. Ĉi tie mi skribas poemojn en mia patra lingvo `Iŝinomagi-lingvo'. Delikatajn nuancojn de unikaj ideoj aŭ valor-sentoj, kiujn oni akiris en sia nacieca klimato, neniu lingvo povas pli trafe kaj ekzakte esprimi ol ilia patra lingvo. Tiusence poemo ne povas esti ekzakte tradukata en alian lingvon. Sed eble mi iam provos `proksimume' traduki miajn patralingvajn poemojn en riisman Esperanton ne ordigante sonojn de vortoj.
続く
世界文学か゚イングランド語文学でねえみでぐ日本文学だって東京「標準」語文学でねえべや。
「標準語」バある一定の価値観の下で習得した(させらいだ)人だぢ
さとっては「正しい標準語」で書ぐごどだげが美しくて文学的なんだが知ゃね
げっと、おいだぢさとっては、
「正しぐねえ標準語」どさいできた おいだぢのコドバで書がいだ日本語ごそか゚
「うづぐし」くて文学的だっつごどだってあんだどいや。
っつうが、民族的風土の中で培わいだ独特の発想だの価値観だのの微妙な意味合いバ言語さ抽象すんのに、
母語以上に正確に適切に表現でぎる言語なんかある訳ねえべ。
んだがら、人の内界の感情だの表象だのバ表現したよな文学であるほど母語でしか表現でぎねえべし、
そいな意味では「詩は翻訳でぎね」っつう話は当だりめだど思うのっしゃ。
……どがって母語文学の価値バ解いでる以上、その実例 見せねげ説得性ねんだげっと。
おい自身は
高木恭造の方言詩集「まるめろ」(津軽書房)(*0)読んで感動したんだげっと、こごは石巻語の頁だがら、
石巻語の文学 紹介しねげわがんねべ(*1)。
んだげっと、ちゃんと出版さいでんので、そいなの見だごどねえがら(*2)、
知ゃねがら、おしょしげっと、
おいの母語作品集?の中がら、人さ見せらいそうな、あんまり
おしょしぐねさそうなやづバ、なんぼが見せっぺがや。なじょすっぺな。
ほでまず、なんぼが見せっけっと、もし分がんねどごあったら
石巻語辞書
で調べでみでけさいん。
ああ、おしょし、おしょし。
(*0) 高木恭造「まるめろ」「雪女」
(*1) おいの幼年時代の挿話集バ石巻語で書いだ「落どした場所」も読んでけさいん。
(*2) 津軽語関係だごって 日本コロムビアの伊奈かっぺいさんの頁、
ケセン語関係だごって、 山浦玄嗣氏の著作: 『 ケセン語入門』 『 ケセン語の詩(うだ)』 『 みんなのケセン語(1)(2)』 『ケセン語大辞典 上・下』あだりも参考にしてけさいん。
山本和英さんの「ふるさとの方言」もいがすとや。地元の言葉 知ゃね人 こいづ見で覚えだらわ。
石巻弁bot(twilog)
石巻弁bot(twitter)
24/2/10追記: メディアやその他の言語表現活動(文学や芸能、テレビ番組ほか)において 一定の需要を獲得し安定供給される方言 (東京弁系の共通語を筆頭に、関西系お笑い芸人等が話す関西系共通語など) 以外の方言(例えば東北弁)による言語表現活動(例えば演劇とか)の試み (例えば東北弁によるシェークスピア演劇とか)は 基本的に応援したいとは思うが、 特定の方言(たとえ表現者の母語であれ)をその美しさをそのまま表現するための文学・芸術表現の手段としてではなく、 笑いを取れる「変な」「可笑しい」言葉として「ウケねらい」に利用されているような場合、 方言が言語表現活動に使われているからといって、 手放しで応援する気にはなれない。 自分にとって「変な」言葉に聞こえる自分の母語との相関の低い方言は、 その方言を母語とする者にとっては、最も自然で愛着を覚える美しい言語である。 そこに敬意を示さずに特定の方言(たとえ表現者の母語であれ)を笑いのネタにするような態度には 私は共感できない。
25/1/27追記: 中学・高校の同級生から、こがマスクさんの 訛デレラなる動画を教えてもらった。 シンデレラのアニメを石巻弁(と私には認識される言語、 まあ田代島弁とか網地島弁とかかもしれないが)で吹き替えたものであり、 石巻弁の吹き替えでアニメやドラマを鑑賞できたなら、と夢想していた私にとっては、 感動的であり新鮮だ。 日本語版シンデレラの 東京訛りの共通語の吹き替えでは、 単に東京訛りが私には不自然だということだけではなく、 女言葉を始めとした 各種の役割語が使われていて、そこが私にとっては現実感のない虚構の 世界の会話にしか感じられないが、 こがマスクさんの石巻弁(と思われる言語)の吹き替えは直訳ではなく、 石巻弁文化圏の日常会話で如何にもありそうな 庶民的な石巻弁の用例に巧みに置き換えられていて、 その生き生きとした石巻弁の会話が、 実に現実の日常の光景のようで、なんとも懐かしくもあり新鮮だ。 東北弁の動画というと、他地方の人にとってのわかりにくさに焦点を当てたような ものばかりで、 普通のドラマとかアニメとかバラエティーとかニュースとかの 動画を、ただ言語を普通の東北弁にして聞きたいという私の需要に応える動画は なかなか見当たらなかったが、 訛デレラは、アニメを東北弁しかも石巻弁の吹き替えで鑑賞することを 可能にした有り難い貴重な動画だ。 このような、自然な石巻弁の会話データベースが一定数以上の動画に 記録されれば、 近い将来、生成AIにそれを学習させることで、 あらゆる動画(何語で録画されたものであれ)を石巻弁に吹き替えながら 視聴することも可能になるのではと夢想させてくれる。 一応、気になる点もあげれば、 訛デレラも、 石巻弁を笑いを取れる言語として ウケねらいに走っているようなところはあり、 そういうところは引っかからなくもない (私が過敏すぎるのかもしれないが)。 もちろん、 「訛デレラ」という表現自体が東京訛りの共通語を 標準視した共通語話者向けの表現な訳だが、 石巻弁話者の私からすると、 こんなにも訛っていない 自然な日常語そのもののシンデレラのアニメは、 ほんとにリアルで、日常そのもので、新鮮なのだ。 ある意味、私の石巻弁は、こがマスクさんの訛っていないきれいな石巻弁に比べれば、 よっぽど東京訛りかもしれない。 こがマスクさんには、あまりウケねらいに走ることなく、 今後も各種の動画を石巻弁に吹き替えて (というか石巻弁文化圏で如何にも話されてそうな生き生きとした 庶民的な会話用例に置き換えて) くれることを期待している。 実際のところ、 こがマスクさんはウケねらいで作成しているのかもしれないが、 訛デレラなんて、 私にとっては、子供時代とか、毎日 家族と石巻弁だけで 生き生きとコミュニケーションをとっていた音の光景が懐かしく思い出される 心の暖かくなる愛おしい動画だ。 私も自分のピアノだの エスペラントだの 授業だのを YouTubeに晒すことに慣れてきた(鈍麻してきた)から、 いずれ、石巻弁の朗読とか、石巻弁による構造力学の授業とか、 YouTubeにアップしてみたいとは思っているのだが、 家族がどう思うかとか、その辺の問題もある。退職後になるかも。
おらいのかあちゃん
街で夕めしの買い物コして
重でえ荷物いっぺえ持って
坂道 登ってうっちゃけってきたっけ
ずんつぁん あら汁つぐってけでだんだど
おらいのかあちゃん
——おずんつぁん
今日の夕飯 カレーなんだでば
っつって ずんつぁんのあら汁 脇さよげで
カレーつぐってみんなさ
何年もたって ずんつぁん死んだあど
ばんつぁんになってきたかあちゃん言うんだでば
——人間っつうのは馬鹿だなあ
なしてあのどぎ
せっかぐ おずんつぁんのつぐってけだ あら汁バ
食べでやんねがったんだいなって
よしんば買ってきた材料コ無駄にしたって
ほいづがなんだったっつんだべなって
ずんつぁんの親戚だぢ
おらいさあわび持ってきてけだんだでば
そしたっけ寝だきりのずんつぁん
あわび持ってきてけろ
っつうんだど
おらいのかあちゃん
どいなぐして持ってきす
っつったら、おらいのずんつぁん
まるこまんま出してけろ
っつうんだど
そごさ居だずんつぁんの親戚だぢ
だれ、ずんつぁん
あわびまるこまんま喰ったら死にすと
っつったんだど
おらいのかあちゃん
あわびバ薄っぺらぐ
味もそっぺも分がんねえく゚れに
薄ぐ薄ぐ切って
ちょびっとだげ出したんだど
おらいのかあちゃん、ずんつぁん死んだあど
自分もばんつぁんなってきて言うのっしゃ
おずんつぁん、若えどぎ浜で喰ってだみでぐ
よっぽどあわびまるこまんま
喰いでがったんだべなあ
って
むがしおらいさ寝だきりのずんつぁんいだんだげっと
時々おいんどごバ部屋さ呼んで十円コけんだでば
おらいのかあちゃん黙ってそいづバ見でだんだでば
そのうぢ十円コねぐなってきたっけ
おらいのずんつぁん
おいんどご部屋さ呼んで百円コけんだでば
おらいのかあちゃん黙ってそいづバ見でだんだでば
そのうぢ百円コねぐなってきたっけ
おらいのずんつぁん
おいんどご部屋さ呼んで千円札けんだでば
おらいのかあちゃん訝しげな顔こして
そんでも黙って見でだんだでば
そのうぢ千円札もねぐなってきたっけ
おらいのずんつぁん
おいんどご部屋さ呼んで壱万円札けんだでば
おら なんだが知ゃねえがら
その壱万円札ふり回して
うぢんなが はし回ってだんだでば
そしたっけおらいのかあちゃん
おいがら壱万円札とっけして
ずんつぁんどごいって
——子供の金銭感覚麻痺すっから
こいな大金子供さあつけねでけさい——
ってずんつぁんバ怒ったんだでば
それがらずんつぁん
おいんどご部屋さ呼んで
おわしけらいねぐなってしまったんだおん
そして何年がして
ずんつぁん死んだんだでば
それがら何十年がして
おらいのかあちゃんもばんつぁんなってきて
言うんだでば
——人間っつうのは馬鹿だなあ
なしてあのどぎ
あの壱万円札バ
百円コ百枚にして
おずんつぁんさあつけねがったんだい
——って
そしたらずんつぁん
百回もおいんどごバ部屋さ呼んで
百円コけらいだのにって
めんこいおいか゚
ずんつぁんの許さ呼ばいんのか゚
生理的にやんだがったんだどっさ
おいもおぼこんどぎは
めんこがったのがいや
確かにおぼこはめんこいおんな
んでもおぼこんどぎは
自分か゚めんこいなんて
分がんねおんな
ずんつぁんか゚
おいの顔コ見でか゚ってるなんて
分がんねがったおんな
店屋コがら買ってきたおにき゚り
どごさ置いだんだが ねぐなってしまって
いっしょけんめ捜しがだしても見つかんねくて
そいなバガなごどある訳ねえど思って
いっしょけんめ目え凝らしてだっけ
だれ 自分の目の前の飯台の上さ置いであんだおん
あーあー
もし年取って目えどが わりぐなったら
こいなごどしょっちゅうなんだべな
そいなどぎ
——なんだべ おずんつぁん、すかねごだ!
っつってける孫どがいでけだらいいべなあ
へだすっと
そんどぎも一人で
こいなぐ狭こい部屋ん中さいで
ああ、そう言えば
若え頃も
こいなぐ、おにぎり見っけらいねぐなったごど
あったっけなあ
どがって思ってだりすんのがや
一歳半のおらいのわらす
自分の桃 ぜんぶ喰ってしまったどて
今度ぁ とうちゃんの桃
おら わんざど残してだ ちゃっこい一切れさ ホーク刺して
——こいづ とうちゃんのだよ
って ゆーっくり口さ持ってぐべどしたっけ
おらいのわらす
そいづバ とっけして
さっさど 自分の口さ入れでしまったおんや
——あーあー、とうちゃんの桃 ねぐなってしまった
——あーあー、とうちゃん、桃 喰いでがったなー
っつって口バ おっきぐ開げでだっけ
おらいのわらす
もはや飲み込むべどしてだ桃
噛んでぐぢょぢょになった桃
口がら出して つまんでよごして
とうちゃんの口の中さ入れでけだんだよわ
——あー、めんこだなあ
おらいのわらす
二歳なった おらいのわらす連れで
近所の公園 散歩してだっけ
弥生時代の住居みでえなのこしぇえでだがら
なまはげのうぢでねえが
っつって覗いでみだっけ
真っ暗の中がら おんちゃん出できて
入っていがすと
っつうのっしゃ
んだがら へってみっか
っつったっけ
なんだが、おっかねがってんだっけ
ほして、言うのっしゃ
——電気で暗ぐしてんのがなあ
おらいのわらすだら
電気は暗いどごバ明るぐするだげでねくて
明るいどごバ暗ぐするものだど思ってんだなや
三歳なった おらいのわらす
喰うのに うんと時間コ掛がんのっしゃ
んだがら忙しい朝だの
さっさど
ど一番 最初に
ほしたらば おらいのわらす 反抗すんだどや
——とうちゃんか゚ こっちに座って
——かあちゃんか゚ こっちに座って
——みんなで一緒に食べっぺし
——みんなで一緒に食べだほう おいしんだよ
だどっしゃ
ちょっと強迫神経 入ってるおら
出掛げっとぎ
免許証、財布、携帯
免許証、財布、携帯
免許証、財布、携帯
って何回もポケット触って確認してがら出掛げんのっしゃ
ほしたっけ
三歳のわらすだら
ほいづ真似して
めんきょしょ、めんきょしょ、めんきょしょ
ってやりやがんだおん
ある朝 起きたっけ
おらいのわらす
あ、かあちゃん、かあちゃん、かあちゃん
っつって かあちゃん蒲団さ寝でんの確認すんのっしゃ
なして、かあちゃん、かあちゃんっつうのやって訊いだっけ
とうちゃんか゚めんきょしょ、めんきょしょ、めんきょしょ
っていうみでぐ
かあちゃん、かあちゃん、かあちゃん
っていうんだ
だど
おいは、はっきりど
「彼方」の住人になりした
結婚してわらすも生まれした
へー
想像してだ通り
こんなに「楽」だったんだ
「彼方」の人だぢは
「此方」時代に
露悪的なまでに書ぎ散らした
孤独の吐露は
少しも誇張でねがったな
もっともっと生々しぐ
痛々しぐ書ぎ曝したっていいく゚れえ
「彼方」の生活は
どっぷりどした
懐かしい
かけがえのねえ
安堵
おいの目的は
おいがしあわせになっこどだ
羽田澄子だが誰だが言ってだげっと
戦争か゚あっていい戦争映画でぎんのか゚いいんでねくて
戦争か゚ねくていい戦争映画もでぎねえのか゚一番いんだ
「此方」時代のおいは書ぐごどいっぺえあった
っつうが
言いてくて
言いてくて
いっぺえ書いだげっと
そんでも
言いてえごどの何分の一も
実は言えねえままだったなや
勿論
安堵に満ちた「彼方」の生活も
書ぐネタはいっぺえあるよ
んでも
「彼方」の生活バ享受でぎる人間にとって
書ぐごどは
自分の現在バ主張すっこどは
ぜんぜん差し迫った優先順位にはねんだな
あの
懐かしい
すんけ゚え楽しがった
子供時代の自分
手放しで親の愛情さ
どっぷり漬かってだ自分
あのどぎの自分か゚感じでだ
同じしあわせ
おいは今
笑いなか゚ら抱き着いでくる
自分のわらすさ見る
五歳のわらす連れで買い物さ行ったっけ
喉 乾いだっつがら
ストローで飲む紙パックのジュース買ってやったっけ
案の定、店の中でジュース 吹き出させで、こぼしてんだおん
帰りの車の中で、
どうやって こぼしたのや?
押したのが?
ぶぐぶぐって空気 吹き込んだのが?
とうちゃんには、その二っつく゚れえしか思いつかねえど
って何回も問い質したっけ
とうちゃんだの大人に言うど笑うがら教えね
だっつおん
なにすや
そいな、笑わいるく゚れおもしいごどやったのが?
なんだべなあ?
押したのがや?
ぶぐぶぐって空気 吹き込んだのがや?
やっぱり、その二っつく゚れえしか思いつかねえなあ
っつっても、やっぱり
笑わいっから教えね
だっつおん
そんなに笑うく゚れえ おもしいごどやらがしたのがや
なにやったんだべなあ
どがっつってだっけ
ぼそっと一言
押してがら息 入れだ
だっつおん
はっはっはっ、完璧に予想通りの答えに思わず笑ってしまったっけ
ほらね、笑ったがら、もう絶対に教えない
だっつおん
五才のわらす車さ乗せで
買物だがゲームだがしさ行ぐべどしてだっけ
——キリンのお店に行ぐ
っつうんだな
そいな店 知ゃねえがら、
——キリンのお店? どごだべなあ
とうちゃん、わがんねなあ——
どがって言ってだっけ、
おらいのわらす、だんだんイライラしてきて
——あれ、キリン描いでるお店、キリン描いでるお店
って何回も言って
そんでも分がんねえがら、
——キリン描いでるお店って、子供の病院のごどでねえのが?
どがって言ったらば、
——ちか゚うーっ! キリンのお店ーえーーんっ!
つって泣ぎだして足ばだばだやりだしたんだおん
しゃねえがら、トイザらスさ行ってみだっけ
キリンの絵え描いであっから、
——ああ、キリンの絵 描いであんな、トイザらスのごど言ってだのが
つったっけ、
——んだよ
っつうごどになって、ひとまず落ぢ着いだんだげっと
帰りの車の中で、
——キリンのお店って、トイザらスのごどだったのがあ
とうちゃんわがんねがったど
キリンのお店っつってとうちゃんわがんねがったら
キリンのお店、キリンのお店って
何回も同じごど言ったって
とうちゃん わがんねんだがらな
キリンのお店っつって、とうちゃんわがんねがったら
あれ、おもちゃやさんどが
あれ、こないだ風船で作ってもらったどごどが
あれ、赤い服のお店の人 居っとごどが
とうちゃんわがるまで
いろいろど言い方 変えでみろ
って一応、教えどいだのっしゃ
それがら数ヵ月して
部屋でガラス瓶の隠しっこして遊んでだのっしゃ
わらすか゚ガラス瓶 隠して、とうちゃんか゚探す番のどぎ
かあちゃんに呼ばいっかなんかして
ガラス瓶 隠したまま、次の日になったのっしゃ
んだがら わらすに
——あれ、ビーズ入ってる入れ物、どごさ隠したのや?
って聞いでみだっけ、
——なにそれ、わがんね
だど。んだがら、
——あれ、ビーズ入ってる入れ物、どごさ隠したのや?
って、もう一回 言ったっけ、おらいのわらすだら、
——おんなじごど二回 言ったってわがんないー
だど
——んだな。確かに同じごど何回も言ったって分がんねがったな。
あれ、きのう、とうちゃんど隠しっこしたべ?
ガラスの透明な四角い瓶でビーズが入ってで…
どがって言ってだらば、思い出したみでで、
——ああ、そうそう、あれね、あれ。どごに隠したっけ?
だど。結局 自分でもどごに隠したが忘れでしまってで
——こごに隠したど思う
ど本人が言う押入の脇は
最後がら二番めに隠した場所で
結局 押入の中の如何にもわらすの隠しそうな場所に
とうちゃんか゚見つけだのっしゃ
それがらまだ1週間く゚れえして
まだ わらすバ車に乗せで買物に行ってだんだでば
そしたっけ、わらすが病院が何がの看板でも見つけだのが
——あ、ダチョウだ、ダチョウだ
っつうんだでば
——どごさダチョウあったのや?
って聞いだっけ
——ああ、見ないがら、もう見えなぐなってしまった
つってまだイライラすんのっしゃ
んだがら、
——ダチョウの絵なんて描いであっかや?
つったっけ、
——うん。ダチョウあった。ダチョウ、シロチョウがな
どがって怪しぐなってきたがら、
——もしかして白鳥が?
って言ったっけ、
——ちか゚う、ダチョウだ、ダチョウ
っつうんだな。んだがら
——んで、アヒルどがでねえのが?
って聞いても
——ちか゚う、ダチョウだ、ダチョウ
つうのっしゃ
——んだって、ダチョウって、うんとおっきい鳥だど
つったっけ、
——え、鳥でないよ。ダチョウだよ
だど
——なにすや。鳥でねえのす? んで、なんだべな
つったっけ、
——葉っぱだよ。ダチョウって
だど
——葉っぱすや? んでダチョウって言わいでもとうちゃんわがんねがら
もっと言い方 変えでみねげわがんねべ——
つったっけ、
——あれ、最初 緑色で、次に黄色になるやづ
だど
——ああ、イチョウが…
かあちゃん、あがんぼの世話に疲れ果でで
とうちゃんの布団さ寝でだんだな
そしたっけ、五才のわらす
——ほら、かあちゃん とうちゃんの布団さ寝でるよ
とうちゃん、怒らいん——
だど
——ん、別にいいべ
——んだって、かあちゃんくさいの ついでしまうよ
——ん、別にいいよ
——んだって、かあちゃんくさぐなるんだよ
——ん、別にかあちゃんくさぐなったっていっちゃ
——! えーっ、もしかしてかあちゃんか゚すきなの?
——えっ! 知ゃねがったのが?
結婚して間もない頃だったな
友達らいさ遊びさ行ったっけ
四才く゚れえど二才く゚れえのわらすが
突然の来客に興奮して
いろいろどすっかげでくんのっしゃ
んだがら
まだわらすのいねがった おいも
いい気になって
そのわらすだぢバ ひずってだのっしゃ
しばらぐ
大人だぢで話し語りしてる間じゅう
わらすだぢは
トムとジェリーの英語版のビデオだがDVD見でだなあ
って思ってだのっしゃ
まだしばらぐ
大人だぢで話し語りしてだっけ
四才のわらす 電話帳 持ってきて
いっしょけんめー
電話帳ば開いで バンバン叩ぎなか゚ら
よーほっほっほっほ
よーほっほっほっほ
って叫んでんだでば
最初は何やってんのが分がんねくて
おいもしばらぐ理解に苦しんだんだでば
よーほっほっほっほ
よーほっほっほっほ
?
ピンと来て
ああ、
トムどジェリーの真似があ
んだ、んだ
その通りだ、うまい、うまい
確かにトムとジェリーは
本バ こいなぐ叩ぎなか゚ら
よーほっほっほって笑うおんな
んだ、ホントだ
って感心してみせでだっけ
下の二才のわらすの方も
おにいちゃんの真似こして
いっしょけんめなって
いっしょに電話帳 叩いでみせでんのっしゃ
よーほっほっほっほ
よーほっほっほっほ
そのめんこいごど
二才になった下のわらす
だんだん色んなごどしゃべるようなってきて
ひとりで朝 起きて
なんだのかんだの
べらべらしゃべってんだおん
とうちゃんだの 眠てがら
んー、んー——って適当に相槌 打ってやってだのっしゃ
そしたっけ、二才のわらす
いち もも ひゃくひゃく
いち もも ひゃくひゃく
って しつこぐ 言ってくんのっしゃ
なんのごどがど思って
薄目 開げで見でみだっけ
犬の抱ぎ枕バ指さしなか゚ら
いち もも ひゃくひゃく
いち もも ひゃくひゃく
って言ってくんのっしゃ
なんだべど思って見でみだっけ
その犬の抱ぎ枕さ
I ♡ dog
って書いであんのっしゃ
——んだなあ、ほんとだ。
ほんとに「いち もも ひゃくひゃく」って書いであんなあ
ミルミル、ほんとにおりこうだなあ
二才になった下のわらす
上のわらすより好き嫌い多くて
嫌いなもの
べーすんだおん
こないだも
ゆでたまご
べーって出したがら
あら、なして べーすんのや?
って聞いだっけ
げほげほ
だっつおん
えっ? げほげほなったのが?
って聞いだっけ
ゲホッゲホッ
って上手に咳する真似すんだおん
なにっこの
いってえ どごで
そいなぐ嘘つぐの覚えでくんだべな
二才になったおらいのわらす
とうちゃんだの歯ぁ磨いでっと
はーあー
はーあー
っつって、歯ブラシよごせっつんだおん
んだがら、こども用の安全歯ブラシやっと
あちこち歩き回りなか゚ら歯ブラシしゃぶってんだおん
ほして、押入れの隙間の埃だらげのどごさ
歯ブラシつっこんで、
はー ここ おいとくねー
だっつおん
んだがら かあちゃん
——ミルミルっ、どごさ歯ブラシ置いでんの!
押入れ 埃だらげで汚ねんだよっ!
まったぐ もうっ!
って怒ったっけ
二才のわらす、その埃だらげの歯ブラシ
まだ
くわえで
台所で歯ぁ磨いでるとうちゃんのどごさ来て
ちっちゃい声で
——かあちゃん ばか
だっつおん
とうちゃん 受げで笑いなか゚ら
ミルミル、今 なんて言った?
って聞いだっけ
かあちゃんにも聞けでだんだな
かあちゃん、おっかねえ声で
——ミルミル、かあちゃん ばがっつったなあ!
って怒ったっけ
二才のわらす、突然 床に転か゚って泣き出して
えーん、えーんって泣きなか゚ら
かあちゃんのどごさ走ってって
かあちゃんさ だっこすんだおん
かあちゃん 好ぎなんだ
小学二年なった上のわらす
やぎもぢ焼いで
いっそ 下の二才のわらす いじめんだおん
こないだも、バタンっつう音したあど
えーんっつう 二才のわらすの泣き声 聞けできたがら
まだ なにが やらがしたど 思って 救出に向がったっけ
下の子バ 便所さ 閉じ込めでんだおん
便所ん中で 泣いでる わらすバ だっこして 頭 撫でなか゚ら
ミルミルっ、だいじょうぶが? ねえねに なにさいだのや?
って聞いだっけ、
ねえね ミルミル かくしたー
って必死に訴えんだっけ
そうがー、ねえねに トイレさ かくさいだのがあ
って 慰めでやったのっさ
それがらも毎日のように 上のわらすは 下のわらすバ いじめんだげっと
そのたんびに 怒らいるもんだがら、おもしぐねくて
ミルミル ばか、ミルミル ばか、ばかばかばかばか大ばか
って 下のわらすさ 悪口ばり 言うんだおん
んだがら とうちゃん、そのたんびにミルミルの頭 撫でなか゚ら
ミルミルは ばがでねえよ。ばがって言う人か゚ ばがなんだ
って 言ってやっつど、下のわらすだら 思い出すんだべなあ
ばかねえね ミルミル トイレに かくしたんだよ
って そのたんびに言うのっしゃ
二才のわらす お風呂さ 入れっとぎ
空のペットボトル あつけだっけ
ペットボトルさ 水 入れでは、フタさ 注いで 飲むふりして
とうちゃんの お酒飲み やりてがったんだな
とうちゃんさも 一組よごして おんなじごど させんのさ
おっとっとっと、まあまあまあまあ
って とうちゃんも いい気になって お酌だの手酌だの やってだげっと
下のわらす よっぽど気に入って 飽きる気配がねんだな
もう飲みすぎだがら、この一本で終わりだよ
ほら、お店 もう閉まったんだって
だの色々 言ってみでも、はっぱり やめる気ねんだな
んだがら
お店 閉まったがら、とうちゃん、もう終わりにすっぺ
っつって、とうちゃん持ってだペットボトルの水 捨てで片付げだっけ、
——おみせのひとに おこられるよ
だど。
なして、お店の人に怒らいんのや?
って聞いだっけ、
——ちゃんと のみなさい って、おこられるんだよ
だど。
下のわらす 三才になったげっと、夜はながなが寝ねんだ
上の小学二年のわらすの方 先に寝でしまうんだ
いっそ、おだってばり いで
上のわらすの真似して、下品な話だの面白がってやってんだ
——はたらく車のどご 行ったっけ、
ドキンちゃんか゚、うんこして、
おならして、おしっこ、じょーじょー ——
だの、得意になってやってっから、
——はっぱりおもしぐね
って、言ってやったっけ
そいづが おもしいどって、
けけけけけって笑うのっしゃ
ほして、まだ
——うんこがおならをたべて、おしっこじょーじょー
ってやりだすがら、まだ
——はっぱりおもしぐね
って言ってやっと、まだ
けけけけけって笑うのっしゃ
こんでは、わらすの思うツボだがら、
ちょっと戦法 変えで、
——ほれ、こごさ とうちゃんの 眠ぐなるスイッチあっと、
押してみらいん
つって、とうちゃんのおでこバ 押させっぺど したっけ
お利口な わらすだら、この後の展開
——まずは、眠ぐなるスイッチで、とうちゃんか゚寝で、
次に、わらすの眠ぐなるスイッチをとうちゃんか゚押して、
わらすバ寝せるっつう——
それを悟ったんだべな
わらすだら、
——起きるスイッチだよ、ピッ
つって とうちゃんのおでこバ押して
——とうちゃん 起きろ
だっつおん
とうちゃんは まだ戦略 変えだ
——ミルミル、どれ とうちゃん お話 してけっから。
むかし むかし あるところに
かあちゃん ど とうちゃん ど ちっちゃいこが いました
かあちゃんは つかれで ねてしまいました
ちっちゃいこは いつまでも ふざげで おきてました
とうちゃんは ちっちゃいこ に つぎあって
おはなしを してあげだり してましたが
ちっちゃいこは さっぱり ねないので
とうちゃんは つかれで ねむってしまいました
かあちゃんも とうちゃんも ねむってしまって
ちっちゃいこが ひとりだげ おきてました
そしたら ピンポーンと げんかんの チャイムが なりました
ちっちゃいこが げんかんに いってみると
——おきてるこはいるかな、
ねるのは つまんないから ゆうえんちに あそびに いこう
という こえが しました
とうちゃんは ちっちゃいこに
——だめだっ! いってだめだっ!
と いおうと しましたが、もう ねてしまっていたので
どんなに いっしょうけんめい さけぼうとしても こえが でませんでした
ちっちゃいこは、あそびに いきたかったので
げんかんのドアを あけて しまいました
そしたら、しらないひとが ねないこ たちを つれて
——さあ、ゆうえんち へ いこう
と ちっちゃいこ を さそいました
ちっちゃいこは しらない ひとに ついて いってしまいました
つぎのひのあさ とうちゃんは おきると
ちっちゃいこを さがしました
でも、ちっちゃいこは いなくなって もう かえってきませんでした
っつうような話バ すっぺどしてだっけ
お利口な わらすだら、話の展開が見えだんだべな
——ピンポーンと げんかんの チャイムが なりました——の辺りで
ぼそっと 一言、
——はっぱりおもしぐね
だど
上のわらす
小学二年になっても
未だに三才の弟さ やぎもぢ やいで
いじめで ばり いんだ
今日も 朝から ひともんちゃく あって
下のわらす いじめらいで かわいそうだがら
とうちゃん 下のわらすバ だっこして
めんこ めんこ しなか゚ら
上のわらすさ 聞こえるように
——ねえねな、8さい に なったら
やさしい ねえね に へんしん すっからな
まちどおしいなあ、
ねえね 8さい に なったら やさしぐなるんだって
たのしみだなあ——
って、言ってやったのさ
ほしたっけ、上のわらすだら
——うるせっ、8さいに なったって、やさしぐなんかなんね!
だど。悪態ついでんだ
そのあど、お昼にラーメン屋さ行ったっけ
子供さ ぬり絵どクレヨンどよごさいんだんだな
下のわらす は まだ ちゃっけえど 思わいだんだが
一人ぶんだげ
ほしたっけ、上のわらす
ぬり絵バ ひとり占めして
いっしょけんめ ぬり方 してんのさ
下のわらす、クレヨン持って ぬっぺどすんだげっと
上のわらす、
——あーっ、ミルミルっ、やめでーっ!
っつって、下のわらすバ 押したりすんだ
とうちゃん ど かあちゃん、見かねで
——なんだべ、ミルミルさも ぬらせで やったらいいべ
っつっても、
——ミルミル だめーっ!
っつって、ミルミルんどご 押して 突き飛ばすんだおん
いじわるさいだ かわいそうな ミルミル
——ねえね、8さい に なるよ、
ねえね 8さい に なるんだよ。
だど。
三才の わらすバ 風呂さ 入れでだっけ
わらす、右手の指 三本ばり 立でで
—— とうちゃん、なな つぐってー
っつうのっしゃ
んだがら、とうちゃん、
わらすの 左手で 四つぐってやって、
—— ほら、三ど四で、七だよ——
っつったっけ、わらすだら、
—— ちか゚うー、ご と に の なな つぐってー
っつうがら、
—— 五と二の七つぐんの?——
って 言いなか゚ら、
わらすの 左手ば五に、
右手ば 二にすっぺどしたっけ
わらす だら 癇癪 おごして
右手の指 三本 立でなか゚ら
—— ちか゚うーっ、ほがの なな つぐってーっ——
って 叫ぶ のっしゃ
んだがら とうちゃん、
ためしに とうちゃんの 左手バ 五に
右手バ 二にして
—— 五 たす 二で 七だよ——
っつって みだっけ
わらす だら、とうちゃんの 七さ
自分の右手の三バ くっつけで
—— なな と さん で じゅう だよ——
だど
—— んだあ! ほんとだ、
ミルミル、七ど三で十だって やりてがったんだな、
七たす三は十 は、ミルミルの指だげでは できねえおんな ——
わらすは こんなに お利口なのに
おとなは なして その意図 素直に くめねんだべな
御用納めの日の朝
とうちゃん 仕事さ 行ぐどぎ
三才の下のわらすさ びだびだちゅっちゅっしなか゚ら、
——とうちゃん 今日で仕事 最後だー
って言って出がげだのっさ
それがら年末年始は 瞬く間に過ぎ去って
休み明げの朝
とうちゃん だげ 早ぐ起きて
一人で 朝ご飯 食べでだのっさ
そしたっけ 下のわらす
わさわさど 起きてきて、
——とうちゃん、きょう おしこ゚と さいこ゚?——
だど
——んだなー、今日か゚お仕事 最後だったらいいなー
かあちゃん 居ねえ日
とうちゃん わらすだぢさ 朝ご飯
洗濯だの掃除だの ちゃっちゃど終わらせで
わらすだぢさ、
——どれ、おでかげだ! どごさ いぐ?——
っつって、まずは ショッピングモールのプレイランドで
ひとしきり遊ばせでがら
かっぱ寿司さ お昼 食べさ 行ったのっさ
かあちゃん 居っとぎは ながなが つれできて もらえねえがら
わらすども は 大はしゃぎ だおん
——ちょっと待ってろな——
って、とうちゃん何回も言ってんのに
上の小学二年のわらすは 勝手に 好ぎなもの 取り始まっぺし
下の三才のわらすは とうちゃん 注文してる隙に
勝手に イクラ 食べ始まって
ボロボロ 床に こぼして
そごらじゅう ベダベダになってぺし
上のわらす そいづ見で
笑いなか゚ら 好ぎなの 取りまぐってんだ
とうちゃん しゃまして、
——なして言うごど聞がねのや! も少し協力してけろっ!——
って 怒鳴ってしまったのっしゃ
上のわらす おどなしぐ なったど思ったっけ
目さ いっぺえ 涙 ためでんだおん
せっかぐ の 楽しみにしてだ かっぱ寿司
とうちゃん が 台無しに してしまったど反省して
上のわらすの頭コ 撫でなか゚ら、
——ごめんなー。とうちゃん疲れでだんだ
せっかぐ楽しみにしてだ かっぱ寿司に 来たんだおんな
好ぎなもの 取っていいど——
だど
休みの日の朝 とうちゃん 下の三才のわらすさ
菓子パン
わらすだら 一切れしか
ほして 小学二年の上のわらすの 真似コして
歯磨ぎ だっつおん
かあちゃん パン二切れ 残ってんの 見で
——どうせ 食べないのに 全部 出さないでっ!
いづまでも出してないでサランラップかげでしまってきてっ!ー
て とうちゃん 怒らいだのっしゃ
とうちゃん サランラップかげさ行ったっけ
上のわらす、
——ミルミルっ、歯ブラシに 水つけないでっ!——
て まだ 下のわらす さ いじわるしてんだおん
とうちゃん、下のわらすさ 共鳴して、
——みんな やさしぐなってけろ——
っつったっけ
下のわらす、
——キルキル、コップに みず いれてくれて やさしいよー
だど
ミルミル一番やさしんだ
仕事さ行ぐ途中の道端さ
ばんつぁん 座ってだのっしゃ
おら イヤホンしたまま通り過ぎっぺどしたっけ
そのばんつぁん、手え上げで
——ちょっと にいちゃん——
って呼び止めんだでば
イヤホンしてハイドン聞いでる四十四才のにいちゃんバ
んだがら、イヤホン片耳 はずして
——はい、なにっしゃ——
って聞いだっけ
——今、何時っしゃ——
っつうのさ
んだがら、腕時計 見せなか゚ら
——八時五分っ——
つったのっさ
ほんとえば八時三分だったげっと
ほしたっけ、ばんつぁん
——見えねんだ。何時す?——
って、耳も遠いみでえなんだな
んだがら、もっとおっきい声で
——八時っ——
っつったのっしゃ
ほしたっけ、ばんつぁん
——八時バッチリが?——
ど聞ぐのっしゃ
んだがら、時計 見直して
——八時四分が——
つったっけ、ばんつぁん
ポケットさ手ぇ つっこんで
なんだが ごそごそ出すべどすっから
おわしでも出すんでねえべなど思いなか゚ら
——いいがら、いいがら——
っついなか゚ら、立ち去っぺどしたっけ
ばんつぁん、ポケットがら飴ッコ 出して
——ほれ、けっからっ——
っつうのっしゃ
なんだ、飴ッコが ど思いなか゚ら
——いいがら、いいがら——
って、立ち去っぺどしたっけ
そのばんつぁん、
——ほれっ、投げっつぉ!——
って、飴ッコ 投げっぺどすんだでば
おら、笑いなか゚ら(ほんとにおもしがったがら)
——いいがら、いいがら——
って、立ち去ったのっしゃ
立ち去ってがら思えば
あの飴ッコ もらってやればいがったなって
せっかぐだがら、投げでもらって
四十四才にもなった にいちゃん
はっぱり機転 きがねがったな
百円ショップで、とうちゃん お金 払ってだっけ
四年生ど年中のわらすども 二人、トイレのどごで、ドア 開げだり閉めだり
遊んでんだっけ
まだ、きたらすねえ 取っ手だの さわって 病気だの 伝染さいんだがら
とうちゃん、怪訝そうに 眺めでだっけ
下のわらす とうちゃんどご 来て、とうちゃんの ズボン掴みなか゚ら
お金 払い終わんの 待ってんだっけ
とうちゃん お金 払い終わって——なにしたのや?——
って聞いだっけ——トイレのドア あかないんだよ——だど
さては、上のわらす トイレに入って 鍵 閉めだがら
とうちゃんさ 開げさせで すっかげるつもりだなど思って
——だめっ! おねえちゃんトイレ入ってんだがら 開げでだめっ!——
って言ったっけ、
——トイレのドア あがないんだよっ!——
ってしつこく訴えんだっけ。
そりゃあ毎日おねえちゃんにいじめらいでっから
反撃できそうな機会バ うかがってんだべげっと
トイレの前さ とうちゃん 連れでって、ドア 開げっぺどすんだおん
——だめだめっ!——ってとうちゃん言ったっけ
トイレの中がら上のわらす 騒いでる声すんだ
下のわらすに ドア開げっぺどさいで、やめろって騒いでんだな
って思ったっけ——ドア 開かないっ!だど
——なに、ほんとにドア 開がねえのが?——
——ほんとにドア 開かないっ!——だど
とうちゃん ドア開げでやったっけ
上のわらす 半べそ かいでんだっけ
いっつも おねえちゃんにいじめらいでる下のわらす
おねえちゃんバ 助けっぺど とうちゃんどご 呼びさきてけだんだいっちゃ
ミルミルんどご ふろさ入れでだっけ
——ミルミル しにたくない
ミルミル ひゃくさい まで いきたい——
っつうのさ
——んで、まどさ のっかったり
ちゅうしゃじょう で はしったり
あぶないごどしねで
あど、ぎゅうにゅうも のんで
やさいも たべで
ちゃんと いうごど きがいん——
っつったっけ
——れいきゅうしゃ のりたくない
ミルミル しんでも れいきゅうしゃ のせないで——
っつうのさ
——れいきゅうしゃ?
れいきゅうしゃ に のるのは もう しんでがらだがら
れいきゅうしゃ に のせられでも もう かんけいねえべ——
——れいきゅうしゃ のりたくない——
——れいきゅうしゃ は しんだひと もやすどご まで はこぶだけだよ
べつに れいきゅうしゃ つかわなくたって いいんだよ——
——れいきゅうしゃ のりたくない
みんなと てえ つないで しにたい——
だど。思わず 笑ってしまった
——はっはっはっは、みんなど てえ つないで しにたいのが
みんなって だれや?——
——おとうさんと、おかあさんと、おねえちゃん——
——んだってミルミル、ひゃくさいまで いきたいんでねえのが?
とうちゃん、そのまえに しぬど——
——いやだ。ミルミル、おとうさんと てえ つないで しにたい——
——もし とうちゃんか゚ 九十さいで しぬどして、ミルミル なんさいだべ?
とうちゃんどミルミルは四十一さい ちか゚うがら
とうちゃんか゚九十さいで しぬどぎ、ミルミルは四十九さいが?
いやー、もっと ながいぎ してがら しんだほう いんでねえが?——
——いやだ。みんなと いっしょに てえ つないで しにたい——
——ミルミル、しぬどぎに、ひとりで さびしぐ しぬのか゚いやなのが?
んで、とうちゃんだの かあちゃんど いっしょに しぬんでねくて
はやぐ けっこんして、こどもだの まこ゚だの いっぱいつぐって、
こどもだの まごだのに いっぱい かごまれて、
「ミルミルとうちゃんっ!、ミルミルじいじっ!」って
こどもだの まごだのに てえ つないでもらって しんだらいんでねえが?——
——ミルミル、みんなと てえ つないで しにたい!
キルキル 五才くれえの時だったがや
お手伝いに箸 運んできて
テーブルさ パシャって置いだのっさ
箸の持つ方 左側になってだがら
——あら、こんで、みき゚きぎの ひと もぢにぐいんでねえが?——
つったっけ、
——こうやって もでば いっちゃ——
どがっつって、
右手の親指ど人差し指の甲の側バ 箸さ おつけで、
ぐいっと、右手だげで器用に箸バ 持ってみせんだっけ
——なにすや?——
って、とうちゃんも試してみだっけ、
なるほど。箸の持つ方が左にあれば、
左手で箸 持ぢ上げねくたって、
右手だげで一気に箸 持でるな。確かに
——んだな。たしかに、これだど みき゚て だげで もでっから
こっちのほう いい おぎがだ がもしゃねな——
とうちゃん納得して、キルキルんどご
めんこい わらすだなーって思ったんだでば
それがら何年も経って
キルキル 九才になって
五才のミルミル
お手伝いに かあちゃんの箸 運んできて
テーブルさ パシャって置いだのっさ
箸の持つ方 左側になってだっけ
九才のキルキルだら、
——へー、おかあさん ひだりききだったんだ。
へー、しらながったー。へー、ミルミルのおかあさん、
ひだりききだったんだ。へーーーっ ——
って 皮肉のつもりの いじわる始めるんだっけ
あのな、親ばがのとうちゃんな、
実は一人でご飯 喰うどぎ、
五才のキルキルに教わった通り
箸の持つ方 左側に置いでだんだど
五才のキルキルの思い出に
キルキルもうすぐ二才の頃
言葉ひっくり返して言うの
うんと めんこがったのなや
かぼちゃって言ってみらいんっつうど
なんぼしても「かぢゃぽ」になんだな
そのめんこいごど、めんこいごど
ビデオにも残ってんだ
——かぼちゃって言ってみらいん——
——かぢゃぽ——
って
そのキルキル九才なって
弟の五才のミルミル
いまだに言葉ひっくりげんだな
へりぽくたーだの
ぽっくぽーんだの
そのめんこいごど、めんこいごど
キルキル、そいづ気に喰わねくて
プリキュア大好きなミルミル
ハートキャッチプリキュアのごど
はーとたっちゅプリキュアっつってだっけ
キルキルだら
——へーっ、ハートキャッチプリキュアでなくて
ハートタッチュプリキュアっていうんだ
しらながったー
じゃあ、あしたテレビで確かめてみっか
ほんとにハートタッチュプリキュアっていうかどうかっ! ——
あのなーキルキル、
あんだ、ちっちゃいどぎ
かぼちゃのごど
かぢゃぽって言って
めんこいなーって思ったげっと
へー、かぼちゃのごどかぢゃぽっていうんだっ!
しらながったー
って言ってほしがったが
へー、かぼちゃのごどかぢゃぽっていうんだっ!
しらながったー
って、そいなぐ育てらいでがったがっ!
あのなー
親馬鹿のとうちゃん
あんだのかぢゃぽの動画ファイル
スマホさ入れでる宝物なんだど
かぢゃぽ
確か「カラスの飼育」っつう映画で
ちゃっこい子か゚かあちゃんさ ピアノ弾いでけろっつうのさ
かあちゃんは、
——あんだのすぎなきょぐって、これ?——
って、子供の好きそうな曲(忘ぇだげっと、キラキラ星どが)弾ぐど
そのわらす、首 横に振って違うっつのさ
——んで、このきょぐ?——
って、かあちゃん、違う曲 弾ぐど
そんでも、違うっつうのさ
そんで そのかあちゃん、ためしに大人っぽい曲(モンポウがや?)弾ぐど
そのわらす、頷いてその曲だっつうのっしゃ
子供だって、いい曲はいいど思うっつうごどだな
おらいのわらす
小学五年生なって
とうちゃんよりは全然ピアノ弾げねんだげっと
とうちゃんの弾いでだ
ベートーベンのソナタ二十七番の二楽章
遊びなか゚ら耳に入ったのが
——キルキル、この曲 好き——
っつって、鼻歌で歌ってけでんのっしゃ
とうちゃん いい気になって
それがら 週末になっつど
ベートーベンの二十七番、弾いでだのっしゃ
とうちゃんか゚この曲 弾いでんの
わらすの記憶に残っといいなあど
そしたっけ
おらいのかあちゃん 言うのっしゃ
——自分だげ楽しければいんだがら、ヘッドホンつけて弾いで
…休みの日に毎週毎週 おんなじ曲 聴かされる方の身にもなって
…一人暮らしじゃないんだから
…自分は気分いいがもしれないけど
…家族がピアノ 好ぎだってわけじゃないんだから
…前にも言ったのに——
わらすの記憶がら薄れでいぐ旋律
ヘッドホンつけさせらいで
耳の中だげさ響く旋律
さすか゚、ベートーベンは心さしみる
ばんつぁん ど ずんつぁん
新しい老人施設さ引っ越すがら
秋田がら仙台さ
手伝いさ行ってだのっさ
夕方六時からが夕飯の時間なんだげっと
ずんつぁん酒っこ 飲みてえがら
部屋さ食事 運んでもらうごどにしてんのっさ
食堂では 飲酒 禁止さいでる人もいっから
酒は部屋で飲んでけらいど
ほして 六時頃から
ばんつぁん 気ぃもめ始めんのっしゃ
下さ行って 早ぐ ご飯 運んできてけらいんど言ってきてけらいんど
——大丈夫だから
部屋さ運ぶ人は一番最後だがら
遅ぐなっから六時半頃たべ——
つっても ながなが納得しねんだな
施設オープンしたばりで
スタッフばだばだしてっとごさ
非常時インターホンで催促しかねねえ勢いだおん
孫の通信簿 見せで気ぃ紛らわせだげっと
五分がいいどごだな
——あー腹減ってくらくらするー
困ったやー——ってわらすみでえなんだ
——んだがら 部屋さ運んでもらう人は遅ぐなんだでば——
っつうど
——んで、今から下に降りで
食べでくっから——
って立ち上がっていぎそうなんだおん
せっかく今日は
秋田がら おいも来たごどだし
親子三人で夕飯 喰えるように
おいも自分用の弁当ど
酒の肴を兼ねだ ばんつぁんも好ぎな
刺し身どがも買ってきてあんだがら
も少し待ってらいん
そうこうしてるうぢに
ようやぐ食事 届いでやれやれさ
まあ、こいな施設は
色んなスタッフどのコミュニケーション大事だから
ずうずうしぐ言いてえごど言えるくれえで
ちょうどいんだべげっと
昔は人さ細く気ぃ使ってだ人
こんなにも空気 読まねぐなるのも
感慨深いっちゃな
次の日
ばんつぁんさ買い物 頼まいだついでに
施設の近所バ 散歩してみでだっけ
おしゃれな洋菓子屋 見つけだがら
あー今日も ばんつぁん
六時過ぎになっと 腹減って騒ぎ出すがら
おやつでも買ってってやっぺが
たまにはハイカラーな洋菓子も喜んでもらえっぺが
って、おいも助平心だして
店さ入ってみだっけ
サクサクっつい食感の良さそうなシュー生地のだのもあっから
——やっこいのねえのすか——
って、歯の悪いずんつぁん ばんつぁんでも食べらいるもの
すすめでもらって
ハイカラーなチーズケーキ生地のスフレみでえな
割と値段の高い
やっこいやづ買ってったのっしゃ
そしたっけ ずんつぁん
その やっこい洋菓子
まんじゅうみでえなつもりで
口もどさ持ってっで かぶりついだもんだがら
おしゃれな やわらか生地が崩壊して
ズボンさ ボダボダ落っこちて
ネバネバくっついで
取ってやんのに一苦労さ
崩れやすい食べ物 食べっ時は
崩れでもいいようにテーブルの上で食べらいん
って、八十五才がらしつけるごどでねえおんな
ばんつぁんの方は
なんとが問題ねぐ食べだようだげっと
——なんだがバサバサって気持ち悪ぐなってきたな——って
——あー気持ち悪い。食べねげいがったな——って
何回も言うのっしゃ
やっぱり年寄りさ
あんまりおしゃれなもの買ってはわがんねなっつごどだな
わらすみでっつうが、わらすより ひでえがしゃねな
さて、おいは秋田さ帰んねげねえがら
姉のつれあいに駅まで送ってもらって
15:54発の こまちに乗れそうだなあど
ほしたら、秋田さ帰って
子供だぢど一緒に飯 喰うのに間に合うなあど
指定席券の時間変更すっぺどしたのっしゃ
緑の窓口は案の定 混んでっから
あど十分後発車の変更には間に合わね
そんで、今まで一度も成功したごどねえ
自動券売機に挑戦してみだのっしゃ
たぶん おいも何かの障害あんだべな
普通の人が使えば
普通に操作でぎるように
わがりやすく設計されでる
インターフェースのはずなのに
よっぽど不親切でミスリーディングな
各種パソコンインターフェースにも
慣れ親しんでる おいが
今まで五回く゚れえ挑戦して
一度も成功したごどねえ
不思議な現象だ
普通に注意して普通にやれば
普通にでぎるはずだ
まず一回目
指定席の変更
「次へ」
到着駅を入れて下さい
秋田
「次へ」
乗車券を入れて下さい
入れる
「この券は扱えません」
券が吐き出されでくる
んだ。前もこうなった
そして近くに立ってる駅員に聞ぐど
——大丈夫ですよ——
って手際良ぐ変更してけんだ
不思議だ
今回も
近くさ駅員いたがら
——この券 変更でぎねのすか?
扱えませんって出できたんだげっと——
って聞いだっけ
——こちらの券ではなくこちらの券を入れて下さい——
っつうごどで
出発時刻の書いである指定券の方でねくて
出発時刻の書いでねえ乗車券の方
入れねげねがった
っつうのか゚種明かしだったようだ
出発時刻の変更すんのに
出発時刻の書がいだ方バ 入れでダメだど
そいな発想は何回やっても思いつぐはずねえな
どれ、とうとう
今度こそ成功でぎるなど思って
二回目
指定席の変更
「次へ」
到着駅を入れて下さい
——ど おいには見えだ
秋田
——ど一回だげ押したつもりだった
「次へ」
乗車券を入れて下さい
出発時刻の書いでねえ乗車券の方バ入れだ
変更されだ指定席券つき乗車券が出できた
秋田発16:12→仙台着18:30
なんかおがしい
こごは仙台なのに
「到着駅」「秋田」どしか入れでねえつもりなのに
なんで秋田発→仙台着の券なんか出でくんだ???
不思議な現象だ
近くにいだ駅員に
なぜか逆に出でしまったんだげっとっつうど
——これはもう機械では修正できません
緑の窓口で修正して下さい——だど
——この券のまま改札 通してもらうっつうごどでぎねのすか——
って聞いだらば
——逆方向なのでできません——だど
いやー腹立づ腹立づ腹立づ
指定席券の修正なんかしねえで
そのまま15:54発のこまちさ乗ってしまって
車掌に変更させればいがったんだ
そうすれば子供ど飯 喰えだのにな
いやー腹立づ腹立づ腹立づ
そもそも こまちに自由席がねえのか゚ おがしんだ
列車なんて、指定席がなかろうが
子供ど一緒に飯 喰いてえ人は
少しでも早い時間に乗りてえのか゚当たり前だべ
指定席券の修正なんかしねえで
車掌に変更させればいがったんだ
そうやって車掌にめんどう かげだ方が
全席指定の問題点バ 多少は認識してもらえっかもしゃね
いやー腹立づ腹立づ腹立づ
普通の人が普通に使えるように設計されでる機械バ
おいは何回も同じ目的で使おうどして
一回も成功したごどね
どんどん悪ぐなる一方だ
やっぱり なんか障害あんだがしゃねな
わがんねげっと
ほんとに しゃますな
実に感慨深い週末だった
新しい老人施設さ引っ越した ばんつぁん ずんつぁん ど
そのわらすの おいど
今は 16:54発の こまちの中だ
あーあー 秋田さ着ぐのは わらすが飯 喰い終わった頃だ
小学一年になったミルミル
風呂さ入れでだっけ
——かいのつくことば なんこある?
むげんこ ある?——
って聞いでくんのっしゃ
——んだなあ、貝のつぐ言葉が?
赤貝どが、貝殻どが、まあ、有限個だべなあ——
つったっけ
——いっかい、にかい、さんかい、よんかい、……むげんかい ある?——
!
——おお! 確かに、一回、二回、三回、……って
「回」のつぐ言葉は無限個あるな——
——「こ」のつくことば も むげんこ ある?——
——んだなあ、一個、二個、三個、……って無限個あるな——
キルキル 五年生く゚れえのどぎがや
とうちゃん 休みの日の朝
オムレツがなんかつくって
フライパン 油で汚れだがら
ちょうど鼻水 出できてだし
ティッシュで鼻 かんでがら
そのティッシュで
フライパンの油 拭いでおいだんだでば
後で洗いやすいべど思って
いっつもそうしてだのっしゃ
朝ごはん っつってもパンだげっと
食べでだっけ
キルキル 台所でなんかやってんなあど思ったっけ
食パンの耳さ砂糖つけて炒めできたのっしゃ
なんとも うまそうに食べでんだっけ
言った方いんだいが
言わね方いんだいが
加熱消毒さいでっぺしな
——キルキル、あんだ、どのフライパン使ったのや?
——ん? これ
——そいづなあ とうちゃん鼻かんだティッシュで拭いだんだど
——えーーーっ! 食べでしまった! おえ、おえ、おえ——
——まあ、熱で消毒さいでっから大丈夫だべ
——おかあさーん、おとうさん鼻かんだティッシュで拭いだフライパンで炒めだパンの耳 食べでしまったあ——
——なんだべ! 鼻かんだティッシュでフライパン拭ぐなんて非常識だ!
考えられない!
一人暮ししてるわけでないんだがら
そんなごどしないで!——
あーあー
鼻かんだティッシュだの
ゴミ箱さ入ってるティッシュで
油ものついだ鍋だの食器だの
拭いでがら洗うっつのは
ながなが「エコで」合理的だど思ってだんだげっとなあ
ミルミル 年長く゚れえのどぎだったがや
スーパーだのでおしっこすっとぎ
様式便所さ座らせでやってだんだげっと
とぎどぎ立ちションするっつうのさな
つっても ちんちん短けえがら
とうちゃん ずぼんだのパンツだのさ ひっかがんねえように
ちゃんと押さえで ちんちんの皮 剥いで 遠ぐさ 飛ばしてだのっさな
んだげっと そんどぎは
とうちゃん おしっこしてっとぎ
ミルミル 立ちションする——って
勝手にやりだしたんだ
——ちゃんとズボン下げで、皮剥いでやれよ!——
っつって、ハラハラしなか゚ら見でだっけ
案の定! ちんちん短けえがら
ズボンさ、じゃじゃじゃじゃって
ひっかがったんだおん
ミルミル泣ぎだして
——あーーっ、だいしっぱいしちゃった、あーー——
って、泣いでんのっしゃ
その もぞこいごど、もどがしいごど
かわいそうになあ
ミルミル 小学一年生なって
おしっこも うんこも一人で でぎるようになって
車屋さ行ったどぎ
——うんこっ——
っつって、一人でうんこしさ行ったのっさ
しばらぐしてがら
ズボン 少しずり下ろした感じで 戻ってきたのっさ
とうちゃん 悪い予感して
——ミルミルっ、なにした?——
って聞いだのっしゃ
そしたっけ ミルミル
——とうちゃん きてっ——
って、とうちゃんの手
引っ張って行ぐんだでば
とうちゃん、トイレまでつれられで来て
ミルミル なんか失敗したんだなあど思って
——なにしたのや? よごしたのが?——
って聞いだっけ
——んーん、かみ ないんだ——
っつうのっさ
——なに? かみ ねえのが?
んで おしり ふがねがったのが?——
っつったっけ
——かみながったがら、これでふいだんだ——
って、手拭き用ペーパータオルでおしり拭いだみでえなんだな
——ああ、こいづは トイレにながれねえがら、
こいづでは ふがねえほういいな——
——んだって、かみながったがら、これでふいだんだ——
——こんな かだいかみで ふげだのが?——
——あんまり ふけなかったげっと かみ なかったがら これで とちゅうまで ふいたんだ——
——そうが、ちょっと こごで まってろ
とうちゃん、トイレットペーパー もらってきて やっから——
なんだべ、サービスのいいトヨタのディーラーのくせして
トイレットペーパー切らしたままにしてダメだいっちゃ!
とうちゃん 店員に トイレットペーパーねえよっつって
持ってきてもらったっけ
ミルミル おどなしぐ 待ってんだおん
ほんとに もぞこぐなるな
車屋さ冬タイヤに交換しさ行ったのっしゃ
わらすども誘ったげっと 行がねっつうがら
とうちゃん 一人で行ったのっしゃ
古い冬タイヤ車さ積んで
ホイールは再利用して
四本交換、処分料込みで十二万円だど
タイヤ交換してもらって帰り道
もうすぐうぢさ着ぐっつう頃
ルームミラーちらっと見だっけ
後ろさタイヤ積んであんのっしゃ
! なにっ?
タイヤ 処分料込みで十二万っつったのに
処分してけねがったんだいっちゃ!
ちくしょー
なんで、車屋 出っとぎに 確認しねがったんだい
新しいタイヤだの車検証だのは確認したのに
だめだなー
今から電話して車屋さ戻っかや
あ、ホイールも付いだままだ!
ホイール再利用してけらいんっつったのに
新しいホイールのタイヤにされだんでねえが?
こんで十二万っつうごどは
再利用してれば もっと安ぐなったっつうごどでねが
あーーーっ、めんどくせえなあ
なして、こいなぐなんだべなあ
とうちゃん、途中で車 とめで
車の後ろ 開げで 積んであるタイヤ確認してみだのっしゃ
なんだこいづ?
ノーマルタイヤだっちゃ
他の車のノーマルタイヤ
間違って積んだんでねえが?
ちょっと待でよ???
車屋さ行ぐ時は
古い冬タイヤ積んで
ノーマルタイヤで行ったんだよな
そんで、古いタイヤのホイールだげ再利用して
新しい冬タイヤ取り付けで
古いタイヤは処分してもらったんだっちゃな
つまり、こごさ積んであんのは
行ぐ時に履いでだノーマルタイヤだっちゃな
んだっちゃな
あー、いがった、いがった
っつうが
おいの頭、大丈夫がや?
数日前も
円錐の四面体メッシュの体積 出すべどして
答えがちょうどπになるようにど思って
半径1 高さ3.333...にしたんだど!
3で割るんだがら、高さは3にしねげねっちゃな
なんか 頭 おがしぐなってきたがしゃねな
うぢさ着いで かあちゃんの一言
——タイヤ下ろした?——
日曜日の朝
中学生なったキルキルど
朝ごはん 作りなか゚ら
とうちゃん 話 したのさ
——ミルミルの運動会 見にいったっけ
雨上がりの
びぢゃびぢゃの校庭で
ちっちゃい子
傘の先で泥こねして
泥ついだ傘 振り回して
あららら
周りの人さ 泥 付ぎそうだ
そんでも そのかあちゃん
何にも言わねんだな
とうちゃんですら
なんだべ! って言いそうだげっとな
あど
ほがの子供は
水たまりさ入って
びぢゃびぢゃジャンプして
よその子さ かがってんのに
その親 何にも言わねがったおんな
実は世の中のかあちゃんだのとうちゃんだぢ
汚したりすんの
ぜんぜん気にしねんでねえがや
そんなごど
気にしねえ人の方が普通なんでねえかや
実はおらいが気にしすぎなんでねえかや——
かあちゃんに対する遠まわしな批判
キルキルの共感 得られんでねえがど思ったっけ
キルキル言うのっさ、
——えーっそんなこと言えないでしょ
秋田のミルミルの小学校の運動会に来てた
二人く゚らいのおかあさんにしか
当てはまらないでしょ——
だど
——おおおお! 確かにその通りだ、はっはっはっは
六魂祭に行った帰りの車の中で
ミルミルが突然
——パンオさんっていう人 いる? ——
って きぐのさ
——んだなあ
もしかして いっかもしゃねげっと
いないごどを 確かめんのは 難しいなあ
パンオさんっつう人 一人 見つければ
パンオさん いる っつうごどの ショーメー になっけっと
パンオさん いないっつうごど ショーメー するには
世界じゅうの人の名前 確かめねげねえべ
んだがら、いるっつうごどのショーメーはでぎても
いないっつうごどのショーメーは難しいんだ——
次の日
おもちゃ入れでる引出し 引っ掻き回してだミルミル
——ぶひん ないっ!
ぶひん ないっ!——
って叫んでんのっさ
トランスフォーマーのドアの部品 ねぐなったんだど
かあちゃんのどごさ行って
——ぶひん ないっ!
ぶひん ないっ!——
ってやってんだな
うるせえがら、かあちゃん
引出しの中 探しなか゚ら
——ほんとにないの? ——
っつうど
——ほんとにないよ ——
っつうんだな
怒ったかあちゃん
——ほんとにないんだな?
もし、あったらどうする? ——
って迫るんだな
とうちゃん おがしぐなって
——ははははは、
部品 あるごどをショーメーすんのは
部品 見つければいいがら 簡単だげっと
部品 ないごどを ショーメーすんのは 難しいなあ
うぢの中のあらゆる場所 探さねげねえおんなあ
あるごどを ショーメーすっこどは できても
ないごどを ショーメーでぎっとは かぎんねえべなあ
パンオさんどおんなじだな
もうすく゚八才のミルミル
風呂さ入れなか゚ら
——あした とうちゃん 居ねんだがら
一人で 入んねげねんだがらな——
——だいじょうぶだよ
おかあさんと入るから——
——かあちゃんなんか
一緒に入ってけるわげねえべ——
——今まで、かあちゃん
一緒に入ってけだごどなんかねえべ——
——あるよ。三才のとき——
——おお! 覚えでんのが?——
——うん。一号とうの時のおふろで
おかあさんか゚こっちにすわって
ぼくか゚こっちにいて
こんなふうにだいて——
——へー、そんなの覚えでんだ——
——うん。五才のときもいっしょに入ったよ
なんかいかあるよ——
——んだな。とうちゃん居ねえどぎだな
んでも、もう一緒に入ってけねえよ——
——うん。だから、おとうさん、
また こうやって横にねるやつやって——
——なにっこの!
あした 一人で
ミルミル 電子ブロックで
しばらぐ遊んでだなあど思ってだっけ
電子ブロックぶっちらがして
他のごどやりだしたんだな
——ミルミルっ!
電子ブロックかだづげろっ!——
——えーっ、だって おねえちゃんもやったもん——
始まった
こっからまだ
ミルミルどキルキルの
ひともんちゃくだなあ
って思ってだっけ
——じゃあ、おねえちゃん、
いっしょにかたづけよ——
だど
——おーっ!
そいづは ながなが建設的だなあ——
——ケンセツテキってなあに?——
——おねえちゃん 一緒に片付けっぺしって
一緒に片付ければ、ちゃんと片付いて
ちゃんと いい結果が得られっぺ
ちゃんと いい結果が得られっから建設的なんだ
例えば、
おねえちゃんもやったんだがら おねえちゃんかたづけろっ!
ミルミルやったんだがら ミルミル片付けろっ!
おねえちゃんかたづけろっ!
ミルミル片付けろっ!
ってやってだら
いづまでも片付がねえべ
こいなのは、いづまでも いい結果が得らいねえがら
非建設的っつうんだな——
ミルミル一年生の頃
風呂 入れでだっけ
——あした二十才になる人
おさけ のんだら たいほされる?——
って聞いでくんだな
——んだなあ
次の日 二十才になる人だったら
まあ、いいんでねえが
ミルミルも二十才なったら
とうちゃんど一緒にお酒 飲むが?
とうちゃんど一緒にスキーに行って
温泉に入って
一緒にお酒 飲むの
やりてえなあ——
っつう話、よぐお風呂でしてだんだな
ミルミル二年生なったっけ
だんだん悪い子になってきて
はっぱり言うごど 聞かねんだな
お風呂さ入っても
さっさど頭 洗えっつっても
さっぱり言うごど聞かねえで
遊んでばりいんだ
怒ったとうちゃん
——あーあー、ミルミル ばがだったなあ
言うごど 聞かねえ人
育でらいねえよ
言うごど 聞かねえ人
一緒に暮らせねえよわ
あーあー、ミルミル ばがだったなあ
……
ミルミルっ、おっきぐなったなあ
とうちゃん わがっか?
覚えてる?
ミルミルっ、何才なったあ?
二十五才なったのがあ
おっきぐなったなあ
今 なにしてだの?
何のお仕事してんの?
へー、そうがー
そう言えば ちゃっこい頃
算数 得意だったおんなー——
って脅し かげでみだのっさ
そしたっけミルミル
——えっ? いっしょにスキー行かないの?
二十才なったら いっしょにスキー行かないの?——
だど
よぐ覚えでだなあ
かあちゃんどキルキル 買い物してっから
とうちゃんどミルミル 車の中で待ってっとぎ
とうちゃん ミルミルさ かけ算の筆算 教えでだんだな
97✕97=9409どが
99✕99=9801どが
そしたっけミルミル
——98✕98は96なんとかになるかな?——
っつうんだな
——なんで、6になると思うの?——
——だって、97✕97か゚4で99✕99か゚8だから
そのあいだだから6じゃない?——
だど
——んでミルミルさ問題だしてけっから
1, 4, 9, 6, 5, 6, 9, 4, の次 なにくる?——
——1?——
——なんで1だど思った?——
——だって、5から6, 9, 4, 1ってぎゃくになるから——
——そうが。んで
1, 4, 9, 6, 5, 6, 9, 4, 1, 0 の次 なにくる?——
ミルミル しばらぐ考えでがら
——1?——
——なんで1だど思った?——
——だって、3, 5, 7ってたしてったから——
——おおー! なるほど
確かにその通りだな
そいづは とうちゃんの考えだのどは違うげっとな ——
——おとうさんは どう考えたの?——
——とうちゃんは
1✕1=1, 2✕2=4, 3✕3=9, 4✕4=16...
の一桁目だげ取ってったんだ——
ミルミル 小学二年生なったっけ
ながなが とうちゃんど一緒に寝ねぐなったんだな
かあちゃんどは一緒に寝るくせにな
かあちゃんど一緒に布団に入って
びだびだって甘えなか゚ら
しりとりだのなんだのやってんだ
ミルミルも来年は三年生だがら
もう とうちゃんは一緒に寝らいねえがもなあ
クリスマス一ヶ月前のとうちゃんの作戦
サンタポイント
ミルミル さっぱ 言うごど聞かねぐなって
悪いごどばりしてっから
音読だの歯みか゚ぎだの
言うごど聞ぐたんびに1ポイント=25円
言われる前にやれば2ポイント
言われでやんねがったらマイナス1ポイント
もの壊したり、キルキルば叩いだりしたらマイナス2ポイント
んでも、悪いごどばりしてっから
ながながポイントたまんねんだな
とうちゃんの提案
——とうちゃんど一緒に寝だらプラス4ポイント——
——ええー、倍ポイントの倍ポイントで64ポイントならいいよ——
久しぶりに とうちゃんの布団に入ってきたミルミル
——99×99はいくつ?——
だの しきりに聞いでくんだな
——(100-1)の2乗だべ
っつうごどは10000-200+1だがら9801が——
どが とうちゃん答えでだのっさ
93×93辺りまで行ったっけ
ミルミル 答えを予想し始めだんだなあ
——しちしちしじゅうくだから8649かなあ?——
どが
っつうが、ミルミルの予想は当たってるし
とうちゃんの 計算より早いんだ
——89×89は?
11×11は121だから、7921かな?
12×12はいくつ?——
12×12は自では計算でぎねえようだがら144って教えでやったっけ
——じゃあ、88×88は7744かなあ?——
——えー! ミルミルっ、どうやって計算してんの?
とうちゃんの計算より早いな
(100-12)の2乗を計算してんのが??——
——13×13はいくつ?——
——169が——
——じゃあ よそうでは、87×87は7569かな?
よそうだよ。よそう——
——どうやって予想してんの?
(100-13)の2乗をやってんのが?——
——計算はしてないんだけど
99×99か゚9800
98×98か゚9600
97×97か゚9400
って200ずつへってくでしょ
だいたいね、だいたいだけど
で、いんいちか゚いち(9801)
ににか゚し(9604)
さざんか゚きゅう(9409)
ってふえていくでしょ
そうやって よそうしてんの——
とうちゃんか゚ ミルミルの予想方法 聞いで盛り上がってだっけ
隣の居間でキルキルどテレビ見でだかあちゃん
——いつまで話 させてんの
さっさと寝せたらいっちゃ——
とうちゃんに対する日頃の不満ば
キルキルに愚痴ってるみでだな
とうちゃんの幻聴も入ってっかもしゃねげっと
——フィギュアスケートでピアノの曲 使われたからって
いちいち弾くのやめてほしい
何回も聞かされて うるさい——
みでえな感じだったがや
間違いなか゚らゆっくり練習してだショパンのバラードも
相当に気にさわってしまったみでだ
とうちゃん、ミルミルの頭 撫でなか゚ら、小声で
——ミルミル、ほら、もう寝っぺ
ミルミル 三才の頃だったがや
四才の頃だったがや
なぞなぞに 凝ってだんだな
一所懸命 問題だそうどすんだな
——ふらいぱん は ふらいぱん でも
たべられない ふらいぱん は なーあに?——
——なに? フライパンはフライパンでも
食べられないフライパンがあ
なんだべなあ、難しいなあ
あ、わがった。フライパンがな?——
——ぴんぽーん、せーかい!
今シーズンも秋田は雪 振り始めんの遅くて
年 明げでも 秋田市のスキー場は 今一つ雪 積もってねんだな
ミルミルば まだスキー連れでってねえがらな
小学校 冬休みのうちに 連れで行っておぐが
仙台の施設さいる ずんつぁんも どんどん食べねぐなってきてで
年末には 子供だぢ連れで会いに行ってっけっと
あど どのけ持づが分がんねがら
もう一回 仙台にも行っておいだ方いいんだげっと
まずは土曜日にミルミルば スキーさ連れでって
日曜にとうちゃんだげ仙台さ行ってくっか
っつうごどで
土曜は湯沢のちゃっこいスキー場さミルミル連れでって
日曜は日帰りで仙台
ずんつぁんのドイツ語の辞書も持ってってみっか
ずんつぁんの昔の本
数学関係のやづだの
学生時代のノートだの
昭和初期の大学のノートは英語だのドイツ語だので書いであんだな
っつうが、教科書も英語だのドイツ語だべし
あの当時は日本もまだ
高等教育の教科書か゚日本語に翻訳さいでねがったんだべな
今は大学院レベルの高等教育も
日本語で学ばいる いい時代になったのに
授業の英語化だの
なして ほいな逆行すっこど してか゚んだべな
そいづは いんだげっと
ずんつぁんの昔の本だのノートだのには
筆記体のローマ字でサイン 書いであんだな
H. L. Goto みでぐ
まあ、H.は名前のHROだべな
次の L. はなんだべな
ばんつぁんど既に結婚してだらば
ばんつぁんのイニシアルがや?
んだごって、どっちがっつうどR.でねえがや
この L. は気にはなってだげっと
聞いでみだごどはねがったな
ずんつぁんのどご行っても
あんまり 喋るネタもねえがら
この辞書 持ってって聞ぐの
ちょうどいいがもしゃねな
仙台の施設 行ったっけ
ずんつぁん、
——おお、YUT 来たがぁ——
って、二十代の甥っ子ど間違ってんだっけな
姉貴か゚
——なんだべ、HMHKだよっ——
つったっけ
——なんだ、HMHKが——
って
晴れ晴れどした顔こして
調子 良さそうに見えだな
介護スタッフの人 来て
痰の吸引 やってもらったんだげっと
今ひとつ ちゃんと取れねんだな
スタッフの人、
鼻がら管 入れだ方 取りやすいんだげっとねえ
っつうのっさ
んだがら、ずんつぁんさ
鼻がら管 入れでみる?
っつうど、
——やんだ——
っつうのっさ
スタッフの人も何回が
ずんつぁんさ頼んでみても
やんだっつうがら
んで、しょうか゚ないねえ
って、諦めかげでだっけ
ずんつぁん、突然
——んで、やっか?——
っつって、みんなの笑い誘ってんだ
ながなが ずんつぁんらしいな
それがら、とうちゃん
ばんつぁんの部屋の方にいだんだな
そしたっけ、急に姉貴に呼ばいで
ずんつぁんのどごさ行ってみだっけ
スタッフに着替えどがさいでる途中だったようだげっと
顔色 白ぐなってで
反応もねぐなって
どうも、いづの間にが
死んでだみでえだど
その後 医者 呼んで
臨終の確認したんだげっと
まあ、苦しんだ様子もねえし
ばんつぁんも姉貴もとうちゃんも そばに居っとごで
安らかに死んだんでねえすかや
姉貴か゚仕事の合間に施設さ通って
一所懸命 世話してけでだごどもあっけっと
いい死に方だったど思うな
とごろで
あの L. はなんだったんだべな
ミルミル、小学四年になっても
相変わらずゲーム中毒なんだな
ゲームの時間か゚終わっと
今度はパソコンだおん
パソコンも
いっそ YouTubeでゲームの実況だの
そいなのばり見でんだ
んだがら とうちゃん
シェルスクリプト組んで
50分経ったらば
——あど、10分でシャットダウンんすっからな!——
って書いだ画像ファイルば表示して
その9分後に
——あど、1分でシャットダウンんすっからな!——
って表示してがら1分後に強制シャットダウンするようにしたのっしゃ
こいづか゚ わらすどもには評判 悪いんだな
突然その表示か゚出るせいで
ゲームの操作ば 失敗すんだっつおん
んだがら、このスクリプトは
ときどき改良してだのっさ
そしたっけ、
「シャットダウンすっからな!」の画像ファイルか゚ねぐなってで
おがしいなあどは思ったげっと
まあ、不要なファイルば まどめで消す時に
間違って消してしまったんだべなあ
く゚れえに思ってだのっさ
とうちゃん、歯ぁ磨いでだっけ
ミルミルか゚得意な顔コしてニヤニヤしてんだな
——あのね、おとうさん何て打ったか分かったから
「シャットダウンすっからな」のファイル
どこにあるか探して消したよ!——
得意満面だ
——なにっ! クラッキングしたのが?
んだがら、画像ファイル消えでだんだなっ
履歴 使ってディレクトリに入ったのが?——
——わかんないけどね
おとうさん何て書いたか残ってたから
それ使ってファイル 探して消した——
——なるほどなあ
んで、画像ファイル ねぐなったがら
「ファイルがありません」って表示さいだんでねえが?——
——そう言えば、
「なんとかファイルがありません」みたいに出てたよ——
——んだべなあ
「シャットダウンすっからな」っつう画像ファイル消しても
「シャットダウンすっからな」っつう画像か゚表示でぎねぐなるだげで
シャットダウンしないようにはなんねえべなあ
シャットダウンのコマンド出してんのは
画像ファイルではねえがらな——
——だからね、
「なんとかファイルがありません」って出て
シャットダウンされたよ——
——んだべなあ——
シェルスクリプト見つけらいんのも
時間の問題がや
権限 変えで
削除だの編集でぎねえようにした方か゚いいが
わんざどクラッキングでぎるようにしておいだ方いいが
小学四年生なったミルミル
一緒に風呂 入ってだっけ
——インドネシアの人 片手で2048まで数えられるよ——
っつうんだな
ミルミルも 嘘 言うがら
こいづもガセネタっぽいげっと まあいいべ
——2048っつうごどは11ビットが?
指で5ビットだべ
手首で6ビット
肘 曲げで7ビット
腕 上げで8ビット
うーん、
肘の回転でもう1ビット
腕の上げ方で何ビットがでぎっか?——
ミルミルは腕 途中まで上げだり
前にやったり後ろさやったりしなか゚ら
こうすればできるよ
だの適当なごど 言っている
——でぎっかもしゃねげっと
片手で11ビットは難しんでねえが?——
ミルミルか゚指ば途中まで曲げたりして
これならできんじゃないだの言ってっから
——んだな、指ば3進法にしたら
もっと数えらいんな——
——2048以上 数えられる?——
——んだな、指だげで3の5乗だがらな——
とうちゃんか゚指 折りなか゚ら
完全に折り曲げだら0
半分 折り曲げだら1
伸ばしたら 2
みでぐやりなか゚ら、
1, 2, 3, 4, 5, 6,...
って数え始めだっけ
——次か゚9でしょ
その次か゚27で、その次か゚81でしょ——
と、ちょっきりになっとごば予想して数え始めだ
——ぼく数えられるよ!——
って得意になって指 折り曲げでんだげっと
ミルミルの3進法は、ちょっと変なんだな
親指か゚1の位、人差し指か゚10の位なんだげっと
3まで数えで人差し指だげか゚伸びてる$(10)_{3}$になって
まあ、ミルミルの場合は、
伸ばしたら1で、半分曲げたら2のようだげっと
次の4つまり3進法で$(11)_{3}$は
親指ば1にしねげねんだげっと
10の位の人差し指ば曲げで$(20)_{3}$にしてしまってんだな
——そんではおがしいべ
1の位まだ増やせるうぢは
1の位がら増やさねげねえべ——
っつって とうちゃん 数え直してみせでだっけ
自分のやり方でも
ちゃんと切りのいいどごで9, 27, 81になって
数えられるって怒ってんだな
——そりゃあ、順番はともかく
3通りずつ組み合わせでいげば
243まで数えられっぺげっと
そいづは3進法どは違うな——
みでぐ言ったっけ、ますます腹 立ったんだべな
——えー、おとうさん 嘘ついた
片手で243まで数えられるって
嘘 ついた
243って、こうでしょ——
グーの右手ど左手の小指1本ば示す
——なるほどな
243は3進法で$(100000)_{3}$だがらな
片手だど、0がら$(22222)_{3}$の242までで243通りだな
0がら242までの243通り数えらいるっつうごどだな——
——だって、おとうさん
片手で243まで数えられるって言ったから
嘘ついたんだ
へー、自分か゚嘘ついたの認めないんだ
おとうさん 嘘ついた……——
しっかし憎たらしいわらすだな
んでも次の日
一緒に風呂 入ったらば
1の位がら順番に増える
正しい3進法の数え方ばマスターして
——ほら、ぼく数えられるようになったよ——
だど
かあちゃんの方のじいじ 死んでがら
ばあばのうぢで朝ごはん 食べでだどぎ
キルキルがパンさマーガリン 塗ってだがら
——そう言えば、
じいじ、マーガリン使ったあど、
バターナイフ 舐めでがら戻してだっけなあ——
——えーっ、なんで教えでくれなかったの!
じいじの虫歯菌だの歯周病菌だの
それがらまだしばらぐして
ばあばのうぢで朝ごはん食べでっとぎ
キルキルがヨーグルトさ きなこ入れっぺどして
パック入りのヨーグルトの上さ きなこバ山盛りにして
いがにも こぼしそうなんだな
そいづ 見でだ ばあば
——なんだべ、キルキル、上 少し食べで、穴 あげでがら 入れらいん——
——だって、そのためにスプーン 二っつ使いたくないから——
——いいがら、そんなの別におんなじスプーンで——
—— ? ——
ばあばが、どいなぐすんだが 見でだっけ
まずスプーンでヨーグルトの上バ すくって一口 食べで穴 あいだどごさ
同じスプーンで きなこ すくって 入れでんだな
——えーっ! ばあば、今、舐めたスプーンで きなこ 取ったの?——
——んだよ、いっつも そうしてるよ——
キルキル 受験生のくせに ながなが 風呂 あか゚んねんだよな
とうちゃん 台所で あしたの朝 食べる 餡かげ焼きそばの餡だげ作って
キルキル 風呂 あか゚んの待ってだんだよな
そしたっけ 中学生なったミルミル
——なにしてんの——
っつうがら
——キルキル 風呂 あか゚んの 待ってんだ——
つったっけ
小皿さ餡 よそって 味見してんだっけ
スプーンも使わねでペロペロ舐めで
そしたっけ 小皿さ 水 ちゃちゃっど かげで そのまま流しさ置ぐんだおん
——なんだべ あんだ 皿 洗わねえのが?——
ミルミル 照れ隠ししなか゚ら 一応 皿 洗ったいがど確認してだっけ
——絶対熱って知ってる?——
どが、全然 関係ねえ話 始めんだよな
——なにや 絶対零度のごどが?——
——絶対零度のことじゃないよ。絶対零度の逆っていうかね、一番高い温度のこと——
——温度って分子の運動だがら、なんぼでも 大っきぐなんでねえのが——
——一番 高い温度は無限じゃないよ。ビックバンのときにね。なんていうのかな——
——宇宙のエネルギーば 全部 合計したよりは大っきぐなんねってが?——
キルキル 風呂 あか゚ったようだな
——そうじゃなくてね、ビックバンのときに一番 高い温度になってっていうかね——
——そうがもしゃねげっと、今の宇宙にあるエネルギーの合計ば全部 熱に変えだのか゚最大値っつうごどでねえのが?——
——そうじゃなくてね、ビックバンのときにね、なんていうのかな、検索すればわかるよ。検索して——
——あっ! あんだど喋ってっと どんどん時間ねぐなってしまう。もう十一時なる! キルキル 風呂あか゚ったがら、とうちゃん 歯あ磨いで風呂
そいづ聞いでだキルキル
——それってミルミルと話すのか゚時間を忘れるく゚らい楽しいってことじゃないの?——
だど。言うっちゃな
――おとうさん
もう寝る時間だ
――まだ酔っ払い つれでくんでね――
――絶対
――だれえ、
酔っぱらい来たって寝でっちゃ――
――んだあ、酔っぱらい来たって寝でらいよ――
――んだ、寝でっちゃ――
――絶対、
――んだ、絶対
おかあさんど おねえちゃんど ぼぐで、そいな話してる
もうとっくに夜中になって
おかあさんも おねえちゃんも ぼぐも寝でる
ガダンゴドン!
あっ!
玄関で話声 する!
――酔っぱらい つれできたあ!――
おかあさんは布団がら起ぎ上か゚る
――いいがら、寝でらいん!――
――そういうわげに 行がねっちゃ――
――絶対
おかあさんは、玄関さ出でいぐ
――あらー、せんせい、どうぞ上か゚って下さぁい――
!
!
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なんで
おかあさんは台所 行って
酒コ だの つまみだの用意し始める
ぼぐ ど おねえちゃんの寝でる隣の部屋で
おとうさんど ナンダガせんせい か゚
もう、うるせえし、ハラハラして
ぜんぜん寝らいね
そのうぢ 決まって酔っぱらいか゚ 言い出す
――あんだいのフミヒコくん、
とうとう来た!
ガラっと、ふすまか゚開ぐ
――ほれ、フミヒコっ、こっち来て挨拶しらいん――
やんだがったなあ
酔っぱらい
おらいのおとうさん
酔っ払って
洗面所でゲーゲーって
よぐ吐いでだっちゃな
おいも子供の頃は、なして吐いでんだが、わがんねがったな
ほして、一通り吐ぐど
――吐いだがら腹 減った――
だど
――なんか、作ってけろ――
だど
ほして、おかあさん そーめんだの作り始めんだっけ
――おとうさん、吐いだがら、腹 減ったんだっつおん
なんだべ、好かねごだ――
おら、如何にも そーめん喰いでそうにして見でる
――フミヒコ、あんだも食べっか?――
――んー、食べる――
おいは、おとうさんど一緒なって、そーめん 食べでる
こいなごどもあった
さんざん酔っ払って
――あんまり飲んでこねがったがら
酒 燗にしてけろ――だど
おかあさんは台所で
――あんなに酒 飲んできて
まだ飲むんだど
水 混ぜだって わがんねんでねえ――
――んだ、んだ、水 混ぜろ――
おかあさんど おねえちゃんで 盛り上がってる
おねえちゃんは 徳利の日本酒バ 半分にして
あど半分 水 入れでる
おいも
――酢ぅ、ちょっと混ぜだほう いんでね?――
ど提案したげっと
――そんなのだめだぁ
いいがらまず――
ど採用してもらえね
電子レンジで日本酒の水割りバ 熱燗にして
おとうさんのどご 持ってぐど
しばらぐの間 機嫌よさそうに飲んでんだっけ
おねえちゃんだの
台所で もう笑い堪えでんのっさ
しばらぐ 機嫌コいぐ飲んでだ おとうさん
突然、顔色 変わって
――なんだ こいづ?
水 入れだな――
つって、立ち上がって台所さ来んのっさ
ほして、徳利の水割り捨てで
日本酒 注き゚始めんだおん
――だめだ、飲ませんな!――
おいは叫ぶ
とごろか゚ おかあさんは
――んだがら あんだだぢ、だめだっつったっちゃ――
だの責任転嫁する始末だ
いやー、惜しがった
ほんのちょっと酢ぅ混ぜれば
ばれねがったがもしゃねのに
ブーン、ブーン、ブーン
目え覚める
二階でバイブレーター鳴ってる
なんでや!
バイブレーター鳴らすなって約束したのに!
たぶん二時頃だ
こいづで起ごさいる
せっかぐ寝でだのに
なじょすっぺ
バイブレーターは二分く゚れえ鳴り続げる
どうせキルキルは何分 鳴り続げようが、平気で寝でる
人んどご 起ごしといで
せっかぐ寝てだのに
なじょすっぺ
バイブレーターは止まったようだげっと
たぶん、まだ二十分後に鳴る
今日はこれで終わりがや
いや、たぶんまだ鳴る
たぶん、あど十分後く゚れえだ
仮に今まだ寝れだどしても、十分後にまだ起ごさいる
なじょすっぺ
気になって 寝らいね
ブーン、ブーン、ブーン
案の定、まだバイブレーター鳴り始める
とうちゃんは二階さバイブレーター停めさ行ぐ
キルキルは当然 熟睡してる
——なんでバイブレーターかげんのや!
バイブレーターぜったい かげんなって何回も言ったべ!
スマホどごさ あんだ
早ぐスマホ出せ——
ようやぐ起きたキルキルは意識朦朧どしてスマホいじってる
——なんで約束 破んのや!
ぜったいバイブレーターかげんなって言ったべ!
バイブレーター鳴らさいだら、とうちゃんは必ず起ごさいんだ!——
——それは おとうさんか゚病気なだけでしょ
おかあさんもミルミルも起きないんだから——
——そうがも知ゃねげっと、んだがらって、
とうちゃんバ 起ごしていいごどになんねえべ
とうちゃん仕事あんだがら、ちゃんと寝だいんだ
朝六時半までバイブレーターかげんなって約束したべ!——
——間違えた——
って言ったっけがな
とにかく受験生時代のキルキルは謎だった
体内時計 壊れでで
夕飯 食べっと寝でしまって
夜中がら焦って勉強しようどすんだがなんだが
合理的に考えらいる子だど思ってだげっと
この時期の行動にはまるで合理性ねがったな
スマホ買い与えだのも失敗だったが知ゃねな
スマホでダメになる子の典型みでえなもんだっちゃな
思えば小学校の頃がら
目覚まし鳴っても寝続げらいるように訓練してだがらな
——目覚まし鳴ったらすく゚に起ぎろ
鳴ったまま寝でだら
目覚まし鳴っても寝続げらいるようになってしまうど——
って、さんざん懸念してだ通りに訓練されでしまったおんな
このまま大学生なったらなじょすんだべ
安アパートで変な時間に目覚ましだのバイブレーターだの
鳴らし続げだら
それごそ殺されんでねえのが
っつうが、毎晩 繰り返し鳴るバイブレーターに
とうちゃんですら殺意か゚湧いだ
それ以前にそもそも朝 起きて大学に行げねんでねえのが
んだがら、高校のどぎも
とうちゃんは、本人か゚目覚ましで起ぎれねがったら
遅刻させで社会的恥かがせろ
っつう主義だったげっと
かあちゃんは、学校に迷惑かがっからって
毎朝 起こしてやってだおんな
それも
まあ、大学生なったら
たぶん、大学がら呼び出しかがっぺなあ
今時の大学だがらなあ
お宅のお子さんは授業に出席してません
ってなあ
いよいよ とうちゃんか゚呼び出さいる立場になんなあ
って
そしたっけ
まあ、コロナでオンライン授業どが
特殊な状況もあるにせよ
意外にも
ちゃんと一人で起きて
大学に行ってるようなんだっけな
爆音目覚ましだのバイブレーターだの さんざん鳴らして
熟睡し続げでだ人か゚だよ
まあ、甘えがや
そんなもんだべな
年末に秋田さ
朝 起ぎれねぐなってだがらな
何日の朝にオンライン授業あっから
かあちゃんに起ごしてけろだど
なにすや
あんだ、一人暮らしの時はちゃんと起きてんだべ?
甘えがや
キルキル一人で階段 のぼれるようになった頃だがら
二才く゚れえがや
集合住宅の四階さ住んでだがら
結構 のぼんねげねんだよな
そいづ
一階がら四階まで「自分で」のぼるって きかねんだおん
よたよたって
今にも
ながなが気ぃ遠ぐなるような時間かげで
ようやぐ四階さ つながる階段まで のぼってきて
あど一段で四階の踊り場だっつうどごで
とうちゃん、キルキルの背中バ
ちょっとだげ支えでやったのっさな
そしたっけ
――うわーーーんっ、じぶんでーっ!、じぶんでーっ!――
って、始まったんだおん
――キルキルすごいなあ、一人で四階まで のぼれだんだよー――
って、とうちゃんど かあちゃんでさんざんフォローしても後の祭りだおん
背中ちょっとでも触られだらダメなんだっつおん
近所迷惑だがら部屋さ入れだげっと
廊下さ寝っころか゚ってバダバダ転か゚りなか゚ら
――じぶんでーっ!、じぶんでーっ!――
って絶叫しなか゚ら泣ぎ喚ぎ続げでんだっけ
結局なじょしたんだっけがな
まだ一階まで とうちゃんか° だっこしてって
まだ四階まで「じぶんで」のぼらせだんだっけがなあ
いやー、ほんとに しゃましたな
こいづもその頃だったがや
キルキル チョココロネのパン 好ぎだったんだよな
デパートの地下のパン屋さ行って
かあちゃんに 頼まいだパン 選んでお盆さ のせで
キルキルの好ぎな チョココロネもあったがら
――キルキル、チョコパン買うが?――
っつって、チョココロネもお盆さ のせで
会計のどごで、お盆のパン 袋さ入れでもらって
お金 払ってだっけ
――うわーーーーーーんっ、――
って突然 おっきい声で泣ぎ始めんだよな
突然 泣ぎ出したがら店員もびっくりしてだようだっけ
とうちゃんは
――チョコパン買ったよ、チョコパン買ったんだよ――
って何回も言っても ますます おっきい声で泣ぎ続げでだがら
チョコパン買ってもらえねがった
って思い込んだのか°原因がどうがもわがんね
店員も困った顔してだっけがら
とうちゃん さっさどお金 払って
キルキルば 脇のベンチさ連れでって
――ほら、チョコパン買ったんだよ――
って袋がらチョコパン出して見せで
ちょっと
小岩井農場さ行ったのも二才のどぎだったな
駐車場に着いで
チャイルドシートがら抱っこして下ろされだのか゚ダメだったのが
帽子バ 自分で かぶるっつうんだったが
自分で 変な向ぎに かぶった帽子バ かあちゃんに直さいだのか゚ダメだったのが
――うわーーーんっ、じぶんでーっ!、じぶんでーっ!――
始まってしまったんだおん
せっかぐ小岩井農場さ来たのに
落ぢ着ぐまで しばらぐ時間かがったなや
こいづも その頃がや
とうちゃん キルキルば 牛丼屋さ 連れでったんだな
確か、喰い終わって帰るどぎだったような気いすんな
牛丼屋の駐車場で転け゚まわって 泣ぎ始めんだおん
とうちゃんキルキルば だっこして
何回もチャイルドシートさ のせっぺど すんだげっと
乗せらいだ途端に脱力して、スルスルっと滑り落ちて
駐車場のアスファルトで転か゚りなか゚ら
足ばだばだして泣ぎ喚いでんだおん
なんだが とうちゃん 虐待でもしてるみでえで 困ってしまう
――なにしたのや? 自分で乗りてえのが? ――
いろいろ聞いでも しばらぐ泣ぎ続げでる
子供んどご 泣かせでる とうちゃんバ
不審そうに眺めなか゚ら牛丼屋に入ってった客か°
喰い終わって出できても 相変わらず泣ぎ喚いでっから
とうちゃん ますます 虐待してっと 思わいでしまう
――泣いででも とうちゃん なにしたのが わがんねえがら
なして泣いでんだが 言ってみろ
自分でチャイルドシートさ乗りたいっつうごどが?――
どうも「ちか゚う」って言ってるみでだげっと
泣ぎなか°ら言ってっから、なんつってっか さっぱりわがんねんだな
――泣ぎなか°ら言っても なんって言ってんのが わがんねえがら
ゆっくり 言ってみろ――
そしたっけ、しゃぐりなか°ら
――っみっ、っどっ、っりっ、っのっ、っかっ、っみっ――
っつったっけがなあ
店のテーブルさ あった なんかのお知らせ の ちっちゃい 紙切れ
のごどだったがや
――ああ、あの緑の紙のごどが?
あんだ 要らねえど思ったがら
とうちゃん ゴミ箱さ 投け゚だんでねえが
あの緑の紙 持って来るんだったのが?
んで、まだ店さ戻って もらって来っか?――
そんで、わざわざ店さ戻んねくてもいいっつうごどになったんだが
なんとか 落ぢ着いだんだげっと
キルキルの足 見でみだっけ
男鹿の温泉さ泊まりさ行ったのは いづだったべな
三才が四才く゚れえになってだがや
部屋で食事の時も
歩ぎ回ってだんだが
さっぱり言うごどきがねくて
食事 運んで来たホテルの人がら
――あら、言うごど聞がないど ナマハゲ来るんだよ――
だの脅さいでだっけな
次の朝 ホテル出る時間なって
あんまり時間ねえがら
かあちゃんど とうちゃんで ささっと荷物 まどめで
ゴミ投げだり 片付げ方したり してだのっさな
そしたっけ
――うわーーーーーんっ――
って始まって
っつっても、もう出がげる時間だがら
とにかく 部屋がら連れだして
フロントまで連れでいぐ間じゅう
ぎゃーぎゃー泣ぎ喚いでっから
他の客は 朝がら いい迷惑だっちゃな
かあちゃんか° 会計 済ませだ後も
フロントで 泣き喚いでで 外に出っぺどしねんだな
なんだっけがな
テーブルの上にあった ティッシュ二枚く゚れえ
持ってくるんだったっつうんだっけがな
んだがら、部屋さ戻るっつうんだっけがな
――んで、取りに行っか?――
って とうちゃん言ったっけ、かあちゃんか゚
――いいがら、もう掃除 入ってっから――
っつう感じだったっけがな
キルキルか゚フロントで転か゚り回ってる間
ホテルの人はお見送りしねげねえがら、待ってでけでんだよな
とうちゃんは
――落ぢ着ぐまでしばらぐかがんので、あと いいですので
どうもすいませーん――
みでぐ何回が言ったっけ、ホテルの人も困惑しなか゚ら
――そうですかー、それじゃあ失礼します――
みでぐ持ち場さ戻って
いやー、朝の忙しいどご、迷惑な客だごだ
――キルキル、ほら、もう行ぐよっ――
って、かあちゃんど とうちゃん いい加減 出でいぐべどしたっけ
観念したキルキル
玄関さ一列にきれいに並べであるスリッパば
最後に蹴っ飛ばしてがら出できたっけな
しっかし ろくてねっちゃな
ほんとえば、もっと色々どあんだげっとも、おしょしがら取り敢えず
このけにしとっから。んでまず、まだほのうぢ。
続ぐ。
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