがだんだん煩わしぐなってきたがら、飲み込むがど考えだ。んでも飲み込むにはちょっとおっき過ぎっから、も少しちゃっけぐなるまで待ってがら飲むがども思ったげっと、ちゃっけぐなるまでまだだいぶかがりそうだし、今まで飴っこ飲み込んで失敗したごどねがったがら、やっぱり飲み込むごどにして飲み込んだ。とごろが、喉さつっかえでしまった。気管ふさいでねがったがら、息すっこどはできた。んでも、それなりの痛みはあった。おいは苦しいの誤魔化すために、もがいで死ぬふりどがしてみせだ。YSNR君の親戚のちゃっけえおぼこが、キャッキャッ言って喜んでけだ。そうやってるうぢに飴っこが食道の方さ落ちてけんでねえがど思ってだげっと、飴っこは元の位置がらさっぱり動ぐべどしねがった。つば飲み込むごどもできねがった。おいはYSNR君らいの縁側がら庭さ、溜まった唾ば吐いだ。YSNR君が心配そうな顔こして
「なにしたのや?」
ど訊いできた。おいは身振り手振りで飴っこが喉さつっかえでっこどば伝えだ。喋っこどもできねがったのがどうがはよぐ覚えでねえげっと、きっと喋りにぐがったんだべ。
「飴っこ喉さつっかえだのが?」
おいが頷ぐどYSNR君は
「んで、水もってきてけっか」
っつって、コップさ水ば持ってきてけだ。おいは水、飲むべどしたげっと、飴っこが通路、塞いでっから飲み込めねがった。YSNR君がら事情、聞いだYSNR君らいのかあちゃんが
「しょうゆ飲ませっといんだっつよ」
っつって、コップさ原液の醤油、入れできた。おいは言わいだ通りにその原液の醤油、飲み込むべどしたげっと、水ですら飲み込めねんだがら、そんなものはましてや喉が拒絶した。おいは醤油の混じった茶色い泡ば吐ぎ続げだ。YSNR君の親戚のちゃっけなおぼこはギャーギャー泣いでだ。  YSNR君らいのかあちゃんは、タクシー呼んでおいど一緒に乗り
「この子供、泡を吐くのでシート汚しますけど、すいません」
ど運ちゃんさ言って、おいば近ぐの病院さ連いでいったような気いすっけっとも、よぐ覚えでね。とにかぐ一軒目の病院は断らいだが休みがで、つながりがよぐ分がんねげっと、YSNR君らいのかあちゃんがらおらいのおかあさんへど病院巡りが引き継がいで、二軒目の病院(耳鼻科)は休みで、その中にはおらいのかあちゃんどおねえちゃんど(おとうさんもいだいが?)がいで、なじょしたらいいがど相談してだ。その間おいは洗面所さ泡、吐いでで、おねえちゃんは
「その泡みでえなの飲み込まいねえのすか?」
ど怪訝そうに訊いでだ。三軒目の耳鼻科では(実はこいづが一軒目だったのがも知ゃねげっとも)、おらいのおかあさんが(一軒目の場合はYSNR君らいのかあちゃんっつうごどになっけっと)焦りながら、
「この子供、喉に飴っこつっかえでしまったんですが」
ど必死に訴えんだげっとも、相手にしてもらえねくて、患者さんだぢがゲラゲラど笑ってだのば覚えでる。おらいのおかあさんは、いっつも診でもらってる親戚の内科のどごさおいば連いでぐごどにして、おいは車さ乗った。記憶では、この車はうぢの車でねくておかあさんの同級生の運転する車だった。っつうごどは、うぢの車はおとうさんが使ってだんだいが? 病院さ着ぐどおいはレントゲンの台さ乗せらいで、バリューム飲むように言わいだ。おいが「飲めねえ」っつう意志表示すっと、おかあさんは
「いいがら、飲めるだげ飲んでみなさい」
っつった。その頃には少しだけ飲み込まいるようになってだ。画面においの消化器が鮮明に映し出さいで、喉さつっかえでる飴っこもはっきりど確認できた。お医者さんが
「ああ、ここにありますね」
っつって、もっとバリューム飲むように指示した。おいは少っつずバリューム飲み続げだ。そしてるうぢに、飴っこが少っつず動ぎ出して食道、通過して胃の方さ落ちてった。その過程が、画面上でも逐一観察できた。つまり、長い時間かげで飴っこが少っつず溶げでだんだべ。おらいのおかあさんは安心した反面、うんと白げだみでで
「なんだっけや」
ど言った。  その日の夕飯のみそ汁のほうれんそう飲み込むどぎ少しヒリヒリしたげっと、大体だいじょうぶだった。  次の日、学校でYSNR君が
「だいじょうぶが?」
ど訊いできた。おいはおしょしがったがら、わんざどとぼげで
「え、なんのごどや?」
ど訊き返した。
「あれ、あめっこのどさつっかえだべ」
「ああ、あれが。だいじょうぶだ」  あれ以来、おいはちゃっけえ飴っこでも飲み込まねえごどにしてる。っつうが、おいは飴っこねぐなるまで最後まで嘗め続げでっこどできねくて、必ず途中で噛ってしまう癖があって、今度ごそは最後まで嘗めででみせっとど決心してがら嘗め始めでも、つい気い抜いだ隙に噛ってしまうのっしゃ。ひょっとすっとこの癖は、あのどぎの体験が心理的外傷になってんだいが。


長ぐづ


 朝、学校さ行ぐ前に雨で道が適度に濡れでる場合、おいはくづ履いでっていいが、それとも長ぐづ履いでいがねげねえのが、おとうさんがおかあさんに訊がねげねえごどになってだ。たいしたごどねえ雨でも、おとうさんだのおかあさんは必ず長ぐづ履いでげっつった。おいはそいづがうんとやんだがった。なんでがっつうど当時のおいの価値観では、雨でくづしたぐぢょぐぢょになるっつう不快感よりも、長ぐづ履いでって変な奴だど思わいるっつう不快感の方が致命的だったがらだ。特に、朝は雨でも学校げえりにかんかんに晴れだりしたどぎはみじめな気分だった。現に恰好、気にするふつうの生徒だぢは、土砂降りの時でさえくづしたぐぢょぐぢょにしながらくづ履いできてだ。おいにはそいなぐぢょぐぢょのくづしたさえ羨ましぐ思えだ。  ある日、おいはこの密かな悩みばおねえちゃんに相談してみだ。
「あだしなんか、どうしてもくづ履いでぐってねばったら『そんなにくづ履いできてえごったら、くづ履いでがいん!』って言わいだがら、それがらずっとくづ履いでぐごどにしてんだ。HMHKも、どうしてもくづ履いでぐってねばってみろ。そしたらくづ履いでげって言わいっから」  おねえちゃんがこいな幼稚な論理ば持ってるなんて、おいはがっかりした。おかあさんが「くづ履いでがいん」っつうのは、怒りが高じて論理的説得ば放棄したどぎの捨て台詞であって、決して文字通りの意味で言ってんでねっつうごどぐれえ、おいだって知ってる。にも拘わらず、その言葉の文字通りの意味ば受げ取って合理化してるおねえちゃんがおいにはうんと腹立だしぐ思えだし、日頃の恨み晴らすのに絶好の情況でもあったがら、おいはおねえちゃんに言わいだごどばおかあさんさ告げ口してやった。案の定おねえちゃんはこっぴどくごしゃがいで、以前みでぐ雨の日には長ぐづ履いでいがねげねえごどになった。勿論おいも今まで通り長ぐづ履いでいがねげねがった。んでも、おいは今回のおねえちゃんの件がきっかけになって開ぎ直らいるようになったし、おとうさんの価値観が徐々においにも浸透してきて、くづしたぐぢょぐぢょにしてまで恰好こ気にして長ぐづ履がねえような奴はただの馬鹿だど思えるようになった。

楽しがったどぎの思い出ば
思い出してみっこどは楽しげっと
所詮
そんどぎど同じ楽しさば
感じでる訳でね
もし
今っつう瞬間に
「楽しさ」ば
んだ「楽しさ」ば感じらいっこって
そいづが
一番いいなや



IS君


 一年生の時だったいが。IS君が足の骨、折って、ギブスはめで学校さ来た。休み時間、みんな外さ出でったげっと、IS君が一人席に座ってっから、なんとなぐかわいそうに思って、おいはIS君さおだぢながら話し掛げでだ。とごろが、突然IS君がわーわー大声あげで泣ぎ出してしまった。一体いってえなにしたんだべ?
「IS君なにしたのや?」
どおいが訊いでも、IS君はただ泣ぐばしだった。おいの足がIS君の机の脇さ掛げである鞄ば介してIS君のギブスさ触れだんだいが? IS君が泣いだ理由は未だに謎だ。そのうぢ、教室にいだ何人がの友達がIS君の泣ぎ声、聞いで寄ってきた。
「なにしたのや?」
「どうしたの?」
ど口々に訊がいで、おいは最初のうぢは
「わがんね」
ど答えでだげっと、そんでもIS君は泣ぎ続げでで、如何にもおいが故意にIS君ば泣がせだみでえにしか見えねえし、おいの誤解ば解いでっけっぺどもしねで泣ぎ続げるIS君にも腹立ってきたがら、みんながらIS君ば泣がせだど非難さいっこどでIS君さ良心の呵責ば感じさせでやりでっつような自虐的な気持ぢになって、
「おいがIS君の足ば蹴っとばして泣がせでやったんだ」
っつってやった。
「ええ、うそ。ほんとに蹴っとばしたの?」
ど友達は信じらいねっつような顔こして訊いでだげっと、おいは
「んだ、おいがIS君の足ばこうやって蹴っとばして泣がせでやったんだ」
っつってやった。  その後、先生に怒らいだかどうがは覚えでね。その時の真相ばIS君さ問い質すごども結局しねままになってしまった。


雪合戦やりすなよ


 一年生が二年生の冬。朝、雪、積もってで、おいは風邪、引いでだ。学校さ行ぐ前におかあさんが、
「HMHK、あんだ、まだ風邪なおんねんだがら雪合戦してわがんねよ」
っつった。  学校さ行ったら先生が、
「きょうは雪が積もったがら雪合戦をします」
っつった。そいづはまずい。
「先生、ぼく風邪ひいでっから雪合戦してだめっておかあさんに言わいだんですけど」
どおいが言ったら、TKYM君も
「先生、ぼくも風邪ひいでっから雪合戦してだめっておかあさんに言われました」
っつった。先生は、
「雪合戦をすれば風邪なんかふっ飛んでいってしまいます」
っつうような意味のごどば言った。  おいだぢは不本意ながら校庭さ出だ。みんなして雪合戦、始めだがら、おいどTKYM君は校庭の隅っこの方さ避難して突っ立ってだ。そんでもおいだぢの方さ雪、投げでくる奴がいねっつう保証はね。もしだいがの投げだ雪が、おいの背中さ入りでもしたら大変だ。おいだぢは徹底して雪合戦に不参加する為に、校庭の隅っこの方の雪ん中さ寝そべった。その方が、だいがの投げだ雪が背中さっこどよりも風邪こじらせる可能性、低いど思えだべし、先生の不合理な判断に対する抗議行動ば訴える必要性があったがらだ。  その時限が終わる頃においだぢは先生に発見さいで、
「GTU君どTKYM君、そんなところに寝そべって何やってんですか。風邪を引いてしまいますよ」
ど怒らいだ。  うっつぁったら、案の定このごどがお便り帳に告げ口さいでで、風邪、引いでんのになして雪ん中さ寝そべったりしたのやどごしゃがいだ。おいは、ちゃんと言い付け通り雪合戦しねくて済むように雪ん中さ寝そべって隠れでだんだ——ど説明したげっと、まったぐ理解してもらえねがった。


折れだひまわり


 二年生の一学期の終業式の日、おいだぢはそれまで育でできたひまわりの鉢ば、各自うっつぁ持ちんねげねがった。おいのひまわりは、茎の直径が約二ミリ、背丈が約六十センチで、よっぽど慎重に持だねげ、いづ折れでも不思議でねがった。しかもその日は、お道具箱だの他にも持ちんねげねものがいっぺえあった。  学校、出だどぎは、ひまわりの鉢ば慎重に持ち帰って、うぢの庭さ植え換えで、夏休みの間におっきぐなったひまわりが花、咲がせる——っつう夢想に浸ってだんだげっと、うぢまでは一キロ以上あったがら、当然五百メートルあだりの地点でひまわりの茎がボギッと折れでしまった。それまでのおいの夢想は絶望的になった。おいはその場に鉢ば捨てできてしまいてがったげっと、うっつぁってがらおかあさんに同情してもらう為にも、おいは半べそかぎながら、その重でえ折れだひまわりの鉢ば持ってなげなげえ残りの五百 メートルばうぢさ向がった。  うぢさ着ぐど、おかあさんは
「なんだい、先生もまだいっぺえ荷物ある日にひまわりなんか持だせっから、折れでしまったんだいっちゃ」
っついながら、その辺がら細長い棒っこ拾ってきてひまわりの鉢さ刺し、折れだ茎ば真っすぐに伸ばして紐こで縛って棒っこさ固定した。んでもそんなのは単なる気休めでしかねんだっつうごどは、おいだって知ってだ。んだって、完全に折れ目ついで折れ曲がった植物が、その程度の処置で治癒するなんつうごどは想像すっこどすら難しいがらだ。  とごろが、二三日の間に折れ目が固まってきて、そのうぢ棒っこの支えなしでも直立してらいるようになって、おいのひまわりはそのまま成長、続げで、折れ目の傷痕ば残したまま直径三センチ、高さ二メーターぐれえまで成長して、っきな花ば咲がせだ。そんどぎ生まれで初めで生命の驚異ば感じだっつう記憶は特にね。


二年生の目標


 二年生になった時、おいだぢは細長い画用紙、配らいで、教室のうっしょさ貼るための「目標」ば書がさいだ。んだげっとおいには「二年生の目標」なんてさっぱり思い付かねがった。まわりの人のば覗いでみっと、「わたしは、二ねんせいになったら、さんすうとこくごをがんばる。」どが「ぼくは、二ねんせいになったら、さんすうのべんきょうをいっしょうけんめいにやる。」どが、そいなのばりだった。当時のおいは子供なりに、「べんきょうをがんばる」なんつう目標は夢がねえど思ってだがら、何がもっと夢のある目標ねえがいやど考えだ。そごで「はやねはやおき」にすっぺがども思ったげっと、当時のおいは既に早寝早起ぎしてだがら、もっと別の二年生になって新たに気い付けねげねぐなったごどどがねえがやど考えだ。二年生になって変わったごどっつえば、教室が二階になったっつうごどぐれだ——んだ、——そごでおいはこいな目標ば思い付いだ、
「ぼくは、二ねんせいになったら、二かいからおちないようにきをつけようとおもう。」そう書いでおいは提出した。  こいなぐしておいだぢの目標が教室のうっしょさ貼り出さいでがら、先生が仰った、
「先生はこのクラスの目標の中で、一つだけとてもすばらしいと思ったものがあります」
おいは内心、そいづはおいの目標のごど言ってんでねえがいやど思った。何でがっつうど、おい以外の目標で勉強に関係ねえごど書いでんのねがったがらや。みんなは、MZSW君のでねがど囁いでだ。MZSW君の目標は、「ぼくは、二ねんせいになったら、さんすうとこくごとりかとしゃかいを、いっしょうけんめいがんばりたいとおもう。」っつう感じの、一番 なげえやづだった。おいは内心では自分のだど思いづつも、みんなさ合わせで
「んだ、MZSW君のでねえが」
っつって、演出効果ば狙ってだ。みんながざわめいできたどこで先生が口、開いだ、
「それはGTU君のです」
ほれな——どおいは思った。みんなは一瞬沈黙してがら爆笑した。先生は——勉強がんばっとがそいなごどばあんだだぢさ期待してる訳でねえ——っつうような意味のごどば仰った。おいはうんと得意な気分だった。但、おらいのおかあさんは授業参観の度に恥ずかしい思いしてだみでだ。


 ダムがら落ちた


 三年生になって間もねえ頃、たぶん土曜日の午後でねがど思うんだげっと、KZHK君ど日和山さ遊びさ行った。日和山では、今度、学級が一緒になったTKTS君どがが遊んでだ。おいだぢは一緒なって、日和山の陰の崖の方さ行って遊んでだ。その崖には、落石防止のためでねがど思う高さ約三メーター、 幅 約五メーターのコンクリートが、 約十メーターの間隔で崖の下さ向がって並んでで、当時のおいだぢには、その形状がダムば連想させだ(まあ、砂防ダムには違いないんだが)。 おいはその辺さ落ちてだ箒ば拾ってきて、その擁壁の上さ立って、その箒ば崖の下の方さ向がって思いきり投げ飛ばしてやった、っけ、はずみで足すべらせで、頭がら擁壁の下さ転落した。枯れ木が茂ってだがら多少は衝撃が吸収さいだのがも知ゃねげっと、そんでも全身さ衝撃が走った。額の辺りが いで っつうか熱っちいっつう感じで、最初はこのまま死んでしまうんでねえがど思ったげっと、全身の感覚が戻ってきたがら、どうやら大怪我っつう程度で済みそうだ。KZHK君だぢが駆け寄ってきた頃には、立ち上がって歩ぎ回らいる程度に回復してだ。ただ、額がら血がだらだらど顔つたって滴り落ちてだ。おいは取り敢えずうっつぁっこどにして、KZHK君ど一緒にそれぞれ自転車さ乗っておらいさ向がった。  おらいさ着ぐど、KZHK君はおいよりも先におらいのおかあさんば呼びさいって、ちょうど自転車がら降りてきたおいば指しながら、
「おばちゃん、GTU君たいへんだ。あれ」
っつった。
「あら、なんだい、なにしたの」
「ん、日和山の陰のダムみでえなどごがら落ちたんだ」
「どれ、ちょっと待ってらいん」
っつうどおかあさんは、赤チン持ってきておいの額さ塗ったぐり、
「んで、まだ遊びさ行ってございん」
っつった。  その日、おとうさんがってきて
「HMHK、あしたスキーさ行がねが」
っつったがら、おいはその次の日、顔じゅうば赤チンどがさぶたで真っ赤にしてスキーさ行った。  月曜日に学校さ行ぐと、みなしておいの顔、見でたまげで
「GTU、なにしたのや?」
ど口々に訊いでくっから、
「日和山の崖のダムみでえなどごがら落ちたんだ」
ど説明してだら、その説明は友達には十分 通用すんだげっと大人には通用しねみでで、先生方だの親御さんだのの間ではいづのまにか、おいはダムさ落ちて泳いで助かったんだっつうごどになってだ。おいが水泳が得意だっつう話きいでだ隣の隣の先生なんかは、おいさ向がって
「GTU君は泳げっから助かったんだおんねー」
っつってきて、担任のUTM先生がおいの代わりに事情、説明してやってだげっと、今一つ納得できねえでるみでだった。親御さんのながさもおいの伝説ば御丁寧に言い伝えでけでる人だぢがいだみでで、その後もとぎどぎ「GTU君は三年生のどぎダムさ落ちたんだげっと、泳げたがら奇跡的に助かったんだど」っつう話が聞こえできた。


亀さ内臓


 三年生の時、UTM先生が出張でいねがったどぎの話。たぶん各教科ごとに課題が用意さいでで、手の空いでる先生がとぎどぎ様子、見にきてだんだど思う。その日は図工の時間があって、課題は油粘土で動物が何がば作っこどだったんだべな。おいはうぢで飼ってだ亀、作ったんだげっと、瞬く間にでぎあがってしまった。そんだげでは芸ねえがら、甲羅の中さ空洞つぐって、頭ど手足、引っ込むのいいようにした。んだげっと、空洞、作った分だけ粘土あまってしまったし、なんぼ見えねえどは言っても甲羅の中が空洞っつうのは今一つしっくり行がねえがら、おいはその空洞さ亀の内臓ば入れっこどにした。んでも亀の内臓がなじょなってっかっつうごどは分がんねえがら、人体図鑑さ載ってる人の消化器ど肺ど心臓がら想像して作った内臓ば、その甲羅の中さきれいに収めでやった。その様子ば見でだ代理の先生は、
「おお、亀さ内臓まで入れだのが。たいしたもんだなあ」
ど感心してだみでだがら、おいはうんと得意になって甲羅、開げでみんなさ内臓、見せびらがしてやった。こいづはぜひUTM先生さも見でもらわねげねえがら、甲羅の蓋は完全にねっぱさねで軽ぐ乗せでおぐだげにした。  翌日、UTM先生は——きのうのおまえだちの自習態度はうんとわりがったそうだな——っつってかんかんに怒った。そして、
「亀の甲羅の中に、はらわだまで入れだやづがいるそうだな」
っつった。おいは意外だった。きのうの先生は決して亀の内臓ば怒ってるふうではねがったのに、どいなふうにUTM先生さ伝えだんだい。粘土の無駄遣いば怒ってんだいが。んでも、元々甲羅の中さ詰まってだ粘土ば使ったんだし、自分の粘土は全部使ってしまっていい筈だっちゃ。亀さ内臓まで入れっこどは、おだってるっつうごどになってしまうんだいが。よぐ分がんねえげっと取り敢えずおいは、休み時間に亀の甲羅の蓋ばよぐねっぱして証拠隠滅しておいだ。


波の雪


 三年生が四年生のどぎの図工の時間に、おいは海の絵、描いでだ。当時のおいは漫画的描写っつうのが嫌いで、いっぺえ色まぜで濁らせで写実的な絵え描きてえど思ってだ。んだがら、海の波ば白い線で「逆さかもめ形」に描くなんっつう真似は、毛頭するつもりなんかねくて、おいは色々ど工夫して、紺色ど深緑色の混ざり具合ど濃さば微妙に調節して、自分では非常に満足の行ぐ「海」ば描ぎあげだ。そごさ、みんなの絵え見で回ってだUTM先生がやってきて
「GTUの海には波がねえなあ。白の絵具で波ば描ぎ入れでみろ」
っつった。おいどしては不満だったげっと、先生さ反抗してまでおいの絵の価値ば守る気にもなれねがったがら、取り敢えず先生の指示に従うごどにした。っつっても、せっかぐの「写実的な」海さ白の「逆さかもめ線」入れっこどには、さすがに忍びねえ。何がいい方法ねえべが。考えでみれば、砕波してぐ波っつうのは確かに白く見えねえごどはね。おいは波の砕波ば想像しながら、堅い筆の先っちょば使って白い点々ば描ぎ入れでった。最初は部分的に入れるつもりだったんだげっと、ながなが辺りの暗い部分さ調和しねがら、まるでゴッホの絵えみでえに、海全体さ白の点々ば散らしてみだ。そいづは最初の状態に比べっと今一づ満足の行ぐものではねがったげっと、先生の指示は守んねげねっつう条件の下で達成され得る最良の出来だべど自分では納得してだ。そしてるうぢにまたUTM先生が回ってきて、
「あららら、GTUの波は雪になってしまったなあ。白の絵の具でスーッスーッと細い線ひげっつう意味で言ったんだげっとも、まあいいが」
っつった。その先生の目論見ば阻止してやったっつうごどだけで、おいはそれなりに満足してだ。んでも、やっぱり最初の「海」の方いがったなあ。

むがしむがし
サンタさんの日に
おもちゃこ買ってもらったおいは
ふと考えだんだでば
そう言えば
大人はおもちゃ欲しいど思わねんだいが
おかあさん、
おかあさんはサンタさんの日に
おもちゃ買って欲しいど思わねのすか?
大人なっとな
おもちゃ欲しいなんて
思わねぐなんだ
そう言えば
おやづ喰うどぎ
おとうさんだげはお菓子 ねがら
おとうさん、
おとうさん お菓子たべでど思わねの?
って訊いだら
大人なっとな、お菓子たべでなんて
思わねぐなんだ
っつってだっけ
ほいなごど思い出してるおいも
もう、だいぶめえがら
お菓子 喰いでなんて
思わねぐなってっけっと
んだがらっつって
飲みでど思って酒こ飲んでる訳でねえし
一日三食の飯が
うめくても
うめぐねくても
ほんたらごどはさっぱり重要なごどでねくて
おもちゃこの山だの
お菓子の山が
おいの目のめえさ堆ぐ積もってだ頃
ほいな山でハ 到底 埋め尽ぐせねえおいば
おいさも気付がいねで
ずうっと
生まれだどきから
すっぽりど
埋め尽ぐしてだ大切な山っこが
実は
毎日 少っつず崩れでで
おいが大人になった途端
自分が大人だっつごどさ気付いだ瞬間
言わばねぐなってしまったのっしゃ
そしたらば
おもちゃこも
お菓子も
なんの価値もねぐなってしまったのっしゃ
実に空虚だ
なんにもねんだ
んだ
なんにもねんだ



東屋の夢


 幼稚園の時よぐこの夢、見だ。おいは海に面した土手っこさある赤い東屋で遊んでで、おかあさんが微笑みながらそいづば見でる。おいは東屋の柱さ手え掛げでぐるぐる回ってんだげっとも、海側さ来たどぎ、柱が太くて体重、手で支えきれねで海さ落ちそうになる。おいは必死におかあさんさ助け求めんだげっと、おかあさんはただニコニコ笑っておいんどご見でるだけだ。海さ落ぢっとこで目え覚める。


一九九九年の夢


 小学一二年の頃、おねえちゃんがらノストラダムスの大予言の話ば聞がさいだせいでこいな夢、見だ。  休み時間に校庭で遊んでだら、一九九九年になった。空がら恐怖の大王がいっぺえ降ってきた。背丈はおいだぢ小学生と同じぐれえで、閻魔大王みでえな顔してだ。やっぱりノストラダムスの大予言は本当ほんとだったのが。
「どうすっぺ」
おいは前にいだ友達さ話し掛けだ。振り返ったその友達の顔は、恐怖の大王の顔になってだ。よっく見っと、周りさいだ友達はみんな恐怖の大王になってだ。友達の一人が口、開げだ、
「ははははは、実は今までずうっとみんなでGTU一人ば騙してだんだ」
つまり、おいはこの宇宙人みでえな連中の設定した舞台装置の中で、生まれたどきからモルモットどして実験観察さいできたっつうごどみでだ。いってえ用済みになったおいは、これがらどいなおっかねえ目に合うんだい…………そいなごど考えでるうぢに目え覚めだ。


息でぎねえ夢


 小学一二年の頃がらつい最近まで、時々「息できねえ夢」見だ。おいは当時がらアレルギー性鼻炎っつうが鼻つまってで、鼻で息すっこどできねがった。んだがら本当ほんとについ最近まで、普通の人は鼻で息してっつごど知ゃねがった。 それはそうど、おいは眠ってっ時もたぶん口で息してんだど思うげっと、たまにこの口さ重でえ布団かぶさって塞がってだりどが、唇周辺さ付着したねっぺどがの粘液が固まって上下の唇が完全にねっぱってしまったりすっこどあるみでだ。 そいなどぎに限っておいはたいてい夢、見でんだげっと、勿論夢の中ではそいづが夢だどは思ってね。最初なんとなく息、苦しぐなってきておがしなど思って、何回が深呼吸して一時的に直ったみでな気いすっけっと、そのうぢまだ息、苦しぐなってくる。やっぱりおがしなど思って、夢の中の人だぢさ息、苦しいごど頻りに訴える。場合によっては酸素ボンベ登場したりしたごどもあったがも知ゃねげっと、そいなのは何れも一時的にしか効果ねえ。どうもおがしなど思ってるうぢに、実はこいづは夢なんだっつごどに気付ぐ。それがらが恐怖だ。このまま息できねえまま眠り続げだら死んでしまうっちゃど本能的に悟る。なじょにが目え覚ますべど思案すんだげっとも、息、苦しくていい案、思い付かね。そしてるうぢにもどんどん息、苦しぐなってきて、いよいよ苦しぐなっと夢の状態がらは脱け出して、自分が布団さ横たわってるっつう感覚だげ実感できる状態になる。とごろが、はいぐ目え覚まさねげと必死に体、動がすべどしても、体、動がす神経の方はまだ覚醒してねがら体はピクリども動がね。鼻がらでも口がらでも息、吸い込むべどして、思いっきり息、吸うように力、入れでも全然息、吸えね。一度だげこの状態がら息、吸えで目え覚めだごどあったげっと、この方法はあまりにも苦しい。とにかぐおいは全身に力、入れで必死に動ぐべどする。体じゅうのどごが一箇所が少しでも動げば、その瞬間に全身の呪縛、解げて一気に目え覚めるっつうごどは経験的に知ってる。んでもそうなるまでにはかなりの集中力ど時間、要すがら、おいはその間ずっと苦しんでねげね。おいが眠ってる間、苦しんででも、どうせおとうさんもおかあさんも気付いでけねがら、おいは結局このまま死んでしまうのがいやっつうごどはその都度考えだ。目え覚めで息、吸えだ瞬間っつうのは、プールで潜水してで息、苦しぐなって水面さ顔、出した瞬間以上に動悸も息切れも激しぐなってっから、こいづはきっと心臓さわりいに違いね。  おいは時々心配になってこのごどおかあさんさ言ったげっと、
「なんだべ、すかねごだ。重でえ布団ばかぶって寝でっからだいっちゃ」
っつわいで、はっぱり取り合ってもらえねがった。


八時二十分の夢


 夢、見でだら八時二十分になった。こいづはまずい。学校さ遅刻してしまう。はいぐ目え覚まさねげ。おいは焦った。そんでも一向に目え覚めねえまま、夢の中で時は刻一刻と過ぎでぐ。おいは夢の中で学校さ行ぐ途中、梅ヶ丘のどごでA君に相談してだ。
「あのやー、実はこいづ夢なんだげっともやー、もう八時二十分だべ。はいぐ目え覚まさねえど遅刻してしまうんだでば。んだがらさっきがら目え覚まそうどしてんだげっともや、さっぱり覚めねんだ。どうすればいいべ…………」  そしてるうぢに、九時、十時……ど夢の中でどんどん時間が経過していぎ、とうとう夕方になってしまった。たぶん学校げえりだど思うげっと、おいはまだA君さ話し掛げでだ、
「あーあ、もう四時二十分だ。とうとう間に合わねがったなあ。一日じゅう目え覚めねがったなあ。んでも、どうしておらいのおとうさんだのおかあさんも一日じゅう起ごしてけねがったんだべなあ……」
っつってだら、目覚まし時計が鳴って目え覚めだ。まだ六時五十分だった。


食パン買いさいぐ夢


 夜になっておかあさんが
「HMHK、食パン買ってきてけらいん」
っつったがら、おいは佐々木屋さんさ食パン買いさいった。無事に食パン買い終えでってくる途中、おいはなんかおがしいど思った。おらいさ向がう道路沿いの家並が、どうも、いっつも見慣れでる景色ど違うのっしゃ。おがしい。おいはNBちゃんらいがある筈の所さあるうぢば、じっと覗き込んだ。NBちゃんらいってこいなんだったっけがや。なんだが、見れば見るほどNBちゃんらいどは違って見えだ。白熱電球の明りば漏らしてる玄関には、赤だの白だのの靴が整然といっぺえ並べらいでで、その一つ一つが実に鮮明に見えでだ。おいはその靴の一づ一づ見ながら、——こいづはやっぱり夢なんだいが、夢だったらこんなに鮮明に見える訳ねえよなあ——ど考えでだ。その玄関の中は、外の暗がりどは対照的に実に明るぐ鮮明に写し出さいでで、今にも中がら人っこ出てきそうだがら、おいは覗ぐのやめだ。一応おらいある筈の方向さ少し向がってみだげっと、いよいよ辺りの家並は見だごどねえ景色になってった。しかもそうした景色は、夢だっつう確信、持づにはあまりにも鮮明なだげに、おいは言い知れね恐怖、感じでだ。夢であってけれ。夢であってけれ。そう念じながらおいは、見だごどねえ夜の風景の中さ立ちすぐんでだ。そしたっけ、カチャッカチャッど蛍光灯、点ける生々しい音こして目え覚めだ。たぶんおかあさんがたった今、部屋の蛍光灯、点けたんだ。おかあさんは
「HMHK、今から出がげんだがらはいぐ着替えらいん」
っつって、慌ただしぐ箪笥がらおいの下着、出してだ。おいは急かさいるままに着替えながら、 ——こいな朝 はいぐがらどこかさ出掛げるっつうごどは、たぶんきのうのうぢがら既においさも教えらいでだごどに違いねえような気いすっけっと、一体いってえどこさ行ぐごどになってだんだっけ……思い出せねえげっと、きっとまだどごがさ家族旅行さでも行ぐんだべ——ど期待してだ。その時まだ、カチャッカチャッっつう実に実在感のある生々しい蛍光灯、消す音して目え覚めだ。まだ真夜中でみんな寝静まってで、だいががたった今蛍光灯、消したっつような気配は全くねえ。ただ就寝時用のちゃっけえ電球だげが、たった今蛍光灯がら点滅器が入れ換わったど思わせる鮮やかな余韻ば、おいの耳許さ残して茶色い光、放ってだ。


カーテンの夢


 子供の頃、病気になっと必ず同じ夢、見だ。仰向げで空中さふわふわど浮いでで、上、見でる。上には灰色のカーテンみでえなのがわやわやと揺れでで、よっく見っと赤い花柄模様みでえなの付いでる。っつっても目に入るものはみんな濁色ががってで、チラチラする白黒テレビの白色雑音の画像みでえに非常に先鋭的に見える。それがら「あーああーああーああーあ」っつう気持ぢわりいソプラノの声が、風の音みでえに聞こえでる。こいづは、後にっきぐなってがら見だ「二〇〇一年宇宙の旅」の中の「モノリスの主題」(リゲティ作曲ソプラノ、メゾソプラノ、二つの混声合唱と管弦楽のためのレクイエム)どまるでそっくりだ。とにかぐ、こいな不快な画像ど不快な音の中に浮かびながら、物凄ぐ不安ど焦躁に駆らいでるっつう、うんといやな気持ぢのする夢だ。この夢にも段々、変化、出できて、上に見える「カーテン」の右端と左端の中央に深緑色のもの見えるようになってきた。あいづはなんなんだべど思ってるうぢに、その深緑色のものあっとごさ行ってみらいるようにもなった。そいづはなんと、深緑色した戦車だった。時々戦車の脇さ運転手いだような気もすっけっとも、よぐ覚えてね。 飽ぐまで基本的な型は、仰向げに浮がびながら「カーテン」見でるっつう状態で、この夢、見でだ最後の頃には、「カーテン」の真ん中さ100どが200どがひょっとすっと700どがの数字、描がいでだような気いする。小学校高学年以来この夢は見ねぐなったげっと、周期的な電子警報音だのさっきも言ったリゲティの声楽曲どが聴いでっと、この夢の記憶表象が時々蘇ってくっこどある。  さて不気味なのは、こいっとそっくりの夢、見でる人がおい以外にもいだっつうごどだ。中学二年のどぎ、数人の友達がたまたま「子供のどぎ病気になっと必ず見る夢」の話、してで、おいもなにげねぐ話さ交じってだら(おいの話、聞ぐ前が後がは覚えでねえげっと)、HTGIが「カーテンの夢、見だ」っつったがらたんまげだ。 おいの夢どの共通点、捜すべぐ訊き質してったっけ——花柄の白だが灰色のカーテンが上の方でゆらゆらど揺れでで、そいづば仰向げに空中に浮かびながらうんといやな気持ぢで眺めでる——んだど。ソプラノの声は特に記憶にはねんだど。戦車だの数字のごどは、その時のおいもまだ思い出してねがったがら訊がねでしまった。んでも「カーテン」の一致だげでも、おいには十分 不気味だった。  大学一年の夏休みに、高校の物理部の合宿さ遊びさ行った。案の定、夢の話になっておいが「カーテンの夢」の話したら、一年後輩のHMYどがっつう部外者が突然、
「ぼくもその夢見た」
っつってきた。おいはまだ、おいの夢どの共通点ば捜すべぐHMYに訊き質していったっけ——白っぽいカーテンみでえなものば見ながら仰向げに浮がんでで、なんだが全体的に濁色がかった世界で物凄い不安ど焦躁に駆らいで、うんといやな気持ぢがする——んだど。花柄どソプラノは特に記憶にねんだど。HMYと話してるうぢに、おいには「緑色」の記憶が蘇ってきた。
「そういえば、なんか上の方の右ど左のこの辺さ緑色のものねがったが?」
「うん、あった。そう、ちょうどこの辺に緑色のものが二つあった」
「んだよな。この辺どこの辺に、緑色っつうが深緑っつった方いいがや」
「うん、濁色がかった緑色のものが見えた」
そごでおいは戦車の記憶ば思い出した。
「あっ、もしかしてその緑色のやづって、戦車でねがったが?」
「あっ! そうだ。戦車だ。緑色の戦車だ。だからぼく、いつもこの夢見るたびに、おかあさんに『ぼくまた戦争の夢、見た』って言ってたんだ。そうだ、戦車だ。だからぼく、この夢のこと『戦争の夢』って言ってたんだ」  「戦車」っつう具体的な表象まで一致すっとはさすがにおっかねえ。なんとも不可思議な一致だ。因みに数字のごども訊いだげっと、こいづは記憶にねんだど。  おいが大学二年の時、この夢どは全然関係ねえごどだげっと、HTGIが自宅の窓がら落ちて死んでしまった。結局、事故なのが自殺なのがは分がってね。ただ、HTGIの通夜の晩にOKMTがら聞いた話ば一応書いでおぐが。中学二年のある日、OKMTどENKがまったく同じ夢ば見だんだど。その夢っつうのが、HTGIが狂って窓がら落ちて死ぬ夢なんだど。なんとも不気味な話だ。こいなごどば真夜中に棟割長屋の一室で書いでで、HTGIの幽霊なんか出てきたりすっとは思わねげっとも、そんでもちょっとおっかねえがらこの辺でやめどぐが。 っつうような話ば、その後、怪談どが夢の話になる度にしてだっけ、この他にも三人ぐれえ病気のどきに「カーテンの夢」みでえなの見でる人、見っけだ。ただ、このうぢの二人は、上の方でねくて下の方さカーテンみでえなのがワヤワヤど揺れでで、そいづば、空中さうづぶせに浮かびながら眺めでんだど。一人は、正に白黒テレビの白色雑音みでえだっつってだ。ただ、それ以外の花柄どがソプラノどが戦車どがっつう具体的な表象まで一致する例は特にねがった。まあ、おいが今まで色んな人さ「カーテンの夢」の話して、この程度に似だような夢、見でる人がこのけぐれえ出でくるっつうごどは、この程度の確率で似だような夢、見でる人が分布してるっつう程度のごどなんだべな。つうごどは、例えば、仮にこの文章ば読む人が何千人どが何万人どがいだらば、花柄だのソプラノだの戦車だのの全ての項目がほぼ完全にそっくりなような夢、見でる人、出てきても別に驚くには値しねべな。そいづは別に神秘でも何でもねくて、標本ばいっぺえ集めれば、たまたま一致するやづも出てくるっつう程度のごどだべ。一応、最初に釘ぶっとぐげっと。


天国の夢


 小学三年の頃、TKMS君がズボンのポケットさ一万円札、二枚入れで、友達どプラモデル屋さんさっていった。
「原爆買うが」
「んだな、原爆買うべ」
こいづらはいっそ危ね遊びばりしてっから、おいは心配だったげっと、今度は原爆、買ってきたみでだ。この連中さ原爆なんかあつけだら、何やらがすが分がったもんでねえ。おいは気が気でねがった。連中は車の蓄電器みでえな形した原爆ばちょしながら、
「火ぃ点けでみっか」
「んだな、爆発させでみっか」
「んだ、爆発させでみっぺ」
ど話し合ってだ。おいが
「やめろっ!」
ど叫んだ時は既に遅がった。耳がキーンとなって、ぐわぐわと痛みが頭の奥さ入り込んできておいは死んだ。  気い付ぐど、おいは「オズの魔法使い」の映画で見だオズの国みでえな(緑色の原っぱの中さ黄色の道が縦横に走ってる)どごさいだ。そういえば、TKMS君が原爆、爆発させだがらおいは死んだんだった。っつうごどは死後の世界はやっぱりあったんだ。助かった。少し歩いでぐど、黒板みでえな四角いものの周りさ級友だぢがいた。話によっと、TKMS君の原爆のせいで世界じゅうの殆どすべての人が死んで、こごは天国なんだど。
「TKMSがやー、原爆、爆発させでしまったがらやー、結局みんな死んでしまったんだいっちゃ」
「んでも天国に来れだっつうごどは、もう絶対に死ぬっつうごどはねんだべ」
「助かったー。天国ってほんとにあったんだいっちゃ。ほんとに助かったー」
「んだ、助かった。もう死ぬごどば心配しねくたっていんだっちゃ。あど、ずっと安心していらいる。ほんとにいがったなあ」
「んだ、いがったな。こうやって、みんなど一緒にずっと生きていげんだいっちゃ。かえっていがったんでねえが?」
そんな幸福感でいっぱいにに満ださいだおいは、これがらどいな楽しい日々が待ち受げでんだべど夢想してるうぢに目え覚めだ。せっかぐ天国あったど思ったっけ、実はただの夢だったつけ。そいなの、あまりにもがっかりだないや……

おいの見でるものが
やっぱりおいば見でで
おいがそいづば見でんのが
そいづがおいば見でんのが
分がんねぐなって
んでも実はそいなごどは
さっぱり重要なごどでねくて
こいな世界さ
いづまでも
どっぷりど
浸かってらいだら——
いいべなぁ
っておいはずっと夢見続げできて
未だに夢にすら見だごどねくて
おいの見でるものは
おいの見でるもので
おいば見でるものは
おいば見でるもので
ただそれだけで
おいは
おいは
おいは
おいは
——やっぱりおいで



HRTK


 HRTKはおいが今まで出会った中で一番利口で、おいさ多大な影響ば与え得だ数少ねえ人間の一人だど思う。HRTKさ初めで会ったのは、確か小学一年のどぎだ。担任のKNN先生が一週間ぐれえ出張すっから、おいだぢはその間、三つの班さ分げらいで他の学級さお邪魔すっこどになった。おいの班は一年三組にお邪魔すっこどになった。そごでおいはHRTKに出会った。放課後、HRTKはニヤニヤしながらおいさ近寄ってきた。おいが
「何したのや?」
ど訊ぐど、
「はははは、実はやー、ポケットさチーズ入れでだんだげっともやー。すっかり忘ぇででやー。こうやってバンって叩いだっけや、びしゃって潰れでしまってやー。はははは…………」
っついながらHRTKはチーズでぐちょぐちょになってっぺなポケットの中ば見でニヤニヤ笑ってだ。その当時の年齢のおいだぢにとって、ポケットの中でチーズば潰してぐちょぐちょになってしまったなんつうごどは、自分自身、気持ぢわりいし、うぢさ>ってがらかあちゃんに怒らいっぺがら、そいな笑ってらいるような事態ではねえ筈なのに、そいなぐ笑い事で済ましてるHRTKっつう人間は、ただ者ではねえっつう印象ばおいは受げだ。


三年四組


 三年生になったどぎ組み換えあって、おいはHRTKだのOKMTど同じ四組になった。まだHRTKの名前、知ゃね頃(ひょっとすっと三年生の一番最初の日)のごど。NMKRが何がの瓶の蓋ば開げらいねでで、周りにいだおいだぢは順番にその瓶の蓋、開げっぺどしたげっと、びくともしねがった。瓶の蓋、開げっぺどしてるおいだぢば見だだいがが、
「HRTKに開げでもらえ。あいづ、ばがぢがらだがら」
っつった。その辺さいだHRTKば知ってる連中も
「んだ、HRTKに開げてもらえばいんだ」
ど、この意見に素直に同意し、その前に自分が開けてみせっぺっつうような気い起ごすやづはいねがった。一体いってえそのHRTKっつうのはどいなやづなんだべど思ってだら、なんと、ポケットさチーズ入れで潰したやづだった。HRTKは確かにばがぢがららしぐ、無造作に瓶の蓋、開げた。そごさいだ連中は
「やっぱりHRTKすげえなー」
ど素直にHRTKば称賛してだ。しかし、誰一人どしてHRTKさ競争心の欠げらすら持ってねっつごどが、おいには不思議だった。  たぶん同じ日の放課後だど思うげっと、ランドセル背負しょって廊下さ出だみんながHRTKんどご捕まえで、
「HRTK、今日おいど遊んでけろー」
「HRTK、今日はおいど遊んでけだっていいべー」
ど口々にねだってだ。HRTKは
「駄目だ。今日はちょっと用事あっから遊んでやらいね……あんだどは此間あそんでやったっちゃ。駄目だ。今日は用事あっから遊んでやらいねんだでば……」
どか言って断ってだ。こいづはおいには些か衝撃的であった。HRTKに遊んでけろどねだってだ連中には、まるで矜恃っつうものが認めらいねくて、恰がもちゃっけえおぼこが年上のきょうだいだの親だのさ一緒に遊んでけろどねだってる風だった。とにかぐそいな光景は、おいにはまるで異様だった。


ぞうりぶぐろ


 実際、HRTKど我々どの間には精神年齢にして十歳近え違いがあった。おいが最初にHRTKば凄えど思ったのは、たぶんぞうりぶぐろのごどだ。ある日、おいだぢはHRTKど一緒にった。途中で友達の一人がHRTKのぞうりぶぐろばふざげで奪い取り、そのままおいだぢの進行方向どは逆方向さ走ってって、そごさ捨てできた。おいはHRTKなじょすんだべど思って一瞬立ち止まったげっと、HRTKはぞうりぶぐろの行方なんか端っから気にもしねで歩ぎ続げ、おいがぞうりぶぐろのごど気にしてんの察して、
「いーい、大丈夫だ。いい、見でろよ。そのうぢ焦って持ってくっから」
どおいさこっそり呟ぎながら構わず歩ぎ続げだ。ぞうりぶぐろ捨てできたやづは果だして焦ってきて
「HRTK、HRTKのぞうりぶぐろあそごに落ちてっと。いらねえのが?」
ど何回も叫びながらHRTKがぞうりぶぐろ取りさ行ぐごど願ってだ。HRTKはその友達ば無視し続げんのも気の毒だど思ったのが、惚げだ調子で
「あーあ、××君にぞうりぶぐろ取らいで困ったなー」
どが言って、やっぱり歩ぎ続げだ。段々ぞうりぶぐろが落ちてっとごがら離れできたどごで、その友達は走ってってぞうりぶぐろ拾ってきてHRTKの許さ持ってきた。そんどぎHRTKはおいさ
「ほれな」
っつった。うんと勉強になった。その後、おいもこいな目に会ったどぎはこの手ば使うごどにした。


自習中にウルトラマン


 UTM先生が出張で一日じゅう自習だったどぎのごど。代理の先生もいねくて、課題も真面目にやんねくても簡単にでぎる類いのものだった。んでもおいだぢは真面目な小学生だったがら、おだぢもしねでみんなして静かに自習してだ。とごろが、HRTKがごそごそどウルトラマンだの仮面ライダーだのの消しゴムみでえなのば机の上さ出しておだぢ始めだ。こいづは、今日が自習だっつごどば知った 昨日きんなのうぢに準備してだ計画的犯行に違いね。
「うわっ、怪獣だ! ウルトラマーン、助けてくれ!
キーン
あっ、ウルトラマンだ。
ウルトラマーンチョーップ、やーー。
ウルトラマーンキーック、とーー。
しまった!
まちがって人ば踏み殺してしまった。
まあ、いいが……」
こいづば聞いでだ級友の中の一部の女の子だぢは、笑い堪えながらも
「HRTK君、学校におもちゃを持ってこないで下さい」
どが語ってだげっと、HRTKはそう言わいんのば待ち構えでだがみでに
「なんだい、こいづ消しゴムだでば。こいづねえど、おい間違いだどご消せねんだよ」
どが答えづづ
「ウルトラマーンキーック……」
ばまだやり始めんだおん。おいはHRTK羨ましがった。おいは、いっつもHRTKの二番煎じしかでぎねくて悔しい思いすっから、今度自習になったどぎごそはきっと何がしでかしてやっぺなどど考えでだ。


SBT君がねー


 そうこう考えでるうぢに、UTM先生が出張でまだ自習になった。ただ、今度は監督の先生がきた。HRTKは監督の先生いっから静がにしていざるを得ねがったが、それなりに先生に気付がいねえ方法で近ぐの席さいるSBTさすっかげでだ。確かにHRTKの方は静がだったげっと、すっかげらいだSBTの方が騒ぎだした。SBTは、こいな時に先生に気付がいねように遊ぶ種々の遊び方におげる暗黙の協定ばまだ理解してねがったのだ。
だいだ、おだってんのは」
ど監督の先生が言った。わりいのはHRTKの方だど知ってる「一部の女の子」だぢは
「HRTKくーんっ」
っつった。
「ちょっと前に出できなさい」
っつわいでHRTKは先生の前さ出でいった。
「あんだ、名前はなんて言うの?」
ど訊がいるや否やHRTKは、まるでその年の小学生がやるみでぐ顔ば真っ赤にしながら、
「うんとねー、SBT君がねー」
ど必死にSBTさかつけっぺどしてるみでぐ装った。そしたっけ監督の先生は、
「人のごどはどうでもいいがら、あんだがふざげすな。んでいいがら、席さ戻らいん」
っつってHRTKば席さ帰した。流石だ! ——どおいは思った。HRTKは、場合によっては年齢相応に幼稚に振舞った方が罪が軽減さいるっつうごどば十分に心得でんだ。こいなぐして今回の件もUTM先生にはばれねがった。


ロケットマッハ


 HRTKはおいだのOKMTのごどば他の小学生よりは大人だど評価してけでるみでで、おいだぢさはよぐ「だいさも言うなよ」ど前置ぎしてがら色んな「秘密」ば教えでけだ。例えばロケットマッハなんかは、軍に知れだりすっとまずい重大な秘密だった。ロケットマッハっつうのは、曾てヨカレンさ居だ人ば中心に構成さいだ組織(確かこいづには尤もらしい横文字の名前、付いでだげっと、忘ぇだ)によって極秘に開発さいだ有人飛行ロケットのごどで、構造は非常に原始的だげっとミグ二十五ば遥かに凌ぐマッハ五以上の速度、出せんだっつんだな。HRTKの兄貴がこの組織さ所属してるみでで、その関係でHRTKもロケットマッハ見だり、ひょっとすっと乗せらいだりしてるみでだ。おいだぢも最初は半信半疑だったがら、そいなものがあっこっておいだぢさそのロケットマッハの実物、見せでみろどHRTKに迫った。そしたっけHRTKは、「組織」に訊いだら試験してみで決めるっつわいだっつっておいだぢさ原稿用紙、寄越した。おいさ与えらいだ課題は、確か「あ」で始まって「か」で終わる作文ばちょっきり四百字で書くごどで、OKMTさ与えらいだ課題は、確か「さ」で始まって「た」で終わるやづだ。おいが書いだ作文は覚えでねえげっと、多分、超現実的な物語が何がだ。OKMTが書いた作文は、確か「さとうがテーブルの上からポロポロポロポロポロ…………(中略)…………ポロポロポロとこぼれた」どいった感じのやづだった。翌日、HRTKが試験の結果ば報告してきた、
「GTUのは合格だったげっとも、OKMTのは駄目だったな」
ど。しかしその後、結局おいは一度もロケットマッハ見せではもらえねがった。


お墓の火星人


 小学四年が五年の時の話。当時のおいは、よぐHRTKどお墓で忍術の研究しながら遊んでだ。お墓の中さも何軒が民家あって、そごの子供だぢ(確か五歳前後のきょうだい)が時々、忍術の研究してるおいだぢんどごば木陰に隠れながらこっそり覗いでっこどがあった。そいな時おいだぢは、その子供だぢに気付いでねえふりして火星人になり切った。まず両手ば前さ伸ばして
「ディーホーディーホーディーホーディーホー(ドーソーレーソーシーソードーソーの旋律で)」
ど歌いながら歩ぎ回り、
「はっはっはっ、我ら火星人の使命は、地球を征服することである」
ど叫ぶ。次に
「愚かな地球人は我々の存在に気付いていない」
どがっつう意味のごど言ってるあたりで、HRTKが突然
「うああああーー」
っつって胸、押さえで倒れ、
「SN七十四号大丈夫か!」
どおいが訊ぐど、HRTKが
「うっ、心臓部をやられた。地球の気圧は火星人には高すぎる」
ど呟く段取りになってだ。子供だぢはだいたい途中でいねぐなってしまうんだげっと、その日は最後までずっと息、潜めでおいだぢんどごば窺ってっから、おいだぢはつい調子にのって
「おやっ、しまった! 地球人に聞かれてしまったぞ!」
って叫んだら、子供だぢは慌てで逃げでった。その後しばらくお墓ばぶらぶらしてだら、民家の方がら子供の泣き叫ぶ声が聞こえできた、
「おかあーさーん、うんとねえ、おはがにかせいじんいだのーうっ!」
やべっ! おいだぢはわりいごどしたどは思いづづも、慌てで逃げでった。


オオウヂどキムラ


 小学五年頃のごど。おいどHRTKはよぐ、おらいの向がいさ住んでるMSAKっつう小学二三年の子供ばひずって遊んだ。MSAKはいっつもうぢの前で遊んでだがら、おいだぢの恰好の鴨だった。  まずおいだぢは、うぢの前の通りば自転車で一周してきてMSAKの前に現れ、おいは肩ば持ち上げ、HRTKは猫背になって、
「HRTKどGTUはいねえよな」
どがって呟ぎながら、MSAKば軽ぐいじめでおいで、
「HRTKどGTUに見付かっとまずいがら逃げっぺ」
どかって言い残してその場ば去る。そしてまだうぢの前の通りば自転車で一周してきてMSAKの前に現れ、
「今、オオウヂどキムラ来ねがったが?」
ど惚げで訊ぐ。MSAKはまだむつけでっけっとも、おいだぢの話ば不思議そうに聞いでる。
「オオウヂはやー、HRTKにそっくりなやづでやー、ただ猫背ぎみなんだ。キムラはやー、おいにそっくりなやづでやー、肩が出でんだ」
「あいづらやー、HRTKどGTUだっつって、おいだぢのふりしていろいろわりいごどしてっからなあ。今、追っかげでっけっとも捕まんねんだ」
「んで、もしオオウヂどキムラ見付けだら教えでけろ。あいづらほんとにおいだぢにそっくりだがら、騙さいんなよ。もし猫背のやづど肩出でるやづ来たらオオウチどキムラだがらや、やっつけでもいいぞ」
「ちくしょう、あいづら、どご行ったんだいな。んでまだ捜しに行ってくっからや」
そしておいだぢはまた通りば一周してきて、今度はオオウヂどキムラの恰好で現れ、
「おいHRTKだげっともや」
「おいGTUだげっともや」
っつってMSAKに近付ぐど、MSAKは
「あっ、オオウヂどキムラだな。もう騙されねえぞ」
っついながらおいだぢさかがってくる。おいだぢは
「おいGTUだ、信じろ」
「おいHRTKの方だでば」
どが言いながらやらいるふりして、適当などこで
「HRTKどGTU来っとまずいな」
っつって逃げでいぐ。そしてまた通り一周してきて、
「今、オオウヂどキムラ来ねがったが?」
ば繰り返してるうぢに、MSKはオオウヂどキムラの存在ば完全に信じるようになった。  この遊び二三日続げだある日、おいだぢはオオウヂどキムラのどぎにお墓でMSAKど格闘して、大袈裟に演出しながらやらいるふりしてその場に倒れだ。MSAKは満足して去ってった。しばらぐしておいだぢがMSAKの前に現れっと、MSAKは誇らしげに
「オオウヂどキムラばやっつけでやったど」
っつってきた。おいだぢはそいづば無視すっかのように、二人でこそこそ話、してるふうに装った、
「さっき、オオウヂどキムラ血吐いでお墓に倒れでだなあ」
「あいづら大丈夫がいや」
「あど死ぬんでねえが」
「かわいそうになあ」
どがっつってだら、MSAKの表情がこわばってきて
「ほんとはみんねえい人なんだべ、オオウヂもキムラもほんとはいい人なんだべ」
ど叫びだしたがら、次の日がらこの遊びはやめだ。


給食当番


 小学五年が六年のどぎ。おいはその日、給食当番だっつごど忘ぇでだ。んだがら四時間目の授業、終わっても、ずっと友達ど話、してだ。
「GTU、給食当番だべ」
ってだいがに叫ばいだどぎ、おいはあいにぐ既にしょんべつまってだ。給食の用意はそろそろ終わりかけでだげっと、給食の時間になってがらでは便所さ行ぎにぐいがら、先に小便の方ばさっさど済ませでがら給食当番やっこどにした。  急いで便所がら戻ってくっと、みんな席さ着いでおいの方ば睨んでる。給食の用意は終わってしまったのっしゃ。それにしても異様な雰囲気だごだど思ってっとSGI先生が口、開いだ、
「GTU君、どうして給食当番サボったのっしゃ?」
「ちょっと便所に行ってだので遅れでしまいました」
「そんな給食当番終わるまで、いづまでも便所に入ってる訳ないんでないの。給食当番やりたぐなくてずっと便所に隠れでだのすか」
「いえ、最初給食当番だっつうごど忘れでで友達ど話、してたがら……」
「そんなの理由にならないでしょ。それじゃあ、後片付けはGTU君一人でやりなさい」
おいは、おいみでな利口な生徒が「給食当番やりてぐねえがら便所さ隠れる」なんつう幼稚な発想する訳ねっつう実に自明な結論さ達しねえでる先生さも腹立ったげっと、給食当番、忘ぇででやんねでしまったっつうごどに関しては、そいづさ相応する埋め合わせばしとぐべきだっつう解釈の下に一応その罰当番には納得すっこどにした。  さて、しょんべして生理的苦痛がらは解放さいだものの、「給食当番やりてぐねがら便所さ隠れでだ」ど誤解さいるっつう心理的苦痛ば伴いづづ、取り敢えずおいは給食、食べ終えだ。みんなが食器、食器入れさ入れ終わった時点で、いよいよおいの仕事どなった。この食器っつのはアルミ製で、特に四十人分のお盆なんかは小学生が一人で持づにはちょっとしんどい代物だったげっと、おいには結構、自虐的な心理もあったがら、階段の辺りで転んで食器が散らばんのも劇的がいや、どが考えでだ。そしたっけ、意外にも事情ば察してだAMBだのMSYSだの当番でねえ連中までが(但しみんな男の子だが)、おいの罰当番ば手伝いだした。SGI先生のおかげで、友情の厚さっつうものば確認すっこどができた。


落どしたパン


 小学五年が六年のどぎ。当時、給食のパン喰いてぐねっつう理由で残すごどは、あんまりいいごどどはさいでねがった。但し例外があって、間違ってパン床さ落どしてしまった場合には堂々ど残すごどが正当化さいだ。んだがら、パン残してえためにわんざど床さ落どす生徒まで出現してだ。おいはこいな連中に対して、常々腹立ち、覚えでだ。  SG先生が出張でいねえ日のごど。給食の時間、HRAKが案の定わんざどパン床さ落どして、
「あ、パン落どしてしまった」
っつって袋さ入れだ。おいは無性に腹立った。食べ切れねえがら残すっつうんだったらむしろ正当な理由がも知ゃねげっと、落どしたパンぐれえほろって喰え、どおいは言ってやりてがった。んだげっと友達ば直接非難したりするなんつ真似でぎねぐする程度の自意識は、当時既に形成さいでだがら、何、思ったがおいはこいなごどした。まず、
「なんだ、このパンうめぐねえな。少し反省してうめぐなれっ」
っつってがらパンば床さ叩ぎつけで、そいづ拾って軽ぐほろって一口喰って、
「ん、まだうめぐねえな。もう少し反省しろっ」
っつってまだ床さ叩ぎつけで、拾ってほろってがら一口喰って、
「ん、なんぼがうめぐなったな」
っつようなごどやり始めだ。  こいづ見でだ大部分の男子生徒だぢは
「おー、GTU落どしたパン喰ったどー」
っつって喜んでだげっと、一部の女子生徒の方はおいんどご非難してだ。特に給食委員長のKは
「GTU君、パン落として食べるのやめて下さい。やめないとKE先生呼んでくるよ」
って何回もおいば威したあげぐ、本当ほんとに四組さKE先生ば呼びさ行った。  そのうぢKE先生がやってきた。教室の雰囲気が張り詰めだ。
「パンわざど床に落どしてる人って誰ですかっ」
おいは手え挙げだ。
「あんだすか、あんだ、なんでパン落どしたのっしゃ」
「おいしぐないので落どしました」
「あんだ、その落どしたパンどごにやったのっしゃ」
「食べました」
「なにす? 食べだってすハ? ……いいですか、みなさん、この人はあした病気になりますからね……」
その手の下んねえごど言ってる間じゅうKE先生はおいの後頭部ばぴしゃぴしゃ叩いでだ。  翌日、果だして病気になんねがったおいはSGI先生に呼び出さいだ。事情、知ってるAOYGが「HRAKの方が悪いんですよ」っつってけだがらHRAKも後がら呼ばいだげっと、SGI先生の頭ん中では主犯格はおいだっつうごどが定着してだ。SGI先生の説教はこいな出だしで始まった、
「ラーメン屋の主人はお客さんがラーメンのつゆを残すのがとっても悲しいそうですよ…………」
おいはちゃんと落どしたパン残さねで喰った訳だし、今どきラーメンのつゆなんて体にわりいものば、ラーメン屋さんにわりいがらっつう理由で無理して残さねで飲んでる人なんて果だしていんだいが。

十歳までは
しあわせだった
——どすっぺ
十一歳がら
不幸の成長が始まったのっしゃ
小学五年の組み換えが
引き金になったのっさ
おいは時々考えだ
本屋で立ち読みしてで
授業中に漫画描いでで
お墓で忍者ごっこしてで
——こいなごどしてで
楽しべが
いってえ何すれば
楽しべ
結局
分がんねがった
中学生なって
剣道部さった
ほいづが失敗だった
今日の放課後、部活ある
やんだなあ
あしたの朝、朝稽古ある
やんだなあ
今週の日曜日、練習試合ある
やんだなあ
失敗だった
緊張感は三年間
一度もおいば解放してけねがった
高校生なって
受験勉強やってきたおん
剣道部どは一味違う
焦躁感が三年間
一度もおいば解放してけねがったおん
大学生なって
いろんな蟠りがら
やっと解放さいだおいは
いろんなごどやってみだっちゃ
飲み方だの
カラオゲだの
んだげっと
十歳までの「楽しさ」
かぐれんぼだの
遠足だの
ど比べでしまうど
実は
はっぱり
楽しぐねんだ
いってえ何すれば
楽しんだべ
惚げるまでもね
そいなごどは
ずっとめえがら分がってだ筈だど
中学の頃には既に気付いでだべ
おいの目的は
おいがしあわせになっこどだ
人間の欲求項目は階層構造ば形成すんだ
取り敢えずその最下層の約なんぼがは
一通り満ださいでっこどが
他の上層の欲求さ意味、与える
しあわせの必要条件なのっさ
一づでも欠げだらば
何したって
十分性は満ださいね
そいづが種明がしっしゃ
惚げるまでもね
愛情の不在が
確かに
何したって楽しめる訳ねっちゃ
んだがらごそ
その約一個の必要条件ば獲得できるまでは
楽しむべどすっこどに意味なんてねっちゃ
十分性ば満だし得ね楽しみの全でば
おいは躊躇わねで放棄すっと
こんでいんだ
おいは
未だに諦め切んねえ約一個の
必要条件っつ奴ば
辛抱強ぐ
感化して
少っつず
おいさ靡がせる
っつう
実に幽かな
幽かな可能性さ
全でば賭げっこどに決めだんだおん
んだがら
こえがらも当分
ずっとおいは苦しいべげっと
んでも
こんでいんだ



便所覗ぎ


 小学校五六年の時のごど。当時、学校の便所でうんこする奴は少くとも男子生徒の中にはまずいねがった。学校でうんこなんかしたらば、たぢまぢ囃さいでしまうがらだ。つまり、おいだぢにとって男子便所に於げる大用便所の存在理由っつうのは、せいぜい扉さぶら下がって遊ぶ為ぐれえでしかねがった。言わば、便所の中さ小用便器ど鉄棒あるっつったぐれえの認識ばおいは持ってだ。んだがらその日も、おいは扉さぶら下がって何気ねぐ「懸垂」してだのだ(勿論、大便所の中側がらである)。おいが扉の上さ顔こ出して小用便器の方ば眺めでっとTKUTが
「あ、GTU便所に上がってる。先生に言ってくっぺ」
っつって去ってった。冗談だど思ってだら、まだTKUTがやってきて、
「GTU、先生呼んでっと」
っつってきたがら、こ馬鹿くせえどは思いながらも取り敢えず先生のどごさ行ぐごどにした。おいば認めるや、先生はこう叫んだ、
「GTU君、見えだのすか!」
「は? 何がですか」
「女便所覗いだんでしょ」
?!?! おいは呆れ果てでもの言うのすらめんどくせぐなったげっと、今回の誤解の場合は解いでおがねえどあまりに屈辱的だがら、先生が納得したのば確認するまで弁解した。このどぎ先生は、おいが女便所ば覗いた訳ではねっつうごどに確かに納得した筈なんだげっと——所詮おどなの堅ぐなった脳味噌は、一旦 自分の偏見でそうど思い込んでしまったごどは修正したりできねんだべな——おいが怒らいっ時の決まり文句が一つ増えで、
「石高の数学の先生の息子がパン落どして食べだり女便所覗いだりして駄目だいっちゃ」
どなってしまった。こいづ言わいる度に、人聞きわりいがらせめて「女便所」のどごだげは訂正してもらうがども思ったげっと、どうせそいなごどしたどごで次に怒るまでにはまだ忘ぇで元さ戻ってっぺがら、そのまま言わせでおぐごどにした。


蜘蛛の糸


 小学五年か六年の時の朝の会で、校長先生がこいな話、した。
「今日はみんなにクイズを出します。蜘蛛が自分で張った蜘蛛の巣に引っ掛からないのは何故でしょう? 次に言う三つの答えの中から正しいと思う答えを選んで下さい。まず一番目の答えは、蜘蛛の足には毛が生えていて糸にねっぱらないようになっているという答えです。二番目の答えは、蜘蛛の糸にはねっぱる糸とねっぱらない糸とがあって、蜘蛛はねっぱらない場所を知っているという答えです。三番目の答えは、蜘蛛は口から糸にねっぱらないような液体を出してこれを手足に付けているからねっぱらないという答えです。それでは一番から順番にみなさんに訊いていきますから、自分が正しいと思う答えに手を挙げて下さい」
実はこの謎掛げは何日が前のテレビの人気番組(クイズダービーだったいが)で出題さいだ問題だったがら、ほぼ全員の生徒が正解は三番だっつうごど知ってだ。
「一番目の答えだと思う人」
って校長先生が挙手ば促したげっと、当然の如ぐだいも手え挙げねがった。
「二番目の答えだど思う人」
当然 だいも手え挙げねえべっつごどは予測できたがら、おいは「うげ」ば狙って
「んだな、おいは二番だど思うな」
ってみんなさ聞こえるように呟ぎながら
「はいっ」
ど一人だけ手え挙げだ。計算通りおいは周囲の笑いば獲得した。皆が三番さ手え挙げで、校長先生が正解は三番だっつった後も、おいは
「あれ、おがしいな。二番だど思ったんだげっともな」
どがっておどけながら、「うげ」の余韻、楽しませてもらってだ。  家庭訪問でSGI先生がおらいさ来た時、おいはおかあさんがまだ嘘の供述すんでねえがど、隣の部屋で聞き耳、立ででだ。そしたっけSGI先生が 面白おもしい話、始めだ、
「GTU君は自分では真面目に振舞ってるんですけど、周りのみんなから見るとふざけてるように見えてしまうんですね……例えばですね、前にこんなことがあったんですよ……朝会で校長先生がクイズを出したんですよ……それでGTU君は自分が正しいと思う答えに一人だけ手を挙げたんですね。そうすると、周りのみんなは——まだGTUおだって、わざど間違いの答えさ手え挙げだな——って思うんですけど、でも実はGTU君は自分が本当に正解だと思う答えに手を挙げただけなんですよ……」
っつうごどは、おいは級友の笑い取る為のおどけにはほぼ不可避的つぎものであっとごの先生がらの非難をも回避し、級友に対する「うげ」ど先生に対する「うげ」っつう、およそ相容れねえものば両立してだのがも知ゃね。


地獄ど天国ど極楽


 幼稚園頃の話。「嘘ついだら地獄さ落ちて閻魔様にべろ抜がいっと」っつう話ばおとうさんだのおかあさんがら聞がさいだ時、既においは何回が嘘、吐いでしまってだがら、おいは死んだら地獄さ行ぐごどがはいぐも決定してしまってんのがど絶望的な気分になった。しかし大人の中で、生まれたどぎがら一度も嘘、吐いたごどねえ人なんてほんとにいんだいが。っつうごどは、殆ど全ての人は地獄さ落ちてんだいが。みなして落ぢんだごって、まあいいが。  そんな時、おねえちゃんの話は絶望してだおいさ希望、与えだ。
「HMHK、天国ど極楽どご違うが分がっか?」
「天国は外人、死んだら行ぐどごで、極楽は日本人、死んだら行ぐどごだっちゃ」
「違うでば。天国は、一度もわりいごどしねがった人がいぐどごで、極楽は地獄に落ちた人が反省すっと行げっとごだ」
「はんせいっては?」
わりいごどしたなあって反省すっこどだ」
そうが、地獄さ落ちても反省すれば極楽さ行げんのが。んで、おいも地獄さ落ちてがら反省して極楽さ行ぐごどにすっぺ。  ある日、地球の断面図、見ででふと思った。そういえば地獄だの極楽だのっつうのは、いってえどの辺さあんだい。そごでおかあさんさ訊ぎさいったら、
「そいなのは別の次元にあっから目には見えねえんだ」
っつわいだ(ミラーマンか何かの御蔭で、四次元どが五次元っつう言葉は遣ってだみでな気いする)。  まだある日、ウルトラマンが何が見でだっけ、子供が天国のお母さんさ届ぐようにど風船、飛ばす場面あったがら、
「天国は違う次元だがら風船飛ばしたって届ぐ訳ねっちゃ。こいづばがでねが」
どおねえちゃんの同意ば求めっぺどしたら、意外にもおねえちゃんは、
「こいなのは心の問題だがら、実際に届いでねえどしても心の中で届いだど思えればいんだ」
っつった。  ある日、決定的なごどに気い付いだ。そういえば地獄だの極楽っつうのは、いってえだいが何処で見で調べできたんだい。 おとうさんさ訊ぎさいったら、所謂臨死体験みでえな話さいだげっと、そんだったら極楽だの地獄の存在自体よりも、そいな人の体験談の方がよっぽど語り継がいる価値ある筈でねすかいや。にも拘らず、天国だの地獄の先験的な存在性の方が先行してしまってっちゃ。おがしな。んだっておいだぢの何百倍も何千倍も嘘、吐いできてる筈の大人が、地獄さ落ちて閻魔様にべろ抜がいる恐怖に戦きもしねで、毎日平然とした顔こして楽しそうに暮らせんのは、正にそごさ種明がしあっとしか考えらいねんでねが。こいづは子供さ言うごど聞がせるために大人が作った嘘なんだべ。やっぱり地球断面図の方、正しがったんだ。! んで、死んだら「無」になってしまうのがや。やっぱりそいづが本当ほんとなのすかや。思えば地獄さ落ぢる恐怖の方、死後の存在ば保障さいでる分だげましだったんでね。しかも「反省」して極楽さ行がいる希望あったし。おいは本当ほんとに絶望した。っつうごどは、天国ど地獄の作り話は、子供さ言うごど聞がせる為だけでねくて、せめて子供のうぢは死の恐怖ば悟らせねえでやっぺっつう配慮がら考えらいだ優しい嘘なのがも知ゃね。そうが。大人の人だぢは、一人一人それなりに死の恐怖ど対峙してんのが。おいもはいぐも大人の仲間入りすかや。流石だないや。


子供、生まれる秘密


 三歳の頃、おいは男は子供、生まねっつうごど知ゃねがった。ある日おいはおじいさんさ言った、
「おじいさん、オスのグズラどメスのグズラどっちほしい?」
「んー、子供生むがらメスの方いいな」
「オスは子供生まねえの?」
「オスは子供生まねえよ」
「オスも子供生むよ」
ここでおばあさんが割って入った、
「ははは、HMHKちゃんは子供生むんだおんな」
「うん、生むよ」
「ははは、ほうが、まいった、まいった」
この頃がらおいは、子供、生むのは女だけなんだっつうごどば悟っていった。  小学校一二年の頃、通学路に猥褻映画の貼り紙があった。当時がら純潔だったおいだぢは、この手の貼り紙の存在ば憎み、石ぶつけだり小便ひっかげだりしてだ。ある日おいはおねえちゃんさ訊いでみだ、
「なんで、ああいう女の人ってポルノ映画さ出んの?」
「お金なくて生活に困ってっからだよ」
なんぼお金ねえがらっつって、例えばもしおらいのおかあさんが猥褻映画さ出んだったら餓死した方ましだどおいは思った。つまり当時のおいは、女が男ど裸になって絡み合うっつう行為は、猥褻映画さ出でる人だぢがあるいはよっぽど物好ぎな人だぢしかしねえものだど思ってだ。  小学校四五年のどぎ、テレビで「西遊記」見でだ。ある村で猪八戒が井戸の水、飲んだ為に妊娠してしまう。その村さは男いねえがら、女だぢはその井戸の水、飲むごどによって子供ば授がるっつうごどになってるみでだ。実はおいにはその意味が分がんねがった。っつうのも、おいは男がいねげ女は妊娠しねえっつうごどばまだ知ゃねがったのだ。そごでおいはおねえちゃんに訊いだ、
「なんで男の人いねえど井戸の水飲まねげねえの」
「んだって男がいねげれば子供生まれねっちゃ」
「え、なんで?」
「んだって、動物だって何でもオスがいねげ子供生まれねえごどになってっぺっちゃ」
「そすかいや」
「いいがら、もう」
その頃がらおいは、女が妊娠する為には、理由は不明だげっととにかぐ男も必要なんだっつうごどが分がってきた。そういえば昔「HMHKちゃんはおとうさんに似でるねえ」っつわいる度に——おいは女であるおかあさんがら生まれだのであっておとうさんがら生まれだ訳ではねんだがら、「おとうさんに似でる」っつう表現はおがしいんでねえがや——どつぐづぐ不思議に思ってだものだが、やっぱり男も子供が生まれんのに関与してだみでだ。  こいづもその頃のごどだったど思うげっと、おねえちゃんの持ってだ中学何年生だがっつう雑誌の漫画ん中で、ガリ勉の男の子が女の子に接吻さいで——子供ができちゃう——ど叫んでんのがあって、意味、分がんねえがらおねえちゃんさ訊いだ、
「なんでこの人キスすっと子供でぎっと思うの?」
「んだって勉強ばりしてっから分がんねえんだいっちゃ」
「何が分がんねえの?」
「いいがらまず」
 おいはその辺のごどばおかあさんさ訊ぎさいった。おかあさんの曖昧で抽象的な説明の大まがな論理は、大体次のようなものだった。——女は最も接する頻度が多ぐ接する距離の短え男がら子供のできる要素ば受げ取っていぐ——つまり男女が接吻したり肌さ触れ合ったりすれば、そいなごどば介して男がら女さ子供、産む要素が浸透してぐのだ——云々。そこでおいが最初に類推の材料にしたのは植物の生殖だった。何でがっつうど小学校の理科の時間には、植物の生殖についでは教わったげっと、動物の生殖についでは一度も教わったごどねがったがら、おいが当時の知識で類推し得だごどっつえば——男の体がら——皮膚の表面がらが口内の粘膜がらがあるいはそれ以外のどこがらが、植物でいうどごの花粉みでな目さ見えねえものが飛散してで、そいづが女の皮膚の表面がらが口内の粘膜がらがあるいはそれ以外のどごがらが取り込まいで授粉すんだべ——っつう程度で、まだまだ疑問はあったげっとそれなりに納得してだ。  小学校五六年のどぎ、級友の会話の中に「せっくす」っつう言葉が聴がいるようになった。その会話っつうのは例えば、
「おめ、なんで子供生まれっか知ってっか」
「結婚すっからだべ」
「結婚すっとなんで生まれんのや」
「…………」
「あればやんねげ生まれねえべ。おめえ、しゃねのが。おめえのかあちゃんどとうちゃんもやったがらおめえ生まれできたんだぞ。おめえまだ子供だな。教えでけっか。せっくすだ、せっくす……」
っつうようなものっしゃ。  その手の話よぐ耳にするようになってがら、「せっくすすっと子供生まれる」っつう命題ばおいは信じつづあったげっと、ある友達がら次のような悩みば聞がさいでほぼ完璧に信じらいるようになった。
「おい寝でっと、おいのとうちゃんどかあちゃんせっくすやり始めっからや、おいずっと寝だふりしてねげねんだ。んだがら、しょんべつまっても我慢してねげねんだおん」
そうが、子供いる大人だぢは少なくともその子供の数以上の回数せっくすしてんだ。つまり別に物好ぎな人でねくても、子供のいる普通の人はせっくすしてんだ。この発見はおいにとって衝撃的ではあったげっと、同時にある種の安心感ば与えだ。っつうのは、今までおいは——せっくすっつうのは結婚した相手の人がよっぽど物好ぎな人でもねげできねんだべし、おい自身、自分が物好ぎだど思わいてぐねえがら、相手の人さそいなごど要求したりしねべな——って考えでだんだげっと、どうやらおいもだいがら咎めらいっこどもねぐ、少なくとも欲しい子供の数ど同じ回数だけはせっくすでぎっこどになりそだがらだ。そこでふと、おいは思ったんだげっと——そう言えば、大人だぢは知り合いの人が結婚すっと、微笑、湛えで「おめでとう」っつうげっと、そんどぎあの人だぢの脳裡さ「この二人はじぎにせっくすすんだ」っつう考えが果だして一瞬でも過ぎんねんだいが、——大人だぢは知り合いの夫婦さ子供、生まれっと、微笑、湛えで「おめでとう」っつうげっと、そんどぎあの人だぢの脳裡さ「この二人はせっくすしたんだ」っつう考えが果だして一瞬でも過ぎんねんだいが。そうが、おいは今まで騙さいでだんだ——自分だぢがせっくすしたごどば正当化する大人だぢのあの誤魔化し笑いに。


お墓のお婆さん


 小学校一二年の頃の話。おいは亀さ餌やるために毎日お墓さみみずとりさ行ってだ。その日もいっつもみでえにお墓の奥の方さってぐど、お菓子の包装紙ば剥ぐような音っこすっからそっちの方ば見でみっと、ある墓石の前でお婆さんの人が蹲って何やら不審な動ぎしてる。何が喰ってるみでだがらよぐ見でみっと、なんとお供え物の最中ば喰ってんだおんや。おいは何が見でわがんねえもの見でしまったみでな気いして、全身硬直してしまってだ。そしたっけ、そのお婆さんの人はおいの気配ば感じたのがゆっくりど首こ回し始めで、おいば直視できる位置まで振り向いでがら、恐ろしい形相で、
「みだなー」
ど呟いだ。おいは一目散にうっつぁ逃げ帰った。


かざぐるま


 小学二年頃の図工の時間がひょっとすっと理科の時間だったがど思う。その時の課題はかざぐるまば作っこどで、材料は色画用紙ど竹ひご、粘土、セロハンテープ、ホチキスぐれえだったいが。おいにはみんなよりうまぐ作れるっつう公算があった。っつうのも、前に厚紙 切り抜いで作る飛行機 飛ばしてだ時に、おとうさんがらちょっとした航空力学的講釈バ聞がさいでだがらだ。そいづは、主翼の前方バ少し下側さ折り曲げでおぐど飛行機が自重で落下する際に空気が後ろさ押し流さいで推力が発生するっつうものだったような気もすっけっと、こいづは少くとも揚力の発生理由どしては間違ってっから、おとうさんの名誉の為に、垂直尾翼の方向舵バ曲げっとそいづさ当だった空気が側方に押し流さいで飛行機の向ぎ変わるっつうものだったっつごどにしておっか。おいは飛行機の翼さ当だる風の向ぎど空気の押し流さいる方向どバ考えだ上で、面内十字形に配した四枚の翼の長手側の片端バ各々翼幅の七〜八分の一だけ直角に折り曲げだものバ構想して製作段階に取り掛がってだ。周りのみんなは、正方形の四頂点さ切れ目、入れで真ん中で留める古典的かざぐるまどが、せいぜい切り出した一枚の紙の数箇所さ切れ目、入れで折り曲げる程度のごどしかしてねがった。当然そいな作業工程の少ねくて済むかざぐるまははいぐも出来上がり始め、KNN先生は出来上がったひとがら校庭さ出でかざぐるま回してみっぺしっつった。 そうこうしてるうぢに教室さ残ってんのはYMKさんどMZSW君(だったいが?)どYSNR君ぐれえになってしまった。尤もおい以外は創意工夫バ狙ったせいっつうよりは寧ろ、単に作業速度がのろいだけだったみでな気もすっけっと。その中で、比較的創意工夫バ指向して地道に何が作り続げでだYSNR君が突如作戦バ変えだ。今迄せっかぐ、までえに作り続げでだ失敗作らしぎものバ放棄して、画用紙バ三十センチ径のいびづな円に切り出した。周りさ一センチ間隔で切れ目、入れで各々折り曲げで、中心位置さ竹ひご刺して粘土で留めで、更に把手バ付けで——ど実に粗雑に、あっと言う間に新作バ完成させだ。おいにはそいな何も考えねで作ったかざぐるまが回っとも思えねがったげっと、果だしてそのいびづなおっきなかざぐるまは、YSNR君が息、吹っ掛げっと実にくるくるど回った。 こうして教室には、おいどYMKさんどMZSW君の三人ぐれえだげが残さいだ。自分のかざぐるまが完成しさえすれば、他のだいのかざぐるまなんかよりもよぐ回る筈だど思いながらせっせど作業バ続げでだおいさ、ぼそりどYMKさんが一言呟いだ、   
「あだしさー、GTU君のかざぐるま回んないど思うよー」
その言葉はおいの心さ突ぎ刺さった。咄嗟においは、
「んだ、おいもおいの回んねんでねえがど思う」
どがど同意しつつ、動揺が露呈してかっこわりぐなんのバ辛うじて防いだ。そう言わいでみっと、自分の目で冷静に見でもまるで回りそうにねえ、セロハンテープど粘土バ駆使したごっついかざぐるまさ、今どなっては無駄な仕上げ施しづつ、おいは徐々に絶望的な気分になってだ。一体いってえなにがまずがったんだい。色んなごどがまずがった。翼バ取り付けらいだ四本の竹ひごバしっかり固定すんには相当量の粘土バ要し自重が重でぐなり過ぎだばがりが、そんでもしっかりどは竹ひごは支え切れでねくて、更に竹ひごど翼どの接合さも相当量のセロハンテープ要して尚しっかりどは固定さいでいねがった。 そんなどこさ突然KNN先生がってきて、
「なんだい、あんだだぢ。いづまでつぐりがだしてんのっしゃ。さっさどつぐって外さ回しさござい。あど時間ねぐなるよ」
どが本当ほんとにたまげだみでに言い残して出でった。
はいぐつぐれって言われでも、でぎないものはでぎないよね」
どYMKさんが呟ぎ、今や自分も同類ど化したごどバ自覚したおいは、
「んだよなー」
ど相槌、打った。その時のおいは本当ほんとに葛藤の中さいだ。確かにおいも子供だったがら、時間内にかざぐるま持って校庭でみんなど一緒に回してみてがった。 方法はねえ訳ではね。 残さいだ材料で、例の古典的かざぐるまバ作ればいんだ。あいづが何で回んのがは分がんねげっと、確実に回っこどが歴史的に保証さいでるし、五分もあれば完成する。しかしそいな妥協はおいにとって堪え難い屈辱だった。 自分なりの物理的考察に基づく努力の結晶バ断念して、だいもがやりそな最も安直なやり口さ乗り換えだんでは、おいの今迄のせっかぐの高尚なる苦労が悉く踏み躙らいでしまう。そもそも おいは、自分が創意、凝らして思い、入れで作ったかざぐるまが回っこどにごそ——そんな回っこどが保証済みの安直なかざぐるまでは得らいねえ——深い喜びがあんだど確信してだんだ。んだがら縦んば作んのに手間取って回す時間が少ねぐなったにせよ、或はそれほどよっく回んねがったにせよ、喜びの積分はおいの方がっきぐなるに決まってる——どそんな公算が おいバ支配する希望だったのにや。今やおいは本当ほんとに絶望した。十分に子供だったおいは——時間内にかざぐるま回せねえどしても自分が納得する満足以外は拒否する主義バ貫ぐよりも——屈辱バ伴ってでも、その残さいだ僅かな時間にかざぐるま回すごどの方さ魅力バ感じでしまったんだ。大作、作る為に大部分、使い果だした画用紙の切れ端がら、おいはどうにが十センチ角の正方形 切り出して、案の定——ついさっき、みんながそうやんの見ながら軽蔑してだどごの——四頂点さ切れ目、入れで折り曲げで図心さ留める——古典的かざぐるま作ってだ。当然の如ぐ、そいづはいども簡単にあっっと言う間に出来上がった。そんどぎ教室さYMKさんだのMZSW君が残ってだがどうがは覚えでねえげっと、おいは情けねぐもその完成品バ手に慌てで焦って校庭さ飛び出してった。そのだいよりもちゃっけえちっぽげなかざぐるまは、風こ浴びで小気味よぐくるくるど回った。KNN先生はやっと出できたおいの力作バ認めっと、しゃましたっつみでぐ、
「なんだべ」
っつった。おいは、おいよりはよっぽどましなかざぐるま持ってはしゃぎながら 走回はしまわ ってる友達、眺めながら、残さいだその僅がな時間バ実に複雑な気持ぢで「楽しんだ」。

おいの人生の目的が
一づのかざぐるま作って回すごど
に譬え切れっとは思わねげっと
そんでもおいは死ぬまでの間に
っつうが、そいづバ享受すべき十分な
余生バ残したうぢに
やっておきてえ
やっておがねげねごどっつうのあって
そのごど はいぐがら自覚してだおいは
極めで慎重に地道に安全に
そのかざぐるまみでえなもの
作ってきたんだど思うし
小学時代の一件は
より適切な知識ど判断力の習得により
解決する種類の失敗だったどしか
思ってねがったげっと
現にそいなもの
まるで持ち合わせでねえ級友の殆どが
あの授業時間内の楽しみバ最大にする
適切な選択バ本能的に為し得だんだど
……どうやらおいは
なげえ時間 掛げで
まだ同じごどバ
一所懸命
やらがしてきてしまってんだが知ゃね
んだ、今おいは
あん時どまるで同じ葛藤の中にある



おんぶ


 紺のおぶ紐ば何回が見でる記憶はあっけっとも、はっきりしたおんぶの記憶も一つぐれえしかね。三歳ぐれえの時だったいが。少くとも、もうおんぶが不自然なぐれえにはっきぐなってだんだべ。おいは何が機嫌、わりぐしてで、おかあさんさ甘えでおんぶ求めだのっさ。つまり、おいはその近い過去にもそいなぐおんぶしてもらってだんだべな。とごろがその時は、それまでどはちょっと様子が違ってだ。確かに、久しぶりにおんぶ求めだみでな気もする。おかあさんは——そんなにっきぐなっておんぶするひといっか——どさんざんおいば囃した。一応はおんぶしてけだものの(あの紺のおぶ紐で)、庭さ面した硝子戸の方さ行って、庭で遊んでる近所の子供だっつぁ向がって、
「ほら、見でけらいん。うぢさおっきな赤んぼいんだよ」
どしつこぐおいば囃した。近所の子供は神妙な顔こしてこっちば見でだ。勿論そいづはおいがおんぶさ求めでだものではねがった。それ以来、おいは二度どおんぶ求めるなんつう愚行はしねごどにした。


甘え


 小学三年の頃だったいが。おいは実に下んねえごどでおかあさんさ甘えでみだごどあった。 ——炬燵のテレビ側でねえ三方ばおかあさん、おとうさん、おねえちゃんが塞いででおいのっとごねくて、おいがべそかぎかげだら、おかあさんが隙間つぐっておいば入れでけだ——どがその程度のごどだったど思う。その時おいは途轍もねぐ危機感ば恐怖ば抱いでだ。つまりこいなぐおかあさんさ甘えるっつうごどが、もうじぎでぎねぐなるっつうごどが、おいにとっては深刻な問題だった。——三年生のうぢは(つまりあど一年は)甘えでもいいごどにすっかどが、いづまでも子供のままでいでえどが——そいなごどばうじうじど考えでだ。実際その後の一年間ぐれえのうぢに、おかあさんさ甘えでっつう気持ぢはどんどん萎えでったし、自分の思考力だの判断力に対する自信めいだものまで出できた。 それ以前は親への従属なしで生きていぐごどなんかとってもでねえげっと出来ねんでねえがど思ってだのに、更にその後十年ぐれえのうぢに、つまり二十歳ぐれえになるまでの日々は、自分がだいさも頼んねで生きていがいる種類の人間へど着実に成長してるみでな気いしてだ。今思えばあの頃は、小学三年まで親に甘えるっつごどによって確保しておいだ精神の不飽和領域がまだふんだんに余てだっつうごどなのっさ。おいの感性ど欲求機構の変化に伴って、親が甘えの対象どしてはまるで機能しねぐなったごどば、甘え自体が不要になったがみでぐ錯覚してだのっさ。だいにも甘えねくて済んだのは、「甘えの蓄え」があったがらなのっさ。三十歳ぐれえになるまでの次の十年間に、おいはあの小学三年時に抱いた恐怖が正に杞憂でねがったごどば痛感した。甘えの蓄えば使い果だしたっつうごどなのが、孤独の持続っつうごどなのが、愛情の不在っつうごどなのが——記述方法は色々どあっぺげっと、現においは少くとも子供時代の想像ば遥かに絶して苦痛になり得でっと思う。


返して


 こいづもかなり古い記憶で、恐らく三歳頃がど思う。おいどおねえちゃんは一緒の部屋に寝でだんだげっと、床にってしばらぐしてがら、おねえちゃんがガバッと起ぎ上がって隣の部屋の方さ歩いでぐがら、おいも起きてついでった。おねえちゃんは隣の部屋の戸ぉ開げ、おとうさんだのおかあさんさ向がって手え差し出して
「返して」
どむつけながら言った。おいは初めおねえちゃんが何のごどで怒ってで何ば返してけろっつってんのが分がんねがったげっと、そう言えば思い出した。その日おいだぢは寝る前だが寝でがらだがおだってで、そのおだづのに使ってだんだど思うげっと、おねえちゃんは着せ替え人形みでえなの(りかちゃん人形?)ば、おいはウルトラマンの人形ば取り上げらいでしまってだんだっけな。おいにとってはそいなごどは現に忘ぇでしまってるぐれえだがら、さっぱり深刻な問題ではねがったんだげっと、なんだがおねえちゃんの真似こしてみでぐなって——っつうがおねえちゃんさついできてしまった以上、その理由がねえど恰好つがねえがら——おいも少し怒ったふりして
「返して」
っつって手え差し出した。そしたっけおかあさんが
「今度から寝る前にふざげすなよ」
どが反省すっこって特別に返してやってもいっつうようなごど言って、着せ替え人形どウルトラマンの人形ばおいだぢさ返してけだ。おいはいささがこそばゆい気持ぢだった。


謝らいん


 最初の間違いは小学校低学年の時だな。KMYっつう我の強え女の子いだんだでば。ある日、学校でKMYが おいさ理不尽なごど言うがら、おら自分か゚正しいど思うごど主張して、これづは論理的に「おいの勝ぢだ」——ど思った瞬間、KMYが突然 泣ぎだしてしまったんだでば。したっけ、周りさいだ女の子だぢか゚いっぺえ寄ってきて、KMYどおいバ取り囲んで、
「KMYさん、だいじょうぶ?」
「かわいそうに」
「GTU君、あやまらいん」
「ほら、はいぐあやまらいんでば」
「ねえ、先生さ言ってくっぺし。いいきみだ」
バやり始めだ。そして先生か゚やってきた。みんな席さ着いで、おいどKMYが前さ出さいだ。
「GTU君、なしてKMYさんバ泣がせだのっしゃ?」
当時のおいの国語力では、自分か゚正当なごど主張したら KMYか゚泣ぎだして 周りの女の子か゚寄ってたがって おいバ悪者にしたんだっつうごど説明すっこどは出来ねがった。
「それじゃあGTU君、KMYさんに謝らいん」
当時のおいにとって、先生っつうのは絶対の権威であって、こいづさ服従しねえ訳にはいがねがったんだでば。おら自分に何にも悪いごどした覚えねえのに、なして謝んねげねんだべど思いなか゚らも、先生さ逆らう訳にいがねがら
「KMYさん、ごめんなさい」
っつったのっさ。こいづは おいにとって恐ろしねえ屈辱だった。挙げ句の果でに先生はKMYさこう訊いだ、
「KMYさん、GTU君を許してあげますか」
そすとKMYは首こ横さ振った。
「GTU君、KMYさんは許さないそうですよ。どうしますか」
なじょするもかじょするも、おいには「許す」だの「許さねえ」だのっつう意味か゚分がんえがった。「許さねえ」ど一体いってえなじょなごど起ぎるっつんだべや。更に挙げ句の果でに先生はこう語った、
「GTU君、もう一度謝らいん」
「KMYさん、ごめんなさい」
「KMYさん、GTU君を許してあけ゚ますか」
KMYはまだ首こ横さ振った。
「ほらGTU君、KMYさんは許さないそうですよ。困りましたね。KMYさん、GTU君を許してあけ゚ましょうね」
 こいづは当時のおいにとって本当に恐ろしねえ屈辱だった。こいづか゚「トラウマ」になって、後々「女性恐怖症」になってしまったんでねえべなや(まあ、ナントカ心理テラピストの類いさかがれば嬉々としてそいなぐ「診断」してけんだべげっとな)。


どうして私ど喋ってくれないの


 二十三にもなって人がら一回も「好ぎだ」っつわいだごどねっつのも何とも虚しいごどだっちゃななんて考えでだっけ、ふと思い出したんだげっと、そういえば小学三年だが四年の時、たった一回だげ 隣の席の女の子がら間接的に恋の告白 受げだって言わいねぐもねえようなごどあったっけなや。
 みんな席さ着いでガヤガヤしてっ時だった。ひょっとすっと、おら左前の方の席さいるMNど喋ってだんだが知ゃね。突然 おいの右隣の席さいるSHKか゚叫びだした。
「GTU君は いっそMNさんどばっかり喋ってで、ぜんぜん私ど喋ってくれないのね。GTU君はMNさんか゚好ぎなんでしょ。どうして私ど喋ってくれないの……」
!!! やべえごだ! なんつうごど言ってけだんだい。こいづか゚もしだいがさ聞がいでもしてだら、おいの「権威」は忽ぢに崩壊してしまう。おら焦った。んでも誰も騒ぎださねえどご見っと、聞こえねがったんだいが。あるいは聞けねふりしてでけでんだいが。頼むがら噂にだげはなんねでけろよ。どうやら大丈夫そうだっつごど分がって安心してがら、おいはSHKか゚語ったごどバ考えでみだ。思い当だる節はまったぐねがった。大体に於いで、おいはMNが嫌いだった。MNはこっきれいな顔こしてだがら級の男の子はみんなMNバ好ぎだったべげっと、MNは気取り屋で自意識の欠げらもねくてイガレダ思考構造してだがら、少ねくとも おいだげは、MNのきれいな顔こさ美的感性 刺戟さいんの拒んででも嫌ってやっぺど思ってだくれえだ。かど言って、おいはSHKも好ぎではねがった。っつうが、当時のおいは「女の子」か゚嫌いだったんだでば。んだがら、どの女の子ども平等に口きがねがったつもりなんだげっと。そいづはそうど、SHKは おいさ気いあるみでだ。うんと困ったごどになった。明日がらSHKの隣さ座んの いずぐなってしまうっちゃ。それ以来、おいはある種の同情心?がら時々SHKさ話し掛けねげねぐなった。そんなある日、おいの親指の爪さ ひび入ってで先っちょの方か゚今にも剥か゚れそうになってだ。みんなか゚席さ着いでガヤガヤしてっ時、その爪いじってだっけ 案の定、剥か゚れでしまったがら
「あっ、爪はか゚れでしまった」
ど おら叫んだのっしゃ。ほしたっけ、おいの指 見だSHKか゚
「あ、ほんとだ。すごい」
どがなんとが言ってだのっさ。したっけ前の席のZUZか゚振り返って、
「え、うそ、どれ、見せろ」
っつって身い乗り出してきた。そんどきSHKは おいの指 隠して、
「ん、なんでもないよ。いいがら、見せねえべし、見せねえべし、ね」
なんついだしたもんだがら、ZUZが訝しそうな顔こして、
「う、SHK、おめえGTUバ好ぎなんだべ。んだ。おめえGTUバ好ぎなんだ」
っつってきた。
「え、違うよ」
どがなんとがZUZど言い合ってるSHKか゚嬉しそうな顔こしてっから、おいは黙ってるしかねがった。
 ある日、講堂で集まり あってみんなで座ってっ時、おいの隣さいだOKMTか゚たまたまおいだぢの前さいだSHKさすっかげで、
「あのな、実はGTUがSHKバ愛してるんだって」
どいぎなり言いだした。OKMTの野郎、一体いってえどっから情報 仕入れできやがったんだい。こいづばりははいぐ否定しねげ。おいは焦った。もしSHKか゚こいづ本気にしたらとんでもねえごどになってしまうど。
「なっ、なっ、なにっこの」
おいは、こいづはOKMTのはったりだっつごどバSHKさ知らしめっぺど必死に焦った。とごろがSHKは意外にも
「ちか゚うよ、そんなの嘘だよ」
っつってけだがら非常に助かった。OKMTか゚しつこぐ
「SHK、GTUバ好ぎなんだべ」
どが言ってもSHKは
「別に好ぎじゃないよ」
どが否定してけでだ。つまり、SHKは小学生「男子社会」に於げるおいの「権威」バ守ってけだのっしゃ。その後は特に変な噂も立だねで、おいは無事に小学校生活 終えっこどできたのっしゃ。

 高校ん時、OKMTだのど女子校の文化祭さ行って、タイプライターがなんかの部活の展示さ入ったっけ、突然
「あっ、GTU君じゃないですか!」
ど叫ぶ人いっから、よっく見だっけSHKだった。
「あら、SHKさんすか」
「ええっ、覚えでる?」
「覚えでるよ」
 OKMTは小学校の時ど同じいやらしい目でおいバ見詰めでだ。SHKは小学校の時よりこっ「きれい」になってだげっと、おいは別に恋愛感情 喚起さいだりはしねがった。んだから、この偶然バ利用して恋愛実現に着手すっぺなんつう考えも起ぎねがった。おいは何の未練もねぐ、OKMTだぢどその展示バ出だ。その後SHKか゚なじょなったがは全く分がんね。今頃は誰がと結婚してっか知ゃね。そう言えば、KMYもMNももう結婚して子供もいんだつけが。なんだが、世界か゚違うなや。






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ピーナッツジャム

 小学五年の時だいが、六年の時だいが。 給食さついでくるビニールのパックさ入ったピーナッツジャムば いじぐってだんだな。 まあ、給食の時に使わねえでとっておいだっつうごどだべな。 おら、そのピーナッツジャムのパックば 指で押しなか゚ら、 色々ど圧力 かげでみでだのっしゃ。 いや、そのビニールのパックはながなが頑丈にできてで、 切り口バ(モード3の面外)せん断すれば簡単に切れっけっとも、 指で押してなんぼ圧力かげでも壊れね。 おいは、どのけ圧力かげでも壊れねえもんがやど思って、 ピーナッツジャムのパックば 机の上さ置いで、 思いっきり拳で叩いでみだ。 そしたっけ、パックの一辺さ穴 空いで、 そっからピーナッツジャムか゚いぎおいよぐ飛び出した。 そごで おいはようやぐ まずいごどバしでがした自覚どともに我に返った。 近くさ居だ AOYGの服さピーナッツジャムか゚べっとり くっついでだ。 しまった!  AOYGはしばらぐ何 起きたがわがんねえようだった。
「わりー、わりー」
おいは謝った。
「なにしたのや?」
AOYGは当然の質問した。
「あのやー、ピーナッツジャムば思いっきり叩いだら どうなっかど思ってやってみだんだー。わりー、ごめんな」
たぶん、次の授業は体育だったんでねえがど思う。 教室には人気か゚ねぐなってきてだ。 おいどAOYGは水道のどごさ行った。 AOYGは服の ピーナッツジャムのついでっとごば水道水で洗い始めだげっと、 あんまりちゃんとは落ぢねえみでえだ。 いやー、ほんとに悪いごどバしてしまった。
「わりがったなー、ごめんなー、 おめえ、かーちゃんに怒らいっぺ」
「いーい。 別にいーでば。 ついでねくていいがら体育さいげ」
AOYGは別に怒ってるふうではねがった。 まあ、小学五六年どもなれば、その辺は大人だがらな。 で、おいだぢは少し遅れて体育の授業さ行ったんでねえがど思う。

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無視ゲーム

 おいも年 取れば年 取るほど、っつうが、 なんぼ年 取っても、過去の自分ほど馬鹿だったなあど思うもんだなや。 で、過去の自分か゚、なんつう馬鹿なごどしてしまったんだいど 後悔しても後悔しても後悔し切れねえままに未だにわだかまり続げでる 人生の汚点っつうのか゚、おいには数個ぐれえある (まあ、 わだかまりの程度バ低ぐ設定すれば殆ど無数だべげっと)。 そのうぢの一つのわだかまりについでは、 いづがこごに書がねげねえど思いつつも、 ながなが書げねがった。

 中学一年の時、「無視ゲーム」か゚流行ってだ。 親しい友達集団の中で、適当な一人バ 一時的に無視しておもしがんのだ。 その危険性・残酷性・差別性なんて、 当時の おいには考えつぎすらしねがった。 そのけ馬鹿だった。 おいは、まず無視される側バ経験したんだが知ゃね。 そんで、こいづはおもしなーって思ったんだが知ゃね。 で、OKMTどがど一緒なって、AOYGバ無視の相手に 選んだのっさ。 当初の おいは、おめでたぐもAOYGもこの「遊び」さ無条件で乗ってくるどでも 思ってだんだべな。 そんでダメ押しに、AOYGの習字道具のスズリの上で、 髪の毛バサバサやって、フケ落どしたりしてだのっしゃ。 そんで、AOYGか゚、 「おめえ、なにやってんのやー」どでも乗ってきてけっとでも 思ってだんだべな。 んでも、そうはなんねがった。 AOYGも、おいバ避げ始めだ。 しまった ど思った。 早ぐ、この状態バ修復しねげど思った。 んでもAOYGさ話し掛げるきっかけバ作れねえままに、 一日一日ど過ぎでいった。

 体育の時間、 背の順で割と近いどごさいる二人どうしか゚組んで組み体操すんだげっとも、 AOYGは、 なるべぐ おいどは組まねえように事前に相手バ調整するようになった。 大変なごどになってしまった。 体育の時間どが、授業中に おいどAOYGか゚接近する機会か゚あるごとに、 おいだぢは、お互いの接触バ恐れで相当のストレスば感じるようになって しまった。 技術家庭の時間に技術家庭室の乱雑な座席配置の中で、 おいか゚AOYGさプリント手渡したごどもある。 勿論、AOYGも事務的に受げ取りはする。 んでも、そいなやり取りは、ながながのストレスだった。

 中学二年がら、AOYGどはクラスか゚別々になった。 ある意味では楽になったげっと、 関係修復の機会はますます失わいでいった。 AOYGどは高校も同じだったげっと、結局、 その後 一度もクラスか゚同じになるごどはねがった。

 で、それ以来、おいは、 なんぼ親しい友達でも、なんぼ冗談でも、 意図的な無視はしねえごどにした。

 高校一年の時(あるいは二年の時がも知ゃね)、 おいか゚朝 高校さ行ぐ途中で、 中学の剣道部の後輩ど擦れ違うんだげっと、 お互いニヤニヤしなか゚ら会釈して擦れ違ってだ訳っさ。 おいの方は「おー」どが言ってだが知ゃね。 で、ある時、 その後輩はめんどくせがったのが、 おい(の会釈)バ無視して通り過ぎでしまったんだな。 まずいごどになったど思ったよ。 まあ、 たまたま、その日だげ事情か゚あってめんどくせがったんだが知ゃねえがら、 次の日も おいの側は お互いの距離か゚縮まってがらニヤニヤしなか゚ら視線を合わせで 会釈(する準備っつうが)したげっと、 その後輩はやっぱり確信的に無視して通り過ぎだんだな。 っつうが、前日に一回 無視してしまったばっかりに、 コロッと態度 変えで会釈する訳にもいがねぐなってしまったみでえなんだな。 いやー、ながなが困ったごどになった。

 その次の日、 おいは よっぽど時間帯どが通る道どが変えっぺがっつう誘惑に駆らいだよ。 んだって、毎朝、 一回 無視したばっかりに おいバ無視し続けざるを得ねえ後輩ど 擦れ違うストレスに耐えねげねんだよ。 んでも、 AOYGの件で失敗してる おいは、 その後輩さ会釈バ再開する機会バ与え続げねげねえど思って、 なんぼ苦痛でも、 毎朝 その後輩か゚近づいできたら、ニヤニヤしなか゚ら顔バ その後輩の方さ向けで、いづでも会釈でぎるような恰好しなか゚ら (っつうが声 出さねえで「おー」っついなか゚ら軽い会釈してだが知ゃね) 擦れ違ってだ。 まあ、今の おいだったら、 「あらー、なんで無視すんのや」 ぐれえ言ってけだが知ゃねげっと (そうしてもらえだ方か゚その後輩どしてもなんぼが助かったべげっと)、 当時の おいはそごまでの社交能力は持ち合わせでねがったんだな。

で、その後輩か゚同じ高校さ入った訳っさ。 朝に擦れ違うごどはねぐなったげっと、 ごぐ希に校内で お互いに接近するごどもあるんだな。 例えば、放課後に掃除してゴミ投け゚さ行ぐ時ど、 ゴミ投け゚がら帰ってくっ時に擦れ違ったりすっこどもあったっけな。 そいな時、その後輩は、おいの姿バ認めるなり、 突然 近くの友達さ すっかげだして、 わざど大っきい声 出して友達バ追っかけ回したりやり始めでだっけな。 そういう場合でも、 おいの方は なるべぐ会釈でぎる体制バ整えで擦れ違ったげっとも。 まあ、その後輩どはそれ以来 接触はね。 っつうが、実は名前も忘れでしまった。

 おいか゚大学院の学生だった頃だど思うげっと、 中学の同級会か゚あったのっしゃ。 で、その三次会だったがの飲み屋で、 KDWKだのANBだのKSKRだの 小学六年の時のクラスの連中か゚まとまってきて飲んでだんだな。 で、取り留めもねぐ色々どしょーもねー話バしてだ訳だな (まあ、酔っぱらってだし、少なくとも おいは)。 まあ、おいがらの話題提供どしては、 KSKRは誰々ど誰々どつるんで、 誰々ど誰々ど誰々のごどバ 「タゴタゴツンツンデブデブ」どが歌ってだなーどが。 で、よぐそんなの覚えでるねーどが、まあ、そいなノリだな。 そんな中で、ANBか゚「おいKSKR好ぎだったなー」どが こっそり言う訳っさ。 んだがら、おいか゚、 「なんだべ、もっと大っきい声で言わねげ聞こえねべっちゃ」 っつったっけ、ANBか゚やや大っきい声で 「おいKSKR好ぎだったな。KSKRは誰 好ぎだったの」 っつうどKSKRは「SIN」ど来たもんだ。 因みに おいに関してはKSKRだぢか゚「タゴタゴ」だが「ツンツン」だがって 言ってだ転校生のSKMさんは割と好ぎだったが知ゃねな。 で、そいな感じの話の中で、ANBか゚、 「AOYGも、GTUど仲悪ぐなってしまったしなー」 っつってだっつうのっしゃ。 そいづバ聴いで、おいはやや安心した。 AOYGは、(一方的に悪い)おいバ、 激烈に恨んでる訳でもねえようだ。 おいは、 「仲悪ぐなったっつうのは正確でね。 おいか゚悪いんだ」ど切り出して、 無視ゲームの経緯も簡単に話したど思う。 おいの側の認識バANBか゚AOYGさ伝えでけねがやっつう淡い期待どともに。

 おいか゚二十八歳の頃、今度ぁ高校の同級会か゚あった。 おいは、AOYGさ話し掛けねげねえど思いなか゚ら出席したげっと、 何回がAOYGさ近づごうどしたげっと、 声 掛げらいねがった。 まあ、当時は、恋愛対象獲得さ まつわる一連の「可能性の確認」作業のためにも、 この手の相当にストレス伴う社交もこなせるようになんねげねえど、 自分に課してだげっと、そんでも声 掛げらいねがった。 で、同級会の後に、 名簿か゚送られできて、 思い立ってハガキ 書いでみるごどにした。 手許に残ってる最初の草案にはこいなぐ書いてある:

暑中お見舞い申し上げます。 先日の同級会の際には声をかけそびれてしまったので、 取り敢えず葉書でも出しておきます。一年七組以来 疎遠になっておりますが、また会う機会でもあったら宣しく お願いします。

 これは、おいの記憶にある最終稿どはちょっと違うような気いする。 「中学時代の一件は、いい勉強になった」ど思ってるみでえなごども 書いだような気いする。 それはともかぐ、ハガキの返事は来ねがった。

 で、先日、おいも三十八歳でもういい大人な訳だげっと、 二回目の高校の同級会か゚あった訳っしゃ。 おいは、どうやってAOYGさ声 掛げだもんがど思案しなか゚ら、 いろんな奴ど話語りしてだ。 おいもこの十年ぐれえの間にもずいぶんと神経 太ぐなったつもり だったげっと、んだがら、思い立てばすんなりこなせる筈だど 自分さ言い聞かせなか゚ら、 取り敢えずKZHKど話語りしてだ。 そしたっけ、
「おー、GTU」
ど肩 叩がいだ。 有り難いごどにAOYGの方がら話し掛げできてけだ。
「おー、んだんだ、あんださ挨拶しねげねえど思ってだんだ」
ど おいは切り出した。 っつうがAOYGの方は、
「ホームページ読んでだよ」
ど切り出してきた。 馬鹿だった中学一年の おいか゚やらがした「無視ゲーム」は、 二十六年ぶりに あっけねぐ氷解した。 おいは申し訳ねえごどしたど思ってるど謝った。 AOYGの方は、お互いバ避けるようになった発端か゚ おいの(一方的な)「無視ゲーム」だっつう認識は はっきりどは持ってねがったようでもある (だどすっと、ますます申し訳ねえごどしてしまったな。 おいの方か゚一方的に悪がった訳だがらな)。
AOYGは
「んだ、おいだぢ結構 仲いがったんだよな」
ども言ってけだ。 馬鹿だった十二歳の自分の過ちさ端 発する 後悔しても後悔しても後悔し切れねえわだかまりか゚、 三十八歳にして晴れるなんつうごどか゚起ごり得る もんなんだな。 まあ、AOYGさ苦痛 与え続げでしまったっつう 後悔自体はねぐなんねえ訳だげっと、 ともかぐ関係か゚修復さいで、ほっとした。 十年前に出したハガキも機能してだようだげっと、 電網頁に思わぬ効能か゚あったようだ。 っつうが、実は、この同級会で、 特に親しぐねがったり、特に面識ねがった複数の人がら、 「ホームページ見でるよ」っつわいでしまった。

追記 (11/2/18)

その後、四十歳の元旦に、中学の同級会あったんだげっと、 そんどぎも AOYGどなんぼが話 したな。 一次会の時の記憶ははっきりしねんだげっと、 二次会への移動の途中だったが、 小学六年の時のクラスの連中ど話しなか゚ら歩いでだ AOYGは、 便所さ向かって引き返す おいど擦れ違いざまに
「おおー、GTUっ! 最近ホームページさ おいのごど 書いでねんでねえが? おいか゚あんまり登場してねえど。 もっと、おいのごど書げっ」
みでえに、言っておどげでだ。 ホームページでねくてブログって言ってだがも知ゃね。 まあ、 一緒に歩いでだ連中(KSKRどSTUだったがや?)さ、 自分か゚ネット上でネタに使わいでるっつうネタを使いてか゚ったんだべげっと。 そんで、「おめえもGTUのブログさ書かれでっと」みでぐ、 KSKRさ言って、 KSKRか゚、「ええー」どがって期待通りに驚いでだような気もする。 二次会場では、 AOYGど、 KSKRどSTU(この人は小学校は違うんだげっと)どがで話し語りしてで、 AOYGは、 担任のSGI先生か゚机の下さ 鼻くそ なすりつけでだ話どがば、 KSKRさ、 「うそー、おめ、知ゃねがったのが? 掃除の時、 触んねよに気つけろよって言ってだべー」 だの、懐かしく楽しい話題を色々と提供してけだ。 ちなみに、AOYGか゚、おいの電網頁の話したっけ、 STUも知ってるだど。 意外な読者もいるもんだ。 もっと、色々ど話はしたど思うんだげっと、 すく゚に書き留めでねがったがら、酔っ払ってだのもあっし、 忘れでしまったな。 小学五年だがの時、 おいか゚、 AOYGのごどば沢田研二に似でんでねえがっつったっけ、 AOYGは、そいづか゚気に入って、 それ以来、自分のどごばジュリーっつって、 沢研の歌ばり歌ってだなあみでえな話したのも、この時がも知ゃね。

んで、四十四歳の元旦の時に 高校の同級会か゚あった訳なんだげっと、 おいは まだAOYGど会えっかなあく゚れえに思ってだのっさ。 んで、姿か゚見えねえがら、今日は欠席なのがや、く゚れえに思ってだのっさ。 おいもまだ四年前の中学の同級会以来、 AOYGども、AOYGさ近い他の同級生どもさっぱり連絡とって ねがったがらな。 そしたっけ、故人への黙祷で AOYGの名前か゚読み上け゚らいだのっさ。 信じ難いごどだ。 大動脈乖離っつう病気で急死だど。 四年前の中学の同級会の約一年後のごどだ。 わがんねえもんだ。 なんて言えばいんだがもわがんね。 馬鹿だった中学一年の おいか゚やらがした二十六年も解げねがった 「無視ゲーム」のわだかまりバ、死ぬ三年前にさっくり解いてけだっつうのは、 その二年後の同級会でもおいど楽しけ゚に話してけだっつうのは、 おいにとってはなんともありか゚たいごどだ。 もし、あのわだかまりか゚解げねえまま、 AOYGか゚死んでだどしたら、 おいは、なんとも後味の悪いわだかまりバ、 一生ひぎずってぐごどになったべがらな。 まあ、一方的に悪がった おいの側の都合でしかねんだげっと。 「もっと、おいのごど書げっ」つわいで、本人か゚死んでがら、 こいなごど書いだって、しゃねっちゃな。

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ジャイアントロボ泣ぐのすかや

こないだ中学校の同期会あって、 しばらぐぶりにHNさんだのKUYだのに会ったんだげっと、 この人だぢどは幼稚園も一緒だったがらな。 幼稚園の年中の時、ひばり組の奥の部屋だったな。 おいどKUYで なんかの「こ゚っこ遊び」してだんだな。 おいか゚ジャイアントロボになって、 「ジャイアントロボだあ」っつって、 KUYにかがってったっけ、 なんとKUYか゚ おいの親指バ 思い切り噛んできたんだな。 確かに痛いっつうのもあるんだげっと、 その噛まれだどご見でみだっけ、 親指の歯形か゚しっかりど 喰い込んでで、 これは 指か゚もけ゚でしまうんでねえがど不安になって、 おいは泣き出してしまったんだな。 そしたっけ、近くで見でだHNさんか゚、 ぼそっと一言
「あらー、ジャイアントロボか゚ なぐのすかや?」
どがって、うんと冷めた目で冷やかすんだおん。 おいどしては、 別に痛いがら泣いてる訳ではねくて、 指か゚もけ゚っかもしゃねく゚れえの大変なごどか゚起きたがら 泣いてんだど言い訳してがったげっと、 まあ、まだ子供だったがら、ただ泣いでだな。 指もなんともねがったみでだ。

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チョコ くうが?

幼稚園の年中の時だが年長の時だが、 SNちゃんがらつぶつぶのチョコもらったんだな。 赤だの緑だのいろんな色の2ミリ径く゚れえの玉か゚いっぱい入ってるやづバ、 手に数つぶもらって、口に入れで食べでだんだべな。 そしたっけ、虫歯の治療中で穴 あいでだどごさ、そのチョコか゚数粒 つまって しまって、その歯か゚割れでしまったんだな。 しばらぐしてがら、 SNちゃんがら
「チョコもっとたべっか」
っつわいだがら、
「たべねっ」
っつったっけ、SNちゃんか゚、
「なしてや?」
って 訝しけ゚に聞いでくんのっさ。んだがら
「こいづ くったっけ、むしばになったんだ」
っつって(まあ、実際には虫歯になったわけではねくて、 治療中の穴につまって 歯か゚割れだっつうごどなんだげっと、 その辺は子供の表現っつうごどで)、 割れだ歯バ SNちゃんさ見せだのっさ。 そしたっけ、SNちゃんは深刻そうな顔コして、
「んで、このチョコすてっぺ」
つって、ぱらぱらって チョコ 捨てだんだおん。 幼稚園の玄関前のちょっと脇だったな。

とごろで、2017/1/2の中学校の同期会の時にOKMTさ SNちゃんって牧師になったんだっけがって 聞いだっけ、牧師でねくて宗教学者だが哲学者みでえなのになったんでねえが っつってだげっと、もしかすっと、 この人がや。

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せんせい、のこしていいですか

幼稚園の年長の時、 TSHSくんっつうのいだんだな。 まあ、あの頃の幼稚園の友だちは、 特に男の子は、おいも含めで みんなガサツだったし、 ろくてねえ やろこどもか゚普通だったんだげっと、 TSHSくんっつうのは、なんとも都会的っつうが、 洗練されでで、ちょっと華奢な感じか゚して、 当時の おいどしては、なんか憧れか゚あったんだべな。 例えば、弁当の時間どが、 TSHSくんど おんなじように食べてくて、 もちろん弁当は一人一人みんな違うんだげっと、 TSHSくんか゚、肉団子みでえな おかず 食べだら、 おいも 自分の弁当の中で、肉団子か゚あれば肉団子、 ねげれば似だような感じのおかずバ 食べで、 TSHSくんか゚、ごはん食べだら、おいもごはん食べでって 真似しなか゚ら食べでだのっさ。 そすと、 ほんのちょっと食べだだげで、 TSHSくんは、弁当バ先生のどごさ持っていって、
「せんせい、べんとう のこしていいですか」
って言いさ行ぐんだおん。 まあ、弁当 残す時は先生に言いに行がねげねがったんだな。 んだがら、おいも弁当 持って、 ほんとは、まだぜんぜん腹 減ってんだげっと、 TSHSくんの真似してくて、
「せんせい、べんとう のこしていいですか」
って言いに行ったのっさ。 そすと先生は、
「HMHKくん、ぜんぜんたべてないね。 もうすこし、がんばってたべれない?」
って言うわげっさ。 そりゃあ、おいも もっと食べねげ ぜんぜん 足りねんだげっと、 TSHSくんの真似してえがら、
「もう たべれません」
っつって、残してだごどあったな。

とごろで、 TSHSくんは、 たぶん、この土橋登志久さんでねえがど思うんだげっと、 テニスで相当に活躍してんだな。

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糸こん

小学三四年の時、 おいはOKMTどよぐ つるんでだげっと、 MNさんどHNさんもよぐ つるんでだな。 OKMTは ながなが手の器用なやづだったげっと、 その並外れだ器用さならではのっつうが、 普通の人には思いつがねえような奇抜ないたずら すんだでば。 教室の隅っこの方に落ちてだ 給食の食べかすみでえな汚れた糸こんバ 拾って、 そいづばストローの先に入れでんだな。 なにすんだべど思って見でだっけ、 そっちの方でぽけーっと半分 口開げでだMNの方さ向かって、 そのストローば しゅっとひねったど思ったっけ、 ストローに仕込まれでだ糸こんか゚、勢いよぐ飛んでってMNの 口の中に見事に入ったんだな。 そのコントロールもすこ゚いげっと、 そいな発射装置で、そいなごどでぎるど思いつぐどごも すこ゚いっちゃな。 MNは、最初なに起きたがわがんねえような顔コしてだげっと、 OKMTか゚ニヤニヤしてんの見で、 何がされだど気づいだようで、 表情 変えで
「このーっ!」
みでえな感じでOKMTに怒ってきたげっと、 おいか゚見でだ限り、口がら糸こん取ってねんだよな。 もしかして、あの汚らすねえ糸こん 飲み込んでしまったんでねえがや。

とごろで、2017/1/2の中学校の同期会の時にOKMTさ、 なしてMNの口さ糸こん入れっペど思ったのやって聞いでみだっけ、 なしてだべなあ、あの頃は、MNか゚好ぎだったのがもしゃねなだど。

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鼻息 荒いねえ

最近は寝っとぎも だいぶ鼻で呼吸でぎるようになってきたな。 数年前、NHKの「ためしてガッテン」で、 口呼吸だど感染しやすいっつうの見で、 そりゃあ、鼻呼吸の方か゚いいのはわがってっけっと、 おいの場合、鼻つまってから、鼻呼吸なんて無理だよなあって 諦めでだげっと、 だめもとで練習してだっけ、 まあ、日中は、割と鼻呼吸でぎるようになってきて、 そんでも、寝る時は、っつうが、 おいの場合、うつ伏せでねげ寝れねんだげっと、 うつ伏せになっと、鼻つまりやすくて、 寝っとぎの鼻呼吸は難しいなあど思ってだんだげっと、 そんでも、鼻の通りのいいどぎは、 なるべぐ鼻で呼吸するようにしてだっけ、 少っつづ鼻の通りいぐなってきて、 五十才く゚れえがらは、寝る時もだいぶ、鼻呼吸でぎるようになってきたな。 そすと口 閉じで寝れるようになったがら、 目え覚めだ時に口のなが、からからに乾いでるっつうごども ほとんどねぐなった。 鼻呼吸の方、遥かに快適だよな。 これだったら、もっと早ぐ鼻呼吸の練習してればいがったよな。

おいか゚口呼吸するようになったのには、実はきっかけか゚ある。 中学二年の時、 隣の席に座ってだKMYMさんだったがや。 まあ、女子だよな。 その女子か゚、なんの気なしに
「HMHKって鼻息 荒いねえ」
って言ったのっさ。 まあ、確かに、おいは無意識に鼻呼吸してっと、 鼻つまってだがら、 隣の席の人に聞こえるく゚れえの鼻息 鳴ってだんだべな。 年頃の男子だった おいは、隣の席の女子がら、 そいなごど言わいだもんだがら、 笑ってごまかしてがら、 鼻息 鳴んねえように、口呼吸に切り替えだのっさ。 そしたっけ、KMYMさんはそいづバ 気にして、
「HMHKっ、気にしすなあ!」
っつって、おいの肩バ 叩いできたっけな。 んだがら、おいも その時は笑ってごまかしてだげっと、 たぶん、その時がら、意識的に口呼吸ばりするように なったような気いすんな。 つっても、別にKMYMさんバ 悪者にするつもりはねくて、 あれはあれで、まあ、甘酸っぱい?思い出だったなどは思うな。

それに、口呼吸のきっかげは、なにもKMYMさんに言われだごどばりではねんだな。 小学校の時だど思うげっと、 おとうさんど鼻詰まりの話してだんだな。 おいは、物心ついだ頃がら鼻詰まりだったがら、 鼻で息でぎっとしても、右が左が、どっちが一づの鼻の穴でしか息でぎねえげっと、 おとうさんか゚言うには、おとうさんは、 右ど左 両方の鼻の穴で息でぎるっつうんだよな。 んだがら、おいは、鼻で息のでぎる人っつうのは、 右ど左 両方の鼻の穴で息がでぎるもんだど、ずーっと何十年も そう信じでだんだな。 そごがらの帰結どして、片方の鼻の穴でしか息のでぎねえ おいは、 明らかに鼻詰まりだがら、鼻呼吸は無理なんだど、 ずーっと諦めでだんだよな。 そしたっけ、これもだいぶ前の「ためしてガッテン」でやってだんだげっと、 実は、普通の人は、鼻の片方は詰まってで、 鼻で呼吸すっ時は、片方の穴しか使ってねえのか゚正常なんだっつんだな。 なにすや! おいは、片方の鼻の穴でしか息でぎねえがら、 鼻詰まりなんだど思い込んでだげっと、 もしかすっと、こいづは、正常の範囲で、 おいも鼻呼吸でぎっかもしゃねっつうごどなんだよな。 っつうような訳で、ようやぐ五十前く゚れえがら、鼻呼吸の練習 始めで、 鼻呼吸でぎるようになってきたんだげっと、 ちなみに、鼻呼吸してっとぎは、 今も鼻息は荒いんだがしゃねな。 まあ、周りの人に鼻息 荒いど思われでも、 感染症だの歯周病にかがりやすいよりは、いいげっとな。

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ペキン

昔はながなが とんでもねえ先生いだもんだげっと、 中学校の時のOIKW先生は、明らかにアル中で、 そのせいで問題だらげだったげっと、 それなりに年取ってで、学年主任どが役職に就いでで、 当時の周りの先生だぢは、何も言えねくて ただ問題 放置してるだげだし、それも情げねがったよな。 教科書にのってだペキン原人に似でっからっつうごどで、 ペキンって言わいでだな。

おい 一年生の時はOIKW先生に歴史 習ってだんだげっと、 黒板さ字ぃ書ぐどぎ、手え震えでんだよな。 そんで、しょっちゅうチョークぼぎぼぎ折るんだよな。 なんか、おがしいどは思ってだげっと、 授業中にしょっちゅう廊下さ出でいぐんだな。 廊下側の壁の下さある小窓がら覗いだやづの話によっと、 上着のポケットがらウイスキーの小瓶 出して飲んでるっつんだな。 実際、常に酒臭がったしな。 だんだん、授業に来ねぐなって、中学一年の歴史の授業は、 半分以上やってねえな。 んだがら、おいは歴史が苦手になってしまったんでねえがや。 小学校の時までは好ぎだったのにな。 OIKW先生が授業に来てねっつうのは、 他の先生だぢもわがってで、 その時間帯 使って、自分の授業の補講やったりするんだよな。 他のクラスでは、 地理の先生か゚歴史の補講やってけだどごもあるようだげっと、 おら方のクラスは、歴史の補講は一切なしで、 たぶん、一年でやるべぎ歴史の半分以上の授業は受げないままだったな。 今だったら大問題だっちゃな。 あるどぎ、国語の先生か゚OIKW先生の授業の時間バ使って国語の 授業やってだどぎあんだげっと、 授業の途中で、突然 OIKW先生やってきたんだな。 てっきり 国語の先生は自分の授業やめんだど思ったっけ、
「あ、やってました」
みでえなごどOIKW先生さ言って、授業 続げんだな。 そしたっけ、OIKW先生の方も
「あ、やってだのすか」
みでえに言って、戻ってしまったんだよな。 生徒だぢか゚歴史の授業 受げれでねえ状態なのに、 何の対処もしてもらえねがったな。 まあ、生徒だぢも、 親に歴史の授業 受げれでねっつう話もしねがったがもしゃねし、 仮にしたどしても、あの頃の親は、 校長だの教育委員会だのさ訴えだりっつうごどもしねがったんだべな。 まあ、そういう時代だな。

OIKW先生か゚まだちゃんと授業やってだ頃だがら、 一年生の前期あだりがや。 休み時間に廊下で、友達ど談笑してだっけ、 突然、誰がにっきな 怒鳴り声で怒鳴られなか゚ら、後ろがら頭バ殴らいだんだよな。 前の時間に授業してだOIKW先生か゚、興奮しなか゚ら、 おいんどごバ怒鳴りなか゚ら叩いでくんだげっと、 教科書みでえなので叩がいだのがもしゃね。 OIKW先生はカンカンに怒ってで、
「GTUっ! なんだおまえはっ! ふざげるなっ!」
だの、ろれつのまわんねえよぐ聞き取れねえでっかい怒鳴り声で怒鳴り続げなか゚ら、 おいの頭バ叩いでくんだよな。 周りにいだ友達はみんなびっくりして、 固まってだな。 OIKW先生の怒鳴り声は、ほんとに っきいがら、 教室の中さいだ連中も、 隣のクラスの人だぢも、なに起きたんだべって、 みんな顔 出して眺めでだな。
「GTUっ! なんだおまえはっ! ふざけるなっ! こっちさ来いっ! こっちさ来いっ!」
っつうがら、言われるままにOIKW先生さ ついで行ったのっさ。 おいのクラスは一年七組で、一番端っこの方さあんだげっと、 どうも反対側の端っこにある管理室さ連れでぐべどしてるみでえなんだな。 その途中でも常に っきな声で 怒鳴りなか゚ら、おいんどご叩ぎ続げでっから、 六組、五組ど他のクラスの前 通るたんびに、 そごのクラスの連中が何事 起きたんだべって、びっくりして、 教室がら顔 出して見でんだな。 OIKW先生は途中がら、
「KIITどごさいった? KIITバ連れでこいっ!」
って言い出して、どうも おいの斜め後ろの席さ座ってる KIITバ探してるようなんだな。 六組の前、五組の前、四組の前ど廊下バ進んでって、 トイレの前 通ったどぎ、トイレがらKIITがひょろっと 飛び出してきたんだな。 KIITは学年で一番 背ぇ高くて体も っきいやづなんだげっと、 OIKW先生はKIITの姿バ認めるや、
「このやろーっ、そんなどごさ隠れでだのがっ!」
どがって怒鳴りなか゚ら、今度はKIITバ 叩き始めんだよな。 KIITは、手に歴史の教科書バ持ってだんだげっと、 そいづ見だ OIKW先生は
「なんだ、おめえその本は」
って聞いだのっさ。 そしたっけKIITは、
「教科書 忘れだので、友達に借りました」
っつうんだな。そいづ聞いだOIKW先生はますます怒って、
「KIITっ、おめえはそういうごどだがらダメなんだっ!」
って言いなか゚ら、その友達がら借りだ教科書ば取り上け゚で、 トイレの床さ叩ぎつけだんだな。 表紙だの ちょっと破げだような感じで床に叩ぎつけらいだ教科書バ KIITが拾うべどしたっけ、 OIKW先生は
「いいがら来いっ」
つって、そのままKIITどおいバ管理室さ連れで行ぐんだよな。 そごがら、三組の前、二組の前、一組の前、って通って管理室まで 行ぐんだげっと、 怒鳴られなか゚ら叩がれなか゚ら連行さいる おいだぢんどごバ、 教室の出入口がら顔出した連中か゚、 なにしたんだべ、なにしたんだべって、 眺めでんだな。 管理室っつうのは、廊下のどん詰りさある小部屋なんだげっと、 机の上さ一升瓶 置いであったのか゚印象に残ってる。 KIITどおいは正座させらいで、 延々ど怒鳴られ続げだ。 KIITは途中がら泣いでだな。 OIKW先生はろれつか゚まわってねえし、 脈絡もない感じだがら、何に怒ってんのが、ながながわがんねがったんだげっとも、 どうも授業中に おいか゚後ろ向いでKIITど話 してだのが 気に触ったようなんだな。
「GTUっ、なんだおめえは、授業中に何回も うっしょ向いで、 KIITど話して、 んでも、GTU、おめえは、KIITにつられだんだな」
みでえなごど言わいだがら、おいも、
「はい」
って答えだんだよな。 そしたっけ、OIKW先生は、
「よし、GTU、おめえは、KIITにつられだだげだがら、 もういい」
っつって、おいだげ解放されだんだよな。 管理室がら出できたっけ、 一組だの二組の連中が、おいんどご取り囲んで
「なにしたのや? なにしたのや?」
って口々に聞いでくんだよな。 んだがら、おいも
「いやー、なんだがわがんね」
って答えるしかねがったよな。 実際、おいは授業中に何回も うっしょ向いでKIITど 喋ってだんだがもしゃねげっと、 仮にそうだどしたら、KIITより おいの方 悪いよな。 管理室に一人残さいだKIITは、どうなったんだべな。

OIKW先生は、その後、学校さ来ない時期も多かったげっと、 学年主任だの、常に何か偉い役職には就いでで、 何年後がに他の学校の教頭だが校長になって転任していったな。 OIKW先生に転任して来らいだ中学校もさぞ災難だったごどだべな。

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まだまだ続ぎすと
忘ぇねように、覚え書ぎしとっから


SNちゃん虫歯
ジャイアントロボ泣ぐのすかや
仮面ライター知ってっか
四月馬鹿、ダイヤモンドだよ、車のおもちゃ、ピヤニカ
TSHS君 土橋登志久さん?
バザー(TSHS君の妹)
ボート 漕がないと沈む
ハエの腹がら蛆
ハンドル固定車
MTYちゃんど水浴び、パンツ濡らしたら泣ぐ
マジンガーZ最終回
後悔後では役に立たず、有言不実行、弱点/逆転、下痢/ゲボ/ゲロ、ドワ、おめれとう、りゃ/りゅ/りょ
A君の犬小屋
空手やってるみでえ
先輩みたいなごど言わないで——NMKR
祭壇で火遊び
リリー 保健所で殺すがら……結局うぢで死んだ
金銀ダイヤモンドルビーカプセル OKMT
MNの口にOKMTがこんにゃぐ
牛乳パックのたたみ方
口からトンボがパーッとKBYS
……まだまだ続ぐ

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